(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年9月17日03時40分
北海道襟裳岬東方沖合
(北緯41度57.9分東経143度39.8分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船第三十八宝亀丸 |
総トン数 |
171トン |
登録長 |
31.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 主機等
第三十八宝亀丸(以下「宝亀丸」という。)は,昭和56年9月に進水した沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で,B社が製造した6U28型と呼称する定格出力1,323キロワット同回転数毎分680(以下,回転数は毎分のものとする。)の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関の主機と可変ピッチプロペラを備え,主機のシリンダには船首方から順に1番から6番までの番号が付されていた。
イ 主機の負荷制限装置
主機は,負荷制限装置の付設により連続最大出力735キロワット同回転数550として登録され,そのときのプロペラピッチは海上公試運転成績書写中の記載によれば20.4度であった。
ところで,宝亀丸は,平成7年6月C社に購入されたのち,主機の負荷制限装置が取り外された。
ウ 主機の排気集合管と伸縮継手
D社が製造したVTR251-2型と称する軸流式排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)は,主機後部に付設され,上部及び下部各排気集合管が過給機入口ケーシングに接続し,1,4及び5番各シリンダの排気ガスが上部排気集合管に,2,3及び6番各シリンダの排気ガスが下部排気集合管にそれぞれ集まって同ケーシングに流入するようになっており,各排気集合管には隣接するシリンダ間及び過給機入口の計3箇所に同寸法の伸縮継手が取り付けられていた。
伸縮継手は,両端の鋼製フランジ,厚さ1.0ミリメートル(以下「ミリ」という。)のステンレス製ベローズ及び厚さ2.3ミリの耐硫酸腐食鋼製内筒で構成され,フランジ外径が190ミリ,内筒径が105ミリ,全長が126ミリであった。
3 事実の経過
A受審人は,毎年9月から翌年5月までの操業に従事し,全速力時に主機回転数693プロペラピッチ18.8度,各シリンダの排気ガス出口温度(以下「排気温度」という。)を摂氏420ないし445度(以下,温度については摂氏を省略する。)として運転し,休漁期に整備業者に依頼して主機の整備を行っていた。
平成14年11月A受審人は,翌年4月までの予定で択捉島沖合で操業を始め,漁場が遠いことから,往復の航海に主機回転数を700プロペラピッチを19.0度までそれぞれ上げ,排気温度が430ないし455度と約10度上昇する状況で,100パーセントの負荷で運転していた。
ところで,A受審人は,択捉島沖合の操業では伸縮継手が赤熱することが再三あり,赤熱するとベローズに亀裂が入って排気ガスが漏洩するところから,予備の同継手を常時3個保有し,赤熱すれば取り替えるようにしていた。
11月上旬A受審人は,なぜか4及び5番シリンダの排気温度が約10度高くなり,両シリンダ間の伸縮継手(以下「4番伸縮継手」という。)のベローズが過熱され,平素の赤味を帯びた状態から赤熱しているのを認めたが,4番伸縮継手を取り替えたので破損することはあるまいