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平成16年函審第71号
件名

漁船第拾五正進丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成17年6月28日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(弓田邦雄)

理事官
平井 透

受審人
A 職名:第拾五正進丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
補機3番シリンダのピストン及びシリンダライナ,シリンダブロック,クランク室ドア等が破損,同シリンダのシリンダヘッド及び連接棒,クランク軸等が損傷

原因
潤滑油の性状管理不十分

裁決主文

 本件機関損傷は,潤滑油の性状管理が不十分で,補機クランクピン軸受の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月15日15時30分
 北海道襟裳岬西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第拾五正進丸
総トン数 138トン
登録長 32.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 625キロワット

3 事実の経過
 第拾五正進丸(以下「正進丸」という。)は,昭和59年3月に進水した,いか一本つり漁業に従事する鋼製漁船で,発電装置として,主機前部の動力取出軸から駆動される集魚灯用の220キロボルトアンペア交流発電機と発電用ディーゼル機関(以下「補機」という。)で駆動される船内電源用の同容量交流発電機を備えていた。
 補機は,B社が製造した6NSA-G型と称する,定格出力198キロワット同回転数毎分1,800(以下,回転数は毎分のものとする。)の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関で,平成15年4月の休漁期にピストン抜き掃除,ピストンリング取替え,吸・排気弁すり合わせ,潤滑油取替え,過給機開放等の全般的な整備が施工された。
 補機のピストンは,軽合金製でピストン冷却ノズルから噴出した潤滑油で冷却され,浮動式のピストンピンで連接棒と連結されており,斜め割りセレーション合わせの連接棒大端部に薄肉完成メタルが組み込まれ,左右舷側各1本のクランクピンボルトで締め付けられていたが,同ボルトの回り止めは取り付けられていない構造となっていた。
 補機の潤滑油系統は,油受内の潤滑油が直結ポンプに吸引・加圧され,冷却器,エレメント式連立こし器(以下「こし器」という。),入口主管を経て,主軸受,クランクピン軸受及びピストンピン軸受並びにピストン冷却ノズル,過給機軸受等に供給されるもので,同油圧力が約6.0キログラム毎平方センチメートル,同油量が検油棒の上限線で50リットル下限線で30リットルであった。
 A受審人は,同年7月下旬から正進丸に機関長として乗船し,北海道太平洋海域の漁場において一航海が約1箇月の操業に従事し,補機の保守管理に当たってほとんど連続運転していたところ,毎朝潤滑油量を点検して10日ごとに約10リットルの同油を補給し,約20日ごとにこし器エレメントを取り替えていたが,主機よりも補給量が多いので取り替えなくとも大丈夫と思い,同油の性状管理を十分に行うことなく,同油を一度も取り替えなかった。
 正進丸は,A受審人ほか7人が乗り組み,操業の目的で,船首1.6メートル船尾3.4メートルの喫水をもって,同年9月27日14時00分青森県八戸港を発し,北海道太平洋海域の漁場に至り,漁場を移動しながら操業に従事した。
 やがて,正進丸は,補機の潤滑油が汚損劣化し,各軸受の潤滑が阻害されたまま運転されるうち,3番シリンダのクランクピン軸受において,メタルの摩耗が進行した。
 こうして,正進丸は,翌10月15日補機を一定回転数1,800で運転して夜間の操業に備えて漂泊中,同軸受が焼損してメタル肉厚が著しく減少し,衝撃により左舷側クランクピンボルトが大きく緩んで連接棒大端部が口を開き,15時30分襟裳岬灯台から真方位281度24.8海里の地点において,ピストン頭部がシリンダヘッドに激突してピストンが破損し,ピストンから離脱した連接棒小端部がクランク室内部を振れ回って大音を発した。
 当時,天候は雨で風力3の東風が吹いていた。
 A受審人は,機関室で冷凍機の作業をしていたところ,異音に気付いて直ちに補機を停止し,主機を始動して集魚灯用発電機により船内電源を復旧した。
 この結果,補機3番シリンダのピストン及びシリンダライナ,シリンダブロック,クランク室ドア等が破損し,同シリンダのシリンダヘッド及び連接棒,クランク軸等が損傷し,操業の継続が困難となって八戸港に向かい,のちそれらは修理された。

(原因)
 本件機関損傷は,補機の保守管理に当たる際,潤滑油の性状管理が不十分で,同油が汚損劣化して各軸受の潤滑が阻害されたまま運転されるうち,3番シリンダのクランクピン軸受が焼損してメタル肉厚が著しく減少し,運転中の衝撃によりクランクピンボルトが大きく緩んで,ピストン頭部がシリンダヘッドに激突したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,補機の保守管理に当たる場合,潤滑油が汚損劣化しないよう,同油の性状管理を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,主機よりも補給量が多いので取り替えなくとも大丈夫と思い,潤滑油の性状管理を十分に行なわなかった職務上の過失により,同油を取り替えないまま長時間運転を続け,同油が汚損劣化して各軸受の潤滑が阻害されたまま運転されるうち,3番シリンダのクランクピン軸受が焼損してメタル肉厚が著しく減少し,運転中の衝撃によりクランクピンボルトが大きく緩んで,ピストン頭部のシリンダヘッドへの激突を招き,ピストン及びシリンダライナ,シリンダブロック,クランク室ドア等を破損し,同シリンダのシリンダヘッド及び連接棒,クランク軸等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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