日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  機関損傷事件一覧 >  事件





平成17年門審第1号
件名

漁船第二海幸丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成17年6月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西林 眞,千手末年,尾崎安則)

理事官
花原敏朗

受審人
A 職名:第二海幸丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)

損害
1番ないし4番シリンダのピストンピン及び連接棒小端部が焼損

原因
主機の運転状態の監視不十分及び警報装置の作動状況の確認不十分

主文

 本件機関損傷は,主機の運転状態の監視不十分及び警報装置の作動状況の確認がいずれも十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月6日00時00分
 山口県見島北東方沖合
 (北緯34度57分東経131度23分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第二海幸丸
総トン数 49.61トン
登録長 22.30メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 345キロワット
回転数 毎分830
(2)設備及び性能等
ア 第二海幸丸
 第二海幸丸(以下「海幸丸」という。)は,昭和52年4月に進水した鋼製漁船で,同62年4月に主機が同年に製造された現装機関に換装され,平成12年2月に船長Cが個人名義で購入したのち,同14年10月に所有者を会社名義に変更したもので,山口県大井漁港を基地として,通年にわたり見島周辺海域において一航海が2日ないし4日間の雑魚かご漁に従事していた。
イ 主機
 主機は,D社が製造したS185-ET2型と称する間接冷却方式のディーゼル機関で,逆転減速機を介してプロペラを連結していたほか,直結駆動する冷却清水ポンプ,冷却海水ポンプ及び潤滑油ポンプなどを備え,発停を機関室で,主機の増減速及び逆転機の前後進操作を操舵室の遠隔操縦装置によりそれぞれ行うようになっており,各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付されていた。
ウ 主機の諸管系統
 冷却清水は,冷却清水ポンプによって吸引加圧され,入口主管に送られて分岐し,各シリンダのシリンダジャケット及びシリンダヘッドと,過給機ケーシングとをそれぞれ冷却したのち出口集合管に至り,自動温度調整弁付の清水冷却器を経て同ポンプ吸引管へ循環するようになっており,通常,運転中の出口主管で75度(摂氏,以下同じ。)の温度が85度まで上昇すると,同主管に取り付けられた冷却清水温度上昇警報装置の温度スイッチが作動して機関室及び操舵室で警報を発するようになっていた。
 一方,冷却海水は,海水吸入弁から冷却海水ポンプによって吸引され,機付きの潤滑油冷却器と空気冷却器及び機関室に設置された清水冷却器を順に冷却するほか,一部が潤滑油冷却器出口で分岐して逆転減速機潤滑油冷却器を冷却し,それぞれ船外排出口から排出されるようになっていた。
 ところで,冷却海水ポンプは,主機台板の船首右舷側上部に取り付けられ,クランク軸歯車からポンプ駆動歯車を介して駆動される渦巻式で,ポンプ軸をケーシング取付け台の台板貫通部となる軸受室に内蔵した2個の玉軸受で支持し,ポンプケーシングの軸封装置としてメカニカルシールを装着していた。そして,同シール摺動面への異物の噛み込みや機関振動の影響などを受けて海水が漏洩した場合には,ポンプ軸に装着した水切りカラーで軸受室への浸入を防ぎ,ケーシング取付け台底部に設けたドレン穴から排出するようになっていたが,海水が漏洩したまま運転を繰り返していると,ドレン穴が塩分等の付着堆積で狭められたり,また漏洩量が増加したりすれば,漏水が同取付け台に滞留して軸受室に浸入するおそれがあった。
 また,潤滑油系統は,クランク室底部の容量230リットルの油だめに張り込まれた潤滑油が,潤滑油ポンプによって吸引加圧され,こし器及び潤滑油冷却器を経て入口主管に至り,シリンダごとに分岐して主軸受,クランクピン軸受及びピストンピン軸受を順に潤滑したうえピストンを冷却するほか,カム軸,伝動歯車装置,調速機などにも分流して各部を潤滑したのち,いずれも油だめに戻り循環するようになっていた。

