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平成16年広審第126号
件名

貨物船第六光洋丸乗組員負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成17年6月28日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(吉川 進,米原健一,道前洋志)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:第六光洋丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:第六光洋丸甲板長 海技免許:五級海技士(航海)
指定海難関係人
C 職名:第六光洋丸機関長
D 職名:第六光洋丸一等機関士
E社 業種名:海運業

損害
左舷ランプドアの主ランプに座屈変形,二折れヒンジの取付部に破損等,一等機関士が左前腕切断,左鎖骨骨折,左肩甲骨骨折,右前腕挫滅傷,左肩・前胸部挫傷などの負傷

原因
ランプドア降下の操作不適切,船舶所有者の安全管理不十分

主文

 本件乗組員負傷は,ランプドア降下の操作が不適切で,ランプドアウィンチのクラッチが嵌合されないまま同ドアの安全装置と固縛が解除され,同ドアが自由落下したことによって発生したものである。
 船舶所有者が,安全管理を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 受審人Bの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月21日22時00分
 広島県広島港
 (北緯34度21.5分 東経132度28.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第六光洋丸
総トン数 699トン
全長 78.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
(2)設備及び性能等
 第六光洋丸(以下「光洋丸」という。)は,平成2年8月に進水した自動車運搬船で,主として広島港及び山口県防府市西浦泊地を積地として瀬戸内海各港向けの航海に従事していた。
 船体は,上甲板下に3層の,また,上甲板上に2層の車両甲板を備えて下から順に第1から第5まで数字を付し,第5車両甲板上のボート甲板に居住区と化粧煙突を,同居住区の上に船橋をそれぞれ配置し,上甲板の船首尾に揚錨機,係船機等を装備し,第4車両甲板の最後部の両舷に自動車の搬出入口が設けられ,両搬出入口にランプドアが取り付けられていた。
 ランプドアは,主ランプ及びフリーランプの二折れ構造で,搬出入口の基部と二折れ部にヒンジを有し,フリーランプの先には岸壁地面に接触するフラップ部が取り付けられ,ボート甲板上の2本の揚降ポストと,主ランプ両側に取り付けられたダブルシーブとに取り廻す2組のワイヤロープが,ボート甲板上のランプドアウィンチに巻き取られて揚げ降ろしを行うようになっていた。
 ランプドアの固縛は,揚収後,主ランプ下部両側のフックにウェッジを打ち込んで締め付ける下部固縛装置と,フリーランプ両側のサイドバーにボート甲板上のフックを掛けて引き付ける上部固縛装置とで行われ,いずれも油圧シリンダで駆動された。また,安全装置としてフリーランプの別のサイドバーに手動フックが掛けられ,ターンバックルで引き付けられるようになっていた。
 ランプドアウィンチ(以下「ウィンチ」という。)は,油圧モーター駆動で,定格荷重9トン巻揚速度11メートル毎分の能力を有し,両舷ランプドアに共用されるため,同モーターによる駆動軸とワイヤロープを巻き取るワイヤドラムとをクロークラッチ(以下「クラッチ」という。)によって嵌脱ができるもので,ワイヤドラムにはドラム式ブレーキが備えられていた。また,油圧モーター側の小歯車から駆動軸側の大歯車への減速比が約7分の1で,ランプドアの降下に際してもクラッチを嵌合して巻き降ろしを行うと安定した回転制御が可能であった。

