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平成16年第二審第26号
件名

プレジャーボート丸一丸潜水者負傷事件
[原審・横浜]

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成17年7月28日

審判庁区分
高等海難審判庁(平田照彦,大須賀英郎,安藤周二,坂爪 靖,長谷川峯清)

受審人
A 職名:丸一丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a,b,c,d
指定海難関係人
B 職名:潜水者
補佐人
e

第二審請求者
補佐人a

損害
丸一丸・・・ない
潜水者・・・10日間の通院加療を要する右大腿部挫創等の負傷

原因
丸一丸・・・見張り不十分
潜水者・・・機関音を聞いた際,直ちに退避行動をとらなかった

主文

 本件潜水者負傷は,丸一丸が,見張り不十分で,浮遊状態の潜水者を避けなかったことによって発生したものである。
 潜水者が,丸一丸の機関音を聞いた際,直ちに退避行動をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月14日10時41分
 神奈川県三崎港
 (北緯35度08.3分 東経139度37.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 プレジャーボート丸一丸
総トン数 0.6トン
全長 6.20メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 29キロワット
(2)設備及び性能等
 丸一丸は,船外機付き和船型FRP製プレジャーボートで,操船者が船尾端の物入れに腰掛けて船外機の舵柄による操舵を行うようになっていた。
 船首方に生じる死角については,約5ノットの対水速力で航行するとき,船首がやや浮上して5メートル先までの海面を遮る状況となるほか,船首部の竿立てに置かれた釣り竿等が見通しを妨げていたが,船首を左右に振ることで解消されていた。また,操舵によって前方5メートルの海面の浮遊物を避けることができた。

3 三崎港城ケ島大橋付近海域の状況
 三崎港は,神奈川県三浦半島南端と同端南側に位置する城ケ島との間が東西方向の水路になっており,その東側及び西側に港口がそれぞれ開き,南北方向に長さ575メートル幅11メートルの城ケ島大橋が架けられていた。城ケ島大橋は,三浦半島側の水路に第5橋脚,同橋脚から南方に88メートル隔てた城ケ島側の水路に第6橋脚,及び同島側の岸辺に第7橋脚が設置されていた。漁船及びプレジャーボート等は,第5橋脚と第6橋脚の間を通航するほか,第7橋脚北側にかけて浅瀬をなしている第6橋脚南側を通航することもあった。また,第7橋脚南西側の砂浜は,バーベキューや海水浴を行う人達が集う場所になっていた。

4 事実の経過
 丸一丸は,A受審人が1人で乗り組み,同乗者1人を乗せ,釣りの目的で,船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,平成15年9月14日10時27分神奈川県三浦市の船揚場を発し,城ケ島南西方沖合の釣り場に向かう途中,釣り餌の購入のため,城ケ島大橋西方の餌売り場に寄ることとし,三崎港内を西行した。
 A受審人は,船尾端右舷側に腰掛けて左手で船外機の舵柄を握り,見張りを行うとともに,船首部の箱に腰掛けて船首方を向いた同乗者に見張りの補助を依頼し,10時38分半少し過ぎ三崎港東口南防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から315度(真方位,以下同じ。)225メートルの地点で,針路を城ケ島大橋中央部に向く305度に定め,5.4ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で進行し,10時39分半少し過ぎ防波堤灯台から310度395メートルの地点に達したとき,同橋第6橋脚南側に向首する296度の針路に転じ,三崎港の水路の右側を航行しないまま,同じ速力で続航した。
 ところで,A受審人は,これまでの三崎港の通航経験から,夏季には海水浴を行う人が城ケ島大橋付近で泳いだり,潜ったりしていることを知っていた。
 10時41分少し前A受審人は,波がほとんどなく太陽光線の海面反射が少ない視界良好の状況下,釣り仲間と連絡を取ろうとして同乗者に携帯電話をかけさせているうち,正船首方30メートルのところにB指定海難関係人が腹ばいとなって耳まで海中に浸け,頭部及びシュノーケルの一部を海面上に出して浮遊しているのを視認できる状況であったが,海面には泳いでいる人がいないものと思い込み,船首を左右に振って船首方の死角を解消する見張りを十分に行わなかったので,浮遊状態のB指定海難関係人に気付かず,同人を避けないまま進行した。
 丸一丸は,10時41分防波堤灯台から305度605メートルの地点において,原針路,原速力のまま,船首部がB指定海難関係人の右肘と接触した。そのとき,同人の左手に持っていたやすの尖端部が右大腿部に突き刺さった。
 当時,天候は晴で風力2の北東風が吹き,潮候は下げ潮の末期にあたり付近に微弱な西流があった。
 A受審人は,船首部付近に衝撃を感じて左旋回したところ,海面上にB指定海難関係人を認めて丸一丸に収容した後,城ケ島の岸壁に着け,負傷していた同人を救急車で病院に搬送する措置をとった。
 また,B指定海難関係人は,9月14日05時30分ごろ家族等とともに城ケ島の前示砂浜に到着し,海中に潜るなどの遊泳を行った後,仮眠をとった。
 B指定海難関係人は,仮眠後,バーベキューの準備の目的で,城ケ島大橋付近の海域において,たこ貝と呼ばれる二枚貝を採ることとしたが,潜水するにあたり,同橋第6橋脚南側の城ケ島岸寄りを通航する船はないものと思っていたことから,存在を示すための浮き輪等を準備していなかった。同人は,半袖半ズボン一体型の黒色のウエットスーツを着用のうえ,城ケ島大橋第7橋脚東側のいけす跡付近に赴き,ウエットスーツの浮力で浮かないように軽めの重りを腰に巻き着け,黄色のシュノーケルと水中眼鏡及び青色のフィンを装着し,軍手を着けた左手に長さ約1.4メートルのやすを持ち,10時30分防波堤灯台から302度550メートルの地点で海中に入った後,腹ばいとなって耳まで海中に浸け,頭部及びシュノーケルの一部を海面上に出し,貝の採れそうな水深1.5ないし2メートルの海底を見ながら,微弱な西流の潮に任せて浮遊した。
 10時41分少し前B指定海難関係人は,前示接触地点に至り,自らの東方30メートルのところに丸一丸が接近したことから,浮遊状態で水中を伝わる同船の機関音を聞いた際,その接近が分かる状況であったが,かつて貝を採っていて漁師に注意されたことがあり,今回も注意のために漁船が接近するのだろうと思い,直ちに潜るなどの退避行動をとらなかったので,前示のとおり右肘が丸一丸の船首部と接触した。
 その結果,丸一丸は,損傷がなかったが,B指定海難関係人は,右肘切創及び10日間の通院加療を要する右大腿部挫創を負った。

(本件発生に至る事由)
1 丸一丸
(1)船首方に死角を生じていたこと
(2)三崎港の水路の右側を航行しなかったこと
(3)見張りの補助を依頼していた同乗者に携帯電話をかけさせたこと
(4)海面には泳いでいる人がいないものと思い込み,船首方の死角を解消する見張りを十分に行わなかったこと
(5)シュノーケル等を装着して浮遊状態のB指定海難関係人を避けなかったこと

2 潜水者
(1)潜水するにあたり存在を示すための浮き輪等を準備していなかったこと
(2)たこ貝と呼ばれる二枚貝を採る目的でシュノーケルと水中眼鏡等を装着してやすを持ち海中に入ったこと
(3)直ちに潜るなどの退避行動をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,三崎港において,城ケ島大橋付近を西行中の丸一丸が,船首方の死角を解消する見張りを十分に行っていたなら,潜水者の頭部及びシュノーケルの一部を海面上に出している浮遊状態を視認することができ,これを避けていたものと認められる。
 したがって,A受審人が,海面には泳いでいる人がいないものと思い込み,船首を左右に振って船首方の死角を解消する見張りを十分に行わず,シュノーケル等を装着して浮遊状態のB指定海難関係人を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,三崎港の水路の右側を航行しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 丸一丸が船首方に死角を生じていたこと,及びA受審人が見張りの補助を依頼していた同乗者に携帯電話をかけさせたことは,いずれも本件発生の原因とならない。
 一方,B指定海難関係人が,城ケ島大橋付近の海域において,浮遊状態で丸一丸の機関音を聞いた際,直ちに潜るなどの退避行動をとっていたなら,本件発生を回避できたと認められる。
 したがって,B指定海難関係人が,浮遊状態で丸一丸の機関音を聞いた際,貝を採ることの注意のために漁船が接近するのだろうと思い,直ちに退避行動をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人が,たこ貝と呼ばれる二枚貝を採る目的でシュノーケルと水中眼鏡等を装着してやすを持ち海中に入ったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,神奈川県海面漁業調整規則に定められた遊漁者等の漁具又は漁法の制限に関する規定に抵触するおそれがあり,慎むべきである。
 B指定海難関係人が,潜水するにあたり存在を示すための浮き輪等を準備していなかったことは,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件潜水者負傷は,神奈川県三崎港において,城ケ島大橋付近を西行中の丸一丸が,見張り不十分で,シュノーケル等を装着して浮遊状態の潜水者を避けず,丸一丸の船首部が潜水者と接触したことによって発生したものである。
 潜水者が,浮遊状態で丸一丸の機関音を聞いた際,直ちに退避行動をとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
1 懲戒
 A受審人は,城ケ島大橋付近を西行する場合,夏季には海水浴を行う人が同橋付近で泳いだりしていることを知っていたから,遊泳者を見落とすことのないよう,船首を左右に振って船首方の死角を解消する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,海面には泳いでいる人がいないものと思い込み,船首を左右に振って船首方の死角を解消する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,B指定海難関係人の頭部及びシュノーケルの一部を海面上に出している浮遊状態に気付かず,同指定海難関係人との接触を招き,右肘切創及び10日間の通院加療を要する右大腿部挫創を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

2 勧告
 B指定海難関係人が,城ケ島大橋付近の海域において,浮遊状態で丸一丸の機関音を聞いた際,直ちに退避行動をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,勧告するまでもない。
 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文 平成16年7月14日横審言渡
 本件潜水者負傷は,丸一丸が,前路の見張り不十分で,潜水者を避けなかったことと,潜水者が,自己の存在を示す措置をとらなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。


参考図
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