3 事実の経過
 海幸丸は,平成14年8月に中間検査工事を行い,主機全シリンダのピストン抜き整備を行って全ピストンリングを新替えし,油だめを清掃のうえ潤滑油を新替えしたほか,冷却海水ポンプについても開放点検を行い,メカニカルシールが交換された。
 A受審人は,前示工事に立ち会う立場にあったものの,こし器類の開放掃除などに至るまで機関整備をすべて整備業者に任せたままで,工事内容を十分に把握しておらず,さらに,乗船したころから主機の発停時に警報音が吹鳴しなくなっていたが,同工事中を含め警報装置の作動状況を確認していなかったので,乗船以前からか冷却清水温度上昇警報用の温度スイッチ部分が取り外されていることや,潤滑油圧力低下警報装置が作動不良となっていることに気付かなかった。
 その後,海幸丸は,操業を繰り返していたところ,いつしか主機冷却海水ポンプのメカニカルシールが摺動面への異物の噛み込みなどによって漏洩し始め,ケーシング取付け台のドレン穴から漏水が排出されるようになった。
 ところが,A受審人は,主機始動時に機関室の見回りを行っていたものの,それまで主機の発停に支障がなく,運転音にも異常がなかったので大丈夫と思い,定期的に機関室に入室したうえ,諸管系からの漏洩の有無及び各部の圧力や温度を点検するなど,主機の運転状態を十分に監視していなかったので,冷却海水ポンプメカニカルシールからの漏水がドレン穴から排出されていることにも,やがて,同穴が塩分などの付着堆積により狭められたことから,漏水が軸受室に浸入する状況になっていることにも気付かないまま運転を続けていた。
 こうして,海幸丸は,A受審人ほか7人が乗り組み,操業の目的で,船首1.0メートル船尾2.5メートルの喫水をもって,同16年5月5日21時00分大井漁港を発し,主機を回転数毎分720にかけて見島北東方沖合の漁場に向けて航行中,冷却海水ポンプメカニカルシールからの漏水量が増加し,軸受室を経てクランク室へ海水が流入するとともに,潤滑不良による玉軸受の破損でポンプ軸が振れ回って冷却海水量が急激に減少したため,冷却清水温度が著しく上昇したものの,警報装置が作動しないまま1番ないし4番シリンダのピストンとシリンダライナが過熱膨張して焼き付き,翌6日00時00分見島北灯台から真方位054度15.5海里の地点において,主機が自停した。
 当時,天候は晴で風力2の南西風が吹き,海上は穏やかであった。
 自室で休息していたA受審人は,船橋当直者から主機が停止したとの連絡を受けて機関室に急行し,主機の過熱と潤滑油量が増加して白濁しているのを認め,主機が運転不能と判断してその旨を船長に報告した。
 海幸丸は,来援した僚船により大井漁港に引き付けられ,整備業者によって主機を精査した結果,潤滑油に海水が混入していたものの,主軸受及びクランクピン軸受等には特段の異常はなく,前示損傷のほか,1番シリンダのピストンピン及び連接棒小端部が焼損していることが判明し,のち1番ないし4番シリンダのピストン及びシリンダライナ,1番シリンダの連接棒及びピストンピンなどを新替えして修理された。

(本件発生に至る事由)
1 主機冷却清水温度上昇警報用の温度スイッチが取り外されていたこと
2 主機警報装置の作動状況の確認を行っていなかったこと
3 定期的に諸管系からの漏洩の有無及び各部の圧力や温度を点検するなど,主機の運転状態を十分に監視していなかったこと
4 主機冷却海水ポンプのメカニカルシールが摺動面への異物の噛み込みなどによって漏水し,やがてドレン穴が閉塞気味となって同ポンプ軸受室に海水が浸入したこと

(原因の考察)

 本件は,主機の運転状態を十分に監視していれば,冷却海水ポンプ軸封装置からの漏水を早期に発見でき,同ポンプ軸受室に海水が浸入して玉軸受が破損するには至らず,また,警報装置の作動状況を十分に確認していれば,冷却清水温度上昇警報装置用の温度スイッチが取り外されていることに気付いてこれを復旧でき,冷却海水量が著しく減少して冷却清水温度が上昇したとき同装置が作動し,主機の過熱運転を回避できたと認められる。
 したがって,A受審人が,定期的に諸管系からの漏洩の有無及び各部の圧力や温度を点検するなど,主機の運転状態を十分に監視しなかったこと,及び警報装置の作動状況の確認を十分に行わなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。

(海難の原因)

 本件機関損傷は,主機の運転状態の監視が不十分で,冷却海水ポンプ軸封装置からの漏水が放置され,漏水が軸受室に浸入して玉軸受が損傷し,冷却海水量が著しく不足したこと,及び警報装置の作動状況の確認が不十分で,冷却清水温度上昇警報装置が作動しないまま運転が続けられ,主機が過熱したことによって発生したものである。

(受審人の所為)

 A受審人は,1人で機関の運転にあたる場合,諸管系の異常があったときに直ちに対処できるよう,定期的に諸管系からの漏洩の有無及び各部の圧力や温度を点検するなど,主機の運転状態を十分に監視すべき注意義務があった。ところが,同人は,主機の発停に支障がなく,運転音にも異常なかったので大丈夫と思い,主機の運転状態を十分に監視しなかった職務上の過失により,冷却海水ポンプ軸封装置から漏水していることに気付かないまま運転を続け,漏水が軸受室に浸入して玉軸受が損傷し,冷却海水量が著しく不足して主機が過熱する事態を招き,1ないし4番シリンダのピストン及びシリンダライナ並びに1番シリンダの連接棒などを焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION