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 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成16年第二審第16号
件名

油送船第弐三鳳丸貨物船大濱丸衝突事件
[原審・広島]

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年8月30日

審判庁区分
高等海難審判庁(上中拓治,安藤周二,山田豊三郎,坂爪 靖,長谷川峯清)

理事官
東 晴二

受審人
A 職名:第弐三鳳丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
補佐人
a,b
受審人
B 職名:第弐三鳳丸一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)
C 職名:大濱丸一等機関士 海技免許:三級海技士(航海)
補佐人
c,d

第二審請求者
補佐人a

損害
第弐三鳳丸・・・船首部外板に破口を含む凹損等
大濱丸・・・右舷後部外板に破口を生じて沈没,船長が行方不明,機関長及び一等航海士が約2週間及び約5日間の通院加療を要する打撲傷

原因
第弐三鳳丸・・・狭視界時の航法(信号,見張り,速力)不遵守
大濱丸・・・狭視界時の航法(信号,見張り,速力)不遵守

主文

 本件衝突は,第弐三鳳丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったことと,大濱丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Bの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Cの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月5日03時43分
 宮城県金華山南東方沖合
 (北緯38度12.9分 東経141度36.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 油送船第弐三鳳丸 貨物船大濱丸
総トン数 1,499トン 497トン
全長 84.97メートル 68.77メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,059キロワット 1,471キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第弐三鳳丸
 第弐三鳳丸(以下「三鳳丸」という。)は,平成5年6月に進水した鋼製油送船で,主として京浜港横浜区あるいは宮城県仙台塩釜港でガソリン,灯油及び軽油を積載し,愛知県名古屋港から宮城県気仙沼港までの太平洋側諸港への輸送に従事していた。
 三鳳丸は,船橋楼の前端が船首端から後方約65メートルのところにある船尾船橋型で,同楼前方の上甲板下に貨物油槽5個が配置されていた。
 操舵室は,満載喫水線からの高さが7.8メートルで,両舷に出入口が設けられてウイング暴露部に接続していた。同室には,中央前部に操舵スタンド,同スタンドから左舷側に向かって順に1号レーダー,GPSプロッター及び2号レーダー,同右舷側に向かって主機遠隔操縦装置及び計器盤がそれぞれ隣接して設置されていた。なお,両レーダーには自動衝突予防援助装置(以下「ARPA」という。)が組み込まれていた。
 海上試運転成績書によれば,ほぼ満載状態で対水速力13.7ノットの全速力前進中に,舵角35度で左旋回したとき,最大縦距,最大横距及び360度旋回に要する時間が,264メートル,265メートル及び3分19秒,同右旋回したとき,261メートル,288メートル及び3分26秒,並びに後進発令から船体停止までの航走距離が1,143メートルで,その所要時間が4分49秒であった。
イ 大濱丸
 大濱丸は,平成11年11月に進水した鋼製貨物船兼砂利石材運搬船で,主として九州から北海道までの太平洋側諸港間においてばら積み砕石輸送に従事していた。
 大濱丸は,船橋楼の前端が船首端から後方約52メートルのところにある船尾船橋型で,同楼前方の上甲板下に貨物倉1個が配置され,同楼の端艇甲板右舷船首側には船長室があり,寝台が側壁に接して設けられていた。また,船首端から後方約17メートルの上甲板上に全旋回式クレーンが装備されており,航行時にはそのブームが同楼左舷前方のブームレストに格納されていた。
 操舵室は,満載喫水線からの高さが7.2メートルで,両舷に出入口が設けられてウイング暴露部に接続していた。同室には,中央に操舵スタンド,同スタンドから左舷側に向かって順に主レーダー,従レーダー及びGPSプロッター,同右舷側に向かって主機遠隔操縦装置及び法定灯火等のスイッチ盤が前面壁に接して設置されていた。なお,両レーダーにはARPAが組み込まれていた。
 海上公試運転成績書によれば,軽荷状態で対水速力13.6ノットの全速力前進中に,舵角35度で360度旋回に要する時間が,左旋回したとき2分34秒,右旋回したとき2分44秒で,後進発令から船体停止までの所要時間が1分32秒であった。