3 事実の経過
(1)ランプドアの揚降体制
 ウィンチは,両舷ランプドアに共用されるため,出港時にランプドアが揚収されて固縛されたのちクラッチが離脱され,入港の都度着舷側のクラッチを嵌合して揚降操作が行われていた。
 ランプドアは,職務分掌上,ウィンチを含めて甲板部が管理と運用を行う設備であったが,乗組員数が就航時の8人から6人になったころから,一連の操作のうちウィンチのクラッチ嵌脱と同ドアの安全装置の掛け外しを甲板部が,ウィンチによる揚降と油圧シリンダによる同ドアの固縛と解除を機関部が分けて行う体制で操作されるようになった。
(2)ウィンチの改造
 ウィンチは,甲板部と機関部とが一連の操作を分けて操作するようになったのち,クラッチを離脱したままブレーキを弛めたかして,ランプドアが自由落下する事故が発生し,再発防止策としてクラッチとブレーキとの間にインターロック機構が施された。
 インターロック機構は,ブレーキバンドの締付けを行うブレーキハンドル軸上の軸方向に90度の角度差で4枚の羽根板が,また,クラッチハンドルには延長棒を介して邪魔板がそれぞれ取り付けられ,クラッチを離脱位置にすると邪魔板が2枚の羽根板の間に入り込み,ブレーキハンドルを回してブレーキを弛める操作ができない仕組であった。
(3)ランプドア揚降の手順とブレーキ操作の実態
 ランプドア揚降の手順は,ウィンチ改造の結果,ブレーキを締め付けたうえでクラッチを離脱することを前提として,着岸前に甲板部がクラッチを嵌合させて安全装置を外し,着岸後に機関部がクラッチ嵌合を確認してブレーキを弛めたのちに上部及び下部の固縛装置による固縛を解除し,油圧モーターで巻き降ろすことが,また,出港に際して機関部が油圧モーターで巻き揚げたのちブレーキを締め付け,上下部の固縛を行い,離岸後に甲板部が安全装置を掛けたのちクラッチ離脱を行うことが原則となったが,甲板部と機関部がそれぞれ手順を引き継いでいくうち,必ずしもブレーキの締付けが行われなくなった。
 C指定海難関係人は,船橋での機関操作に当たる前後に船尾ランプドアの揚降を行うほか,D指定海難関係人に対して,ランプドア揚降及び同ドアの上下部固縛装置の各操作と,ウィンチのブレーキ締付けを原則としている旨を説明した。
 D指定海難関係人は,前任の一等機関士が下船するまで,4,5回にわたりC指定海難関係人の立ち会いでランプドア操作を行ったが,その後自分一人で作業を行うときには,ブレーキを締め付けなかった。
(4)E社の安全管理
 E社は,常務取締役が安全管理の担当で,定期的に訪船して乗組員と話し合う機会を作り,他船での事故例を紹介するなどしていたものの,現場作業の安全について十分に把握していなかった。また,ランプドアの落下事故が生じた際に,ウィンチのインターロック機構を取り付ける改造工事を行ったが,同ドア揚降の一連の操作について,甲板部と機関部とが分けて行う体制の見直しをさせ,マニュアルを作成するなど,安全管理を十分に行わなかった。
(5)負傷に至る経緯
 光洋丸は,平成15年9月20日06時30分左舷付けしていた香川県多度津港を出港し,大阪港に向かった。
