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平成17年那審第3号
件名

漁船第一尚丸運航阻害事件(簡易)

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成17年5月12日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(杉崎忠志)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:第一尚丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
電磁スイッチのプランジャ及びシフトレバー等の固着

原因
主機セルモータの点検不十分

裁決主文

 本件運航阻害は,主機セルモータの点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月17日10時00分
 沖縄県喜屋武埼南方沖

2 船舶の要目
船種船名 漁船第一尚丸
総トン数 13トン
登録長 14.78メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 360キロワット

3 事実の経過
 第一尚丸(以下「尚丸」という。)は,昭和51年3月に進水し,まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で,甲板下には,船首方から順に1番ないし5番魚倉,機関室及び舵機室などを配置し,機関室の上部に操舵室を設け,同室に主機の回転計,潤滑油圧力計及び冷却清水温度計などの計器類,潤滑油圧力低下及び冷却清水温度上昇の警報装置並びに主機始動スイッチなどが組み込まれた主機監視盤を備え,同室で主機の発停を含む全ての操作ができるようになっていた。
 機関室は,その中央に,主機として,B国C社製のGM8V-92TA型と称する過給機付4サイクル8シリンダV形ディーゼル機関を装備し,主機の後部にフライホィール,逆転減速機,中間軸及びプロペラ軸を配置していたほか,主機左舷側架構の後部下方に主機セルモータを,同室後部隔壁のほぼ中央部に自動停止式のビルジポンプをそれぞれ備えていた。
 ところで,主機セルモータは,直流24ボルトを電源とし,固定子,電機子,電機子に給電するブラシ及びスリップリング,電機子軸によって歯車を介して駆動されるピニオン軸,同軸に取り付けられた小歯車及びオーバーランニングクラッチのほか,シフトレバーを介して同軸を船首・尾方向に動かす電磁スイッチのプランジャなどで構成されていた。
 そして,主機の始動は,操舵室にある主機監視盤の主機始動スイッチを投入すると,電磁スイッチの電磁コイルが励磁されて同スイッチのプランジャが船首方に移動して,プランジャの船尾方端に連結されたシフトレバーを介してピニオン軸を船尾方に押し出し,同軸に取り付けられた小歯車を主機のフライホィールに加工されたリング歯車にかみ合わせたのち,主機セルモータに給電されるようになっており,同スイッチ及び同レバーなどに海水が浸入すると,プランジャや同レバーのピン部などがさび付き,同軸の移動に時間を要するようになるとともに,同ピン部などが固着して同モータへの給電が不能となるおそれがあった。
 A受審人は,平成6年1月に一級小型船舶操縦士(平成16年12月一級小型船舶操縦士・特殊小型船舶操縦士免許に更新)の免許を取得したのち,まぐろはえ縄漁業に従事する漁船に船長として乗り組んでいたところ,友人であった尚丸の船舶所有者から乗船の依頼があったことから,同15年8月から船長として尚丸に乗り組み,沖縄県那覇市泊漁港を基地とし,同県喜屋武埼南方沖の漁場に赴いて操業を繰り返していた。
 A受審人は,出港するに当たり,始動前にオイルパンの油量及び冷却清水タンクの水位などを点検したうえで,操舵室で主機を始動し,操業中は潤滑油,燃料油,冷却清・海水の漏洩の有無及びビルジ量などの点検のため日に一度,投縄作業を終えたのち機関室巡視を行い,出港してから帰港する間は主機を連続運転として,1航海が約7日間の操業に従事していた。
 ところが,A受審人は,機関室巡視時にビルジ量の増加を認めた際にはビルジポンプを運転するようにしていたものの,同室右舷側外板の水面上に設けられたビルジ排出口からの排出状況を確認していなかったので,同ポンプのこし器が目詰まりするなどしてビルジが排出されなかったことがあったうえ,船尾管などからの海水の漏洩が増加していたこともあって,ビルジ量が著しく増加して主機フライホィールがビルジをかき上げ,飛散した海水が主機セルモータの電磁スイッチやシフトレバーなどに降り掛かったことが数回あった。
 そして,A受審人は,同16年10月中旬ごろから,操舵室にある主機監視盤の主機始動スイッチの投入から主機セルモータが回転し始める間の時間が次第に長くなる状況となったが,主機が始動するので大丈夫と思い,速やかに同モータを点検することなく運転を続けていたので,いつしか電磁スイッチやシフトレバーなどが海水の浸入によって,同スイッチのプランジャ及び同レバーのピン部などがさび付いて固着気味となっていることに気付かなかった。
 こうして,尚丸は,A受審人ほか甲板員2人が乗り組み,操業の目的で,船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,同16年11月9日13時00分泊漁港を発し,翌10日02時ごろ喜屋武埼南方沖の漁場に至って操業を繰り返し,まぐろ約1.6トンを漁獲して操業を切り上げ,同月17日09時30分漁場を発し,主機を全速力前進にかけて同漁港に向け航行を開始したところ,操舵室で操船に就いていた同受審人が,A重油の異臭に気付き,同室床面にある機関室出入口ハッチカバーを開放してのぞき込んだところ,主機燃料油こし器カバーから同油が噴出しているのを認め,直ちに主機を停止して同カバーのOリングを取り替えたのち,10時少し前,航行を再開するため操舵室で主機始動スイッチを投入したものの,主機セルモータのシフトレバーのピン部などが固着して同モータへの給電が不能となった。
 尚丸は,主機始動スイッチの投入が繰り返されたが,主機セルモータが回転せず,10時00分喜屋武埼灯台から真方位192度45海里の地点において,運航が阻害された。
 当時,天候は曇で風力3の北東風が吹き,海上には白波があった。
 その結果,尚丸は,来援した巡視艇により泊漁港に引き付けられ,同漁港において主機セルモータを精査したところ,電磁スイッチのプランジャ及びシフトレバーのピン部などがさび付いて固着していることが判明し,のち同モータが整備された。

(原因)
 本件運航阻害は,主機始動スイッチの投入から主機セルモータが回転し始める間の時間が次第に長くなる状況となった際,同モータの点検が不十分で,電磁スイッチ及びシフトレバーなどが海水の浸入によりさび付き,これが進展して同レバーのピン部などが固着し,同モータへの給電が不能となったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,主機始動スイッチの投入から主機セルモータが回転し始める間の時間が次第に長くなる状況となった場合,ビルジ量が著しく増加して主機フライホィールがビルジをかき上げたとき,同モータに海水が浸入して各部が固着気味になっているおそれがあったから,速やかに同モータを点検すべき注意義務があった。しかしながら,同人は,主機が始動するので大丈夫と思い,速やかに同モータを点検しなかった職務上の過失により,電磁スイッチのプランジャ及びシフトレバーのピン部などがさび付いて固着し,同モータへの給電が不能となる事態を招き,運航が阻害されるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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