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平成17年神審第31号
件名

引船第56テトラ丸定置網損傷事件(簡易)

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成17年6月21日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:第56テトラ丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
定置網・・・魚を導く導網と魚を閉じ込めるます網の損傷

原因
水路調査不十分

裁決主文

 本件定置網損傷は,水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月4日23時40分
 兵庫県湊港北方沖合
 (北緯34度21.0分東経134度43.6分)

2 船舶の要目
船種船名 引船第56テトラ丸
総トン数 44トン
全長 21.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット

3 事実の経過
 第56テトラ丸(以下「テトラ丸」という。)は,平成元年3月に進水した船首船橋型の鋼製引船で,A受審人ほか3人が乗り組み,回航の目的で,船首1.3メートル船尾2.2メートルの喫水をもって,平成16年11月30日16時30分秋田県金浦(このうら)港を発し,翌12月1日08時30分新潟県新潟港に給油のため立ち寄ったのち,同日12時00分同港を離れ,目的地である兵庫県由良港に向かった。
 A受審人は,他の乗組員と単独での船橋当直を適宜交代しながら,12月3日23時ごろ瀬戸内海に入り,4日19時30分小豆島大角鼻灯台東方沖合にて,船橋当直についたが,天候が悪化してきたので,淡路島西岸に接近してから明石海峡向け北上するつもりで,兵庫県湊港沖に向けて進行した。
 23時18分A受審人は,湊港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から314度(真方位,以下同じ。)2.9海里の地点に達したとき,予定していた北上を開始する地点に達したものの,南寄りの風が強まるばかりであったので,湊港の北方沖で錨泊することを決め,針路を122度に定め,機関を半速力前進にかけ,7.0ノットの対地速力で続航した。
 ところで,湊港付近の陸岸から2海里までの海域には多くの定置網が設置されており,各定置網には浮標や浮子(あば)が取り付けられ,その各先端には標識灯が設置されていたが,この海域に接近する船舶は,定置網の設置状況を事前に調査した上,慎重に操船する必要があった。


 A受審人が湊港外に錨泊することを決定したとき,同港を避難港として想定していなかったので,事前に湊港の付近の水路情報を準備していなかった。しかし,同人は,陸岸から離れた港外であれば定置網はないものと思い,運航者や関係機関等に問い合わせるなどして水路調査を十分に行わなかった。
 陸岸に1海里ほどに近づいたA受審人は,仮泊用意として船首に一等航海士と一等機関士を配し,南方に白色点滅灯を認めたものの,刺網の灯火と考えて,定置網設置区域に乗り入れ,投錨準備作業を続けた。
 A受審人が適宜機関,舵を使用したのち,23時40分西防波堤灯台から006度1,700メートルの地点において,テトラ丸は,後進投錨で右錨を定置網の上に投下して錨鎖を3節半繰り出し,定置網の魚を導く導網と魚を閉じ込めるます網を損傷させた。
 当時,天候は雨で,風力5の南西風が吹き,高さ2.5メートルの波があり,潮候は下げ潮の末期で,当日兵庫県南部に18時56分から大雨・雷・強風・波浪・洪水注意報が発表されていた。
 こうして,錨泊中,さらに風波が強まり,5日08時30分錨鎖が切断したので,A受審人は,湊港に入港したところ,漁業協同組合の関係者から定置網損傷の事実を知らされ,事後の措置に当たった。

(原因)
 本件定置網損傷は,夜間,兵庫県湊港北方沖合において,荒天避難の目的で陸岸に寄せて錨泊しようとする際,水路調査が不十分で,定置網の上で投錨したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,兵庫県湊港北方沖合において,同港港外に荒天避難する目的で錨泊しようとする場合,定置網設置区域で投錨しないよう,湊港付近の定置網の設置状況について,運航者や関係機関等に問い合わせるなどして水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,陸岸から離れた港外であれば定置網はないものと思い,水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,定置網設置区域に乗り入れ,定置網の上で投錨し,定置網を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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