3 三鳳丸の安全管理
 D社は,平成12年4月に船舶の安全管理システムについての適合認定書の交付を受け,安全管理規程を作成して三鳳丸に備えていた。
 三鳳丸は,船橋当直(以下「当直」という。)の注意事項などが記載された安全管理規程中の航海当直手順書を操舵室に備え,更に当直心得などその主要部分の抜粋写を同室内に掲示していた。
 航海当直手順書には,視界制限状態について,航海中,視程が2海里以下になったら同状態と認識し,当直者は躊躇(ためら)わずに直ちに船長に報告すること,船長は自ら船橋にあって操船指揮を執ることなどが記載されていた。

4 事実の経過
 三鳳丸は,A及びB両受審人ほか7人が乗り組み,ガソリンなど2,580キロリットルを積載し,船首4.30メートル船尾5.70メートルの喫水をもって,平成15年8月4日18時15分仙台塩釜港を発し,同港港外で時間調整のために投錨仮泊したのち,翌5日01時55分花淵灯台から149度(真方位,以下同じ。)5.4海里の地点を発進し,法定灯火を表示して気仙沼港に向かった。
 ところで,A受審人は,当直体制を,00時から04時まで及び12時から16時までを次席一等航海士及び甲板手に,04時から08時まで及び16時から20時までをB受審人及び次席二等航海士に,08時から12時まで及び20時から24時までを自らと二等航海士にそれぞれ割り振った2人1組の4時間3直制としていた。また,A受審人は,平素,当直者に対し,視界制限状態になったときや航行上の不安を感じたときには速やかに船長に報告することなどの注意事項を,夜間命令簿(以下「命令簿」という。)に記載して示していた。
 A受審人は,発進後,金華山南方の北上転針予定地点(以下「転針予定地点」という。)に向けて東行し,02時25分出港配置解除後に昇橋した次席一等航海士に当直を任せたとき,前夜の投錨仮泊後にテレビの天気予報を見て三陸沖に海上濃霧警報及び宮城県に濃霧注意報(以下「濃霧警報等」という。)が発表されていることを知り,気仙沼港までの航行中に視界制限状態となることが予想される状況であったものの,発進時には水平線が見えていたうえ,命令簿に記載してあるから同状態になれば報告があるものと思い,改めて,当直者に対する濃霧警報等の発表状況の周知及び視界制限状態になったときの報告についての指示を徹底することなく,降橋して自室で休息した。
 03時30分B受審人は,金華山灯台から201.5度3.9海里の地点で,当直交替のために相直の次席二等航海士とともに昇橋し,命令簿を読んで署名したのち,前直の次席一等航海士がレーダーで測定して海図に記入した船位を確かめながら,転針予定地点までの航程が約1海里であること,視程が約3海里であること,左舷前方に認められる光芒が5隻ないし6隻の漁船(以下「漁船群」という。)でほとんど移動していないこと及びときどき霧がかかったことなどを引き継いで当直に就き,針路を090度に定め,機関を全速力前進にかけ,12.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,霧の濃淡によって視界に変化がある状況の下,自動操舵によって進行した。
 ところで,三鳳丸は,発航時にGPSが故障していたものの,ジャイロコンパス及びドップラーログから針路・速力両信号を取り込んでARPA機能を使用できる状態であった。
 03時35分B受審人は,金華山灯台から186度3.7海里の転針予定地点に達したとき,6海里レンジとしたレーダーにより,左舷船首36度2.4海里のところに大濱丸の映像を初めて認め,同船の灯火がもやのために視認することができず,その後霧により視程が急速に悪化して約200メートルの視界制限状態となったことを認めたが,そのうちに視界は回復するものと思い,A受審人に同状態になったことを報告することも,霧中信号を行うこともなく,大濱丸と金華山との間に漁船群の映像も認めたことから,予定の転針を中止してしばらくこのまま直進したのち,金華山南東方沖合を大回りして北上針路に転じることとし,レーダーのカーソルを大濱丸の映像に合わせただけでARPA機能を使用せず,手動操舵に切り替えて自ら操舵に当たり,レーダーによる見張りを行いながら,安全な速力としないまま続航した。
 03時37分B受審人は,金華山灯台から179.5度3.7海里の地点に至ったとき,3海里レンジとしたレーダーによって大濱丸の映像を同方位1.8海里のところに認めるようになり,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを認めたが,互いに視野の内にある船舶の航法に準じて自船の進路を避けるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,必要に応じて行きあしを停止することもなく,同じ針路,速力のまま進行した。
