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平成16年広審第96号
件名

貨物船第八協栄丸のり養殖施設損傷事件(簡易)

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成17年4月26日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(米原健一)

副理事官
鎌倉保男

受審人
A 職名:第八協栄丸船長 海技免許:六級海技士(航海)

損害
第八協栄丸・・・ない
のり養殖施設・・・灯浮標2基及びのり網固定用外枠ロープなど損傷

原因
周囲の見張り不十分

裁決主文

 本件のり養殖施設損傷は,周囲の見張りが十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年2月18日21時22分
 香川県向島北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八協栄丸
総トン数 156トン
登録長 46.37メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 625キロワット

3 事実の経過
 第八協栄丸は,専ら香川県直島港及び大分県佐賀関港から大阪港へ銅板の輸送に従事する全通二層甲板船尾船橋型の鋼製貨物船で,A受審人ほか1人が乗り組み,銅板約500トンを積載し,船首2.7メール船尾3.6メートルの喫水をもって,平成16年2月17日15時30分佐賀関港を発し,途中時間調整と休息とを兼ねて基地である岡山県宇野港に寄港したのち,翌18日21時00分同港を発進して大阪港堺泉北区に向かった。
 ところで,A受審人は,宇野港から大阪港に向かうときには,香川県京ノ上?島と同県局島との間の,及び岡山県の本州南岸と同県井島との間の水道をそれぞれ経由して香川県豊島北方沖合を航行しており,また,自身が所有するプレジャーボートでも同県向島や同県家島の周辺海域をしばしば航行していたので,向島北方沖合や井島などの周辺海域にのり養殖漁場が設定されていることを知っていた。
 向島北方沖合ののり養殖漁場(以下「向島養殖漁場」という。)は,県知事が許可した区画漁業免許に基づくもので,平成15年10月1日から同20年9月30日までの,毎年10月1日から翌年3月31日までの間,鞍掛鼻灯台からそれぞれ266度(真方位,以下同じ。)1,370メートル,214度960メートル,214度1,400メートル及び254度1,600メートルの各地点を順次結ぶ線によって囲まれた区域内に,縦60メートル横120メートルの長方形状ののり養殖施設が100メートルの間隔で11箇所に設置され,同漁場の周囲にその存在を示す灯浮標が設置されていた。
 向島養殖漁場ののり養殖施設は,同施設の外周に張った直径22ミリメートルの合成繊維製のり網固定用外枠ロープに直径10ミリメートルの合成繊維製中張りロープや浮子ロープなどを取り付けてのり網100枚が張り込まれるものであったが,当時,のり網がすでに撤去され,のり網固定用外枠ロープ及び中張りロープなどのロープ類が存在していた。
 向島養殖漁場の存在を示す灯浮標は,前示区域北端の,鞍掛鼻灯台から270度1,450メートルのところに毎4秒に1回黄色閃光を発し光達距離が3.5海里で海面から灯火までの高さが約2メートルの直島漁協向島北方のり養殖漁場灯浮標(以下「漁場灯浮標」という。)が,また,同漁場の周囲に沿って140メートルの間隔で,毎4秒に1回黄色閃光を発し光達距離が5.5海里の標識灯を箱に取り付けて海面から灯火までの高さが約2メートルとなった灯浮標14個(以下「灯浮標群」という。)がそれぞれ設置されていた。
 A受審人は,出航操船に続いて単独の船橋当直にあたり,京ノ上?島及び局島間の水道を航行する予定で,操舵室中央の舵輪後方に立った姿勢で操舵と見張りにあたって京ノ上?島西方沖合を南下中,21時10分同島南端を航過したころ,左舷方に前示水道を西行する他船の灯火を認めたので,予定を変更して局島及び家島間並びに向島及び井島間の各水道を経由し,井島と豊島間の井島水道を北上して豊島北方沖合に向かうこととし,そのまま南下を続けた。
 21時18分A受審人は,鞍掛鼻灯台から268度1.34海里の地点に達し,局島南端を替わったところで,針路を080度に定め,機関を全速力前進にかけて9.0ノットの対地速力で,航行中の動力船の灯火を表示し,手動操舵により進行した。
 定針したとき,A受審人は,右舷船首5度1,050メートルのところに漁場灯浮標を,その右方至近に灯浮標群の灯火をそれぞれ視認できる状況であったが,鞍掛鼻灯台の灯火を見て船位を確認することに気を奪われ,周囲の見張りを十分に行わなかったので,それらの灯火を見落としたまま続航した。
 A受審人は,21時20分少し前針路を鞍掛鼻南方沖合に向く116度に転じたところ,漁場灯浮標が左舷船首26度550メートルとなり,向島養殖漁場に向首する状況となったが,鞍掛鼻灯台の灯火に視線を向けたまま,依然周囲の見張り不十分で,このことに気付くことなく進行し,21時22分鞍掛鼻灯台から260度1,500メートルの地点において,第八協栄丸は,原針路原速力のまま,向島養殖漁場に乗り入れ,これを通過した。
 当時,天候は曇で風力1の西北西風が吹き,潮候は下げ潮の初期にあたり,視界は良好であった。
 A受審人は,香川県小豆島西方沖合で海上保安庁からプロペラに絡まったロープについての指摘を受けてのり養殖施設損傷を知り,事後の措置にあたった。
 その結果,第八協栄丸に損傷はなかったが,向島養殖漁場の周囲に設置された灯浮標2基及びのり網固定用外枠ロープなどののり養殖施設に損傷を生じた。

(原因)
 本件のり養殖施設損傷は,夜間,香川県向島北方沖合において,単独の船橋当直にあたって東行する際,周囲の見張りが不十分で,同島北方沖合に設定された向島養殖漁場に乗り入れたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,香川県向島北方沖合において,単独の船橋当直にあたって東行する場合,同島北方沖合に向島養殖漁場が設定されていることを知っていたのであるから,同漁場に乗り入れることがないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同受審人は,鞍掛鼻灯台の灯火を見て船位を確認することに気を奪われ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,同漁場周囲に設置された灯浮標の灯火を見落としたまま進行して同漁場に乗り入れ,灯浮標2基及びのり網固定用外枠ロープなどののり養殖施設に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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