 C指定海難関係人は,出港する際,D指定海難関係人を機関室当直に就けて主機始動など出港前の準備作業に当たらせ,自ら左舷ランプドアの揚収作業に当たり,同ドア上下部の固縛を行ったのち,ウィンチのブレーキを締め付けなかった。
 B受審人は,多度津港を出港後,左舷ランプドアの安全装置を掛けたのち,ブレーキの状態を確認しないままウィンチのクラッチを離脱した。
 光洋丸は,同日午後大阪港堺泉北区で揚荷役を,翌21日午後西浦泊地で積荷役をそれぞれ右舷付けで行ったのち,A及びB両受審人並びにC及びD両指定海難関係人ほか2人が乗り組み,車両265台を積載し,船首2.4メートル船尾3.9メートルの喫水をもって,平成15年9月21日14時40分同泊地を発し,広島港に向かった。
 A受審人は,同日21時30分広島湾似島北西方沖合で入港スタンバイを発令し,各配置を指示するとともに,22時以降は陸側に綱取り作業員がいないことから,甲板手に対して作業艇で上陸するよう指示したが,B受審人に対して,ランプドア降下の準備に当たってウィンチのクラッチ嵌合を確実に行うよう指示しなかった。
 B受審人は,21時35分ごろボート甲板に降りて,左舷ランプドアの降下準備をするに当たり,作業艇の振り出しや船首尾での係船作業が続いて気がせき,ウィンチのクラッチを嵌合することなく,左舷ランプドアの安全装置を外し,同時45分ごろ同甲板右舷の作業艇ダビットに移動して伝馬式作業艇を振り出し,甲板手が同艇に乗り込んで着水し,離舷するのを見定めたのち,船首で甲板手の代わりに投錨と最初の係留索を送るのを手伝い,その後船尾甲板に戻って係留作業を行った。
 光洋丸は,21時55分ごろ広島港のマツダ5号岸壁に船首尾の係留索がとられ,同じころD指定海難関係人が船橋の主機ハンドル操作を終えてボート甲板の左舷ランプドア横に立っていたところ,22時00分少し前船尾甲板のB受審人が,同指定海難関係人に向かって同ドアを降ろすよう合図を送った。
 D指定海難関係人は,ウィンチのクラッチが嵌合されているか確認することなく,ランプドア上下部の固縛を解除した。
 こうして,光洋丸は,左舷ランプドアがウィンチのクラッチが離脱していた上,ワイヤドラムのブレーキも解放された状態で固縛が解除されたところ,同ドアが自由落下し始め,倒れ角度が増加するうちワイヤドラムが急激に回転し,22時00分広島港元宇品東防波堤北灯台から真方位047度1,820メートルの地点で,ブレーキを締め付けようとしたD指定海難関係人が,繰り出されて船首側に膨らむように延びたワイヤロープに左前腕等を強打された。
 当時,天候は晴で風力4の北北東の風が吹いていた。
 その結果,D指定海難関係人が左前腕切断,左鎖骨骨折,左肩甲骨骨折,右前腕挫滅傷,左肩・前胸部挫傷などを負った。また,左舷ランプドアが地面に激突して主ランプに座屈変形を,二折れヒンジの取付部に破損等をそれぞれ生じ,のちいずれも修理された。
 E社は,本船後ランプドアの揚降操作を甲板部立ち会いの下に行わせ,操作マニュアルを作成して内容を現場に掲示した。

(本件発生に至る事由)
1 ランプドアが,一連の操作のうちウィンチのクラッチ嵌脱とランプドアの安全装置の掛け外しを甲板部が,ウィンチによる揚降と固縛装置の操作を機関部が分けて行う体制で操作されていたこと
2 本件当時,ブレーキの締付けが,必ずしも行われなくなっていたこと
3 E社が,現場作業の安全について十分に把握していなかったこと
4 E社が,ランプドア揚降の一連の操作について,甲板部と機関部とが分けて行う体制の見直しをさせ,マニュアルを作成するなど,安全管理を十分に行わなかったこと
5 C指定海難関係人が,多度津港出港時にランプドアを揚収して固縛したのち,ウィンチのブレーキを締め付けなかったこと
6 A受審人が,B受審人に対してウィンチのクラッチ嵌合を確実に行うよう指示しなかったこと
7 B受審人が,左舷ランプドアの降下準備に当たり,ウィンチのクラッチを嵌合しなかったこと
8 D指定海難関係人が,ウィンチのクラッチが嵌合されているか確認しなかったこと

(原因の考察)

 船員労働安全衛生規則は,船舶所有者に対して,重量物その他を移動するウィンチの操作を,原則として甲板部乗組員又は航海の海技免許受有者に行わせるか,それらの者の監督の下で,一定の経験を積んだ者に行わせなければならないと規定する。すなわち,ランプドアが,一連の操作のうちウィンチのクラッチ嵌脱と同ドアの安全装置の掛け外しを甲板部が,ウィンチによる揚降と固縛装置の操作を機関部が分けて行う体制で操作されていたことは,ブレーキ操作及びクラッチ嵌合の不徹底につながったものと認められる。
 E社が,現場作業の安全について十分に把握しておらず,ランプドア揚降の一連の操作について,甲板部と機関部とが分けて行う体制の見直しをさせ,マニュアルを作成するなど,安全管理を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 ウィンチは,揚収状態のランプドアの安全装置が外され,ブレーキ解放のままクラッチ嵌合が省かれると,油圧による固縛が解除されると同時にランプドアの荷重がかかり,同ドアが自由落下する。すなわち,ブレーキが必ずしも締め付けられなくなっていたことは,本件発生の背景となった。
 このような状況で,A受審人が,入港に備えて接舷側のランプドア降下の準備を甲板長に行わせるに当たり,ウィンチのクラッチ嵌合を確実に行うよう指示しなかったことは,本件発生の原因となる。
 B受審人が,入港に備えてランプドア降下の準備を行うに当たり,ウィンチのクラッチを嵌合しないまま,安全装置を外したことは,本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人が,多度津港出港時にランプドアを揚収して固縛したのち,ウィンチのブレーキを締め付けなかったことは,出港後の甲板長によるクラッチ離脱に際してもチェックされることはなく,入港時のクラッチ嵌合が行われなかったことから,同ドアの自由落下につながったのであり,本件発生の原因となる。
 D指定海難関係人が,ウィンチを巻き降ろしてランプドアを降下させるに当たり,クラッチが嵌合されているか確認しなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件乗組員負傷は,ランプドア降下の操作が不適切で,ウィンチのクラッチが嵌合されないまま,ターンバックル付きフックによる安全装置と油圧シリンダによる固縛が解除され,ランプドアが自由落下してウィンチのワイヤドラムが急回転し,同ドラムにブレーキを掛けようとした一等機関士が,急回転で膨らむように延びたワイヤロープに左前腕等を強打されたことによって発生したものである。
 ランプドア降下の操作が適切でなかったのは,船長が甲板長に対して,ウィンチのクラッチ嵌合を確実に行うよう指示しなかったこと,甲板長が,ウィンチのクラッチを嵌合しなかったこと,機関長が,前回ランプドアを揚収した際にウィンチのブレーキを締め付けなかったこと及び一等機関士が,ウィンチのクラッチが嵌合されているか確認しなかったこととによるものである。
 船舶所有者が,ランプドア揚降の一連の操作について,甲板部と機関部とが分けて行う体制の見直しをさせ,マニュアルを作成するなど,安全管理を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
1 懲戒
 B受審人は,入港に当たってランプドアの降下準備を行う場合,ウィンチのクラッチを嵌合すべき注意義務があった。しかるに,同人は,作業艇の振り出しや船首尾での係船作業が続いて気がせき,クラッチを嵌合したものと思い,ウィンチのクラッチを嵌合しなかった職務上の過失により,クラッチ離脱のままD指定海難関係人が左舷ランプドアの固縛を解除して同ドアが自由落下する事態を招き,同指定海難関係人に左前腕切断等の傷を負わせ,ランプドアの主ランプに座屈変形などの損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して,同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 A受審人は,甲板長に対してランプドアの降下準備をさせる場合,ウィンチのクラッチ嵌合を確実に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに,同人は,一連の入港作業でいつものように行われるので問題ないと思い,ウィンチのクラッチ嵌合を確実に行うよう指示しなかった職務上の過失により,クラッチが嵌合されないまま左舷ランプドアの固縛装置が解除され,同ドアが自由落下する事態を招き,前示負傷と損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。

2 勧告

 C指定海難関係人が,前回ランプドアを揚収した際に,ウィンチのブレーキを締め付けなかったことは,本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては,勧告しない。
 D指定海難関係人が,ウィンチのクラッチが嵌合されているか確認しなかったことは,本件発生の原因となる。
 D指定海難関係人に対しては,勧告しない。 
 E社が,ランプドア揚降の一連の操作について,甲板部と機関部とが分けて行う体制の見直しをさせ,マニュアルを作成するなど,安全管理を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 E社に対しては,本件後,ランプドアの操作を甲板長の立ち会いの下で行う体制をとらせ,操作マニュアルを作成するなど,安全管理に努めていることに徴し,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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