(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年7月20日14時30分
北海道知円別漁港北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船第三十八立正丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
22.28メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
478キロワット |
3 事実の経過
第三十八立正丸(以下「立正丸」という。)は,昭和62年10月に進水し,刺網漁業のほか,夏期2箇月ばかり知床半島沿岸で遊漁船業に従事する鋼製小型兼用船で,2.2キロワット電動機駆動の雑用海水ポンプ(以下「雑用水ポンプ」という。)が機関室に備えられ,甲板及び漁獲物の洗浄時や釣り客乗船時の簡易トイレ用として運転されていた。
雑用水ポンプの配管系統については,常時開弁していた海水吸入弁からステンレス製吸入管を経て,同ポンプで吸引加圧された海水が,左右両舷の甲板上に吐出されるようになっていた。
A受審人(昭和53年8月一級小型船舶操縦士免許取得)は,本船就航時から船長として乗り組み,機関の運転及び保守管理にあたり,平成14年5月の定期検査時には,腐食が進行していた雑用水ポンプの海水吸入弁を新替したものの,同ポンプケーシングが腐食して破孔を生じることはないものと思い,整備業者に依頼するなどして,就航以来一度も,同ポンプの開放整備を行わなかったので,長期使用による経年劣化で,同ケーシングの腐食が著しく進行していることに気付かなかった。
こうして,立正丸は,A受審人が1人で乗り組み,釣り客8人を乗せ,平成16年7月20日03時30分北海道羅臼町知円別漁港を発し,05時20分ごろ知床岬付近の釣り場に着いて遊漁を開始し,12時30分遊漁を終えて帰途に就いた。
A受審人は,知円別漁港に向け帰航中,いつしか,腐食が進んでいた雑用水ポンプケーシングに破孔を生じ,海水が破孔部から機関室に噴出し始めたが,出航時点検を行っただけで,その後同室の点検を行うことなく,また,ビルジ警報装置が故障していたこともあって,同室への海水の浸入に気付かなかった。
立正丸は,機関室へ海水の浸入が続き,14時30分知円別港東防波堤灯台から真方位048度500メートルの地点において,A受審人が操舵に異常を感じ,機関を中立として同室に赴いたとき,同室高さの半分くらいまで浸水しているのを認めた。
当時,天候は晴で風力3の南風が吹いていた。
浸水の結果,主機,発電機など機関室諸機器が濡損して航行不能になり,僚船に曳航されて知円別漁港に引き付けられたのち,修理された。
(原因)
本件浸水は,機関の運転及び保守管理にあたり,雑用水ポンプの開放整備が不十分で,同ポンプケーシングの経年劣化により腐食が進行して破孔を生じ,海水が機関室に噴出したことと,同室の点検が不十分で,海水の浸入に気付かなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,機関の運転及び保守管理にあたる場合,雑用水ポンプの長期間の使用により,同ポンプケーシングが経年劣化して腐食が進行するおそれがあったから,整備業者に依頼するなどして,定期的に同ポンプの開放整備を十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,同ポンプケーシングが腐食して破孔を生じることはないものと思い,同ポンプの開放整備を十分に行わなかった職務上の過失により,同ポンプケーシングに破孔を生じ,海水が機関室に噴出して浸水する事態を招き,主機,発電機などの諸機器に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。