 03時41分少し過ぎB受審人は,金華山灯台から166度3.8海里の地点に達し,1.5海里レンジとしたレーダーによって大濱丸の映像が同方位のまま約0.4海里に接近したことを認めたとき,漸(ようや)く衝突の危険を感じ,急いで右舵をとるとともに機関を港内全速力前進に落とし,次席二等航海士を左舷ウイングで同船の灯火や信号の確認に当たらせた。
 B受審人は,間もなく操舵室に戻ってきた次席二等航海士から灯火が認められない旨の報告を受け,舵を中央に戻して続航中,03時43分少し前左舷前方至近に大濱丸が表示する白,白,緑3灯を初めて認め,急いで左舵一杯,全速力後進としたが効なく,03時43分金華山灯台から163度3.9海里の地点において,三鳳丸は,船首が110度に向き,9.0ノットの速力になったとき,その船首が,大濱丸の右舷後部に後方から85度の角度で衝突した。
 当時,天候は霧で,風力1の南東風が吹き,視程は約200メートルで,潮候は上げ潮の初期であった。
 自室で休息中のA受審人は,衝撃を受けて衝突を知り,直ちに昇橋し,間もなく沈没した大濱丸の乗組員の救助など事後の措置に当たった。
 また,大濱丸は,船長E及びC受審人ほか2人が乗り組み,石灰石の砕石1,600トンを積み,船首3.70メートル船尾4.90メートルの喫水をもって,同月4日14時30分青森県八戸港を発し,京浜港東京区に向かった。
 ところで,E船長は,当直体制を単独の4時間3直制とし,00時から04時まで及び12時から16時までを一等航海士に,04時から08時まで及び16時から20時までをC受審人にそれぞれ割り振り,08時から12時まで及び20時から24時までを自らが受け持ち,当直交替時刻の30分前には昇橋して引継ぎを行うようにしていた。また,同船長は,平素,当直者に対し,避航動作は早めにとること,狭水道通航時には2人で当直に就くこと,並びに船舶交通が輻輳(ふくそう)するとき及び視界制限状態となったときには報告することなどを口頭で指示していたものの,C受審人が社長で船長経験者でもあることから,同受審人に対しては,これらの指示を徹底していなかった。
 翌5日03時26分C受審人は,金華山灯台から104度2.1海里の地点で,当直交替のために昇橋したとき,同灯台の灯光を視認し,6海里レンジとしたレーダーによって金華山東端の映像をほぼ右舷正横2.0海里に認めるとともに,前直の一等航海士から,左舷後方約1海里に東方に離れていく同航船1隻及び右舷船首30度ないし45度2海里ないし3海里の範囲にほとんど移動しない漁船群をそれぞれレーダーで探知している旨の引継ぎを受けて当直に就き,針路を195度に定め,機関を全速力前進にかけ,11.8ノットの速力で,法定灯火を表示し,自動操舵によって進行した。
 C受審人は,定針後間もなく,金華山灯台の灯光が見えなくなり,霧により視程が急速に悪化して約100メートルの視界制限状態となったことを認めたが,前直者から引継ぎを受けた同航船と漁船群のほかには航行に支障のある他船の映像も見当たらず,自らが社長で船長経験もあるから,E船長を起こさなくても単独の当直で安全に運航できるものと思い,同船長に視界制限状態になったことを報告することも,霧中信号を行うこともなく,安全な速力とせずに続航した。
 03時35分C受審人は,金華山灯台から145度2.7海里の地点に至ったとき,レーダーにより右舷船首39度2.4海里のところに三鳳丸を探知できる状況となったが,深夜の時間帯に仙台湾の奥から東行してくる船舶はいないものと思い,レーダーによる見張りを十分に行うことなく,三鳳丸に気付かないまま,同じ針路,速力で進行した。
 03時37分C受審人は,金華山灯台から150.5度3.0海里の地点に達したとき,三鳳丸が同方位1.8海里のところに接近し,その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが,依然,レーダーによる見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,必要に応じて行きあしを停止することもなく,早期に前方の他船を探知できるように,6海里レンジで後方に2海里オフセンターとしたレーダー画面の中央から前方を見ながら続航した。
 C受審人は,その後コーヒーを飲むためにレーダーから離れて操舵室右舷側に移動したのち,03時43分わずか前再びレーダーのところに戻ってふと前方を見たところ,右舷前方至近に三鳳丸が表示する白,白,紅3灯を初めて認め,衝突の危険を感じ,急いで手動操舵に切り替えようとしたものの,何をする間もなく,大濱丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,三鳳丸は,船首部外板に破口を含む凹損等及び右舷後部外板に大濱丸の沈没時に同船のキールが当たって凹損を生じたが,のち修理され,大濱丸は,右舷後部外板に破口を生じて浸水し,衝突後間もなく沈没して全損となった。また,E船長(五級海技士(航海)免許受有)が行方不明となり,海中に投げ出された大濱丸の乗組員3人は三鳳丸に救助されたものの,機関長F及び一等航海士Gがそれぞれ約2週間及び約5日間の通院加療を要する打撲傷を負った。

(航法の適用)
 本件は,夜間,霧のため視界制限状態となった宮城県金華山南東方沖合において,仙台塩釜港から気仙沼港に向けて東行中の三鳳丸と,八戸港から京浜港に向けて南下中の大濱丸とが衝突したものであり,両船は,互いに他の船舶の視野の内になかったのであるから,海上衝突予防法第19条視界制限状態における船舶の航法が適用される。

(本件発生に至る事由)
1 三鳳丸
(1)A受審人が,当直者に対する濃霧警報等の発表状況の周知及び視界制限状態となったときの報告についての指示を徹底しなかったこと
(2)GPSプロッターが故障していたこと
(3)ARPA機能を使用しなかったこと
(4)B受審人が,自ら手動操舵に当たりながらレーダーによる見張りを行ったこと
(5)B受審人が,視界制限状態となったことを船長に報告しなかったこと
(6)霧中信号を行わなかったこと
(7)安全な速力としなかったこと
(8)B受審人が,互いに視野の内にある船舶の航法に準じて左舷前方から接近する大濱丸が自船の進路を避けるものと思ったこと
(9)針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったこと
(10)衝突前に右舵をとるとともに減速したこと

2 大濱丸
(1)E船長が,視界制限状態となったときの報告についての指示を徹底しなかったこと
(2)C受審人が,視界制限状態になったことを認めたのちも,単独の当直を続けたこと
(3)C受審人が,視界制限状態となったことを船長に報告しなかったこと
(4)霧中信号を行わなかったこと
(5)安全な速力としなかったこと
(6)C受審人が,深夜の時間帯に仙台湾の奥から東行してくる船舶はいないものと思ったこと
(7)レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと
(8)針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったこと

3 気象等
(1)金華山沖は船舶交通が輻輳するうえ,霧が発生しやすい海域であること
(2)衝突地点付近に移動しない5隻ないし6隻の漁船がいたこと
(3)衝突地点付近が霧のため視界制限状態となっていたこと

(原因の考察)
 三鳳丸が,霧のため視界制限状態となった宮城県金華山南東方沖合を東行中,霧中信号を行い,大濱丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを停止していれば,本件は発生していなかったものと認められる。
 また,A受審人が,当直者に対する濃霧警報等の発表状況の周知及び視界制限状態となったときの報告についての指示を徹底していれば,B受審人から同報告を受けられ,自ら操船指揮を執ることによって,本件発生を防止できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,当直者に対する濃霧警報等の発表状況の周知及び視界制限状態となったときの報告についての指示を徹底しなかったこと,並びにB受審人が,視界制限状態となったことを船長に報告しなかったこと,霧中信号を行わなかったこと及び互いに視野の内にある船舶の航法に準じて左舷前方から接近する大濱丸が自船の進路を避けるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 B受審人が,自ら手動操舵に当たりながらレーダーによる見張りを行ったこと及び安全な速力としなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらのことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 三鳳丸のGPSプロッターが故障していたこと及びARPA機能を使用しなかったことは,B受審人が大濱丸の映像を初めて認めたときに,レーダーのカーソルを同映像に合わせ,同映像がカーソル線上から外れずに接近したことから,レーダー画面上でプロッティングが行われたものと認められ,また,衝突前に右舵をとるとともに減速したことは,大濱丸と著しく接近することを避けることができない状況となったのちの緊急的な措置と考えられるから,いずれも本件発生の原因とならない。
 一方,大濱丸が,霧のため視界制限状態となった宮城県金華山南東方沖合を南下中,霧中信号を行うとともに,レーダーによる見張りを十分に行っていれば,前路に三鳳丸の映像を認めることができ,同船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを停止することにより,本件は発生していなかったものと認められる。
 また,C受審人が,E船長に,視界制限状態となったことを報告していれば,同船長が自ら操船指揮を執ることによって,本件発生を防止できたものと認められる。
 したがって,E船長が,視界制限状態となったときの報告についての指示を徹底しなかったこと,並びにC受審人が,視界制限状態となったことを船長に報告しなかったこと,霧中信号を行わなかったこと及び深夜の時間帯に仙台湾の奥から東行してくる船舶はいないものと思い,レーダーによる見張りを十分に行わず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 C受審人が,視界制限状態になったことを認めたのちも単独の当直を続けたこと及び安全な速力としなかったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらのことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 金華山沖は船舶交通が輻輳するうえ,霧が発生しやすい海域であること,衝突地点付近に移動しない5隻ないし6隻の漁船がいたこと及び衝突地点付近が霧のため視界制限状態となっていたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生の原因とならない。

(主張に対する判断)
 大濱丸側補佐人は,衝突後のA受審人の不適切な措置によって大濱丸の沈没を早め,その結果E船長の行方不明及び2人の負傷者を生じさせた旨を主張するので,これについて検討する。
 A受審人に対する質問調書中,「昇橋したとき,機関は中立回転で,舵中央であった。相手船は自船の右舷側に回ってきて左舷側に転覆し,船橋付近で船首を上にして沈没した。相手船乗組員の1人が泳いでいるところを救命浮環を投げて引き上げ,他の2人を交通艇で救助した。」旨の,同受審人の原審審判調書中,「衝突後30秒以内に昇橋した。」旨の,B受審人に対する質問調書中,「衝突直前に左舵一杯,全速力後進としたが間に合わずに衝突した。」旨の,同受審人の原審審判調書中,「交通艇を降ろしているうちに自然に分離した。」旨の,C受審人に対する質問調書中,「衝突時には機関を全速力前進にかけていた。海に飛び込んで相手船に救助された。」旨の,同受審人の原審審判調書中,「衝突後両船が接触していたのは1分間もなかった。海に飛び込んだのは衝突3分後くらいと思う。」旨の各供述記載及び同受審人の当廷における,「衝突箇所が右舷側壁に寝台のある船長室で,船長は衝突と同時に突き飛ばされたものと思う。」旨の供述がある。
 以上のことから,衝突後の両船の分離模様を見ると,三鳳丸の前進速力は衝突によって急減し,同船の船首が大濱丸の右舷後部に突き刺さるように衝突した結果,大濱丸の前進推力が抑制されたものの,同船はかなりの残存速力で右方に回頭しながら進行し,自然に三鳳丸から分離したものと考えられることや,衝突から分離までが短時間であったことを考慮すると,三鳳丸が機関を使用して大濱丸から離れないようにすることは実行不可能な状態であったものと推認される。また,A受審人は,衝突後,直ちに昇橋して大濱丸の乗組員の救助に当たるなど,事後の措置をとったことは明らかである。
 したがって,衝突後にA受審人が不適切な措置をとった旨の大濱丸側補佐人の主張を認めることはできない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,霧のため視界が制限された宮城県金華山南東方沖合において,東行する三鳳丸が,霧中信号を行わなかったばかりか,レーダーによって探知した大濱丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったことと,南下する大濱丸が,霧中信号を行わなかったばかりか,レーダーによる見張りが不十分で,三鳳丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかったこととによって発生したものである。
 三鳳丸の運航が適切でなかったのは,船長が,当直者に対する濃霧警報等の発表状況の周知及び視界制限状態の報告についての指示を徹底しなかったことと,当直者が,同状態の報告及び措置を適切に行わなかったこととによるものである。
 大濱丸の運航が適切でなかったのは,船長が,当直者に対して視界制限状態の報告についての指示を徹底しなかったことと,当直者が,同状態の報告及び措置を適切に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,夜間,霧のため視界が制限された宮城県金華山南東方沖合を東行中,レーダーによって左舷前方に探知した大濱丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことを認めた場合,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,必要に応じて行きあしを停止するべき注意義務があった。ところが,同受審人は,互いに視野の内にある船舶の航法に準じて自船を避航してくれるものと思い,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しなかった職務上の過失により,そのまま進行して大濱丸との衝突を招き,三鳳丸の船首部外板に破口を含む凹損等を生じさせ,大濱丸の右舷後部外板に破口を生じて沈没させ,同船のE船長が行方不明となり,F機関長及びG一等航海士にそれぞれ打撲傷を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 C受審人は,夜間,霧のため視界が制限された宮城県金華山南東方沖合を南下する場合,仙台湾の奥から東行している三鳳丸のレーダー映像を見落とすことのないよう,適宜レンジを切り替えるなどしてレーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同受審人は,深夜の時間帯に仙台湾の奥から東行してくる船舶はいないものと思い,レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,三鳳丸のレーダー映像を見落とし,同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,必要に応じて行きあしを停止しないまま進行して三鳳丸との衝突を招き,前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 A受審人は,夜間,濃霧警報等が発表されて視界の悪化が予測される状況下,当直を任せる場合,視界制限状態となったときに自ら操船指揮を執ることができるよう,当直者に対する濃霧警報等の発表状況の周知及び同状態になったときの報告についての指示を徹底するべき注意義務があった。ところが,A受審人は,命令簿に記載してあるから,視界制限状態になれば報告してくるものと思い,当直者に対する濃霧警報等の発表状況の周知及び同状態になったときの報告についての指示を徹底しなかった職務上の過失により,当直者から視界制限状態となった旨の報告を得られず,自ら操船指揮を執ることができないまま進行して大濱丸との衝突を招き,前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文 平成16年4月19日広審言渡
 本件衝突は,第弐三鳳丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったことと,大濱丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Cの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。


参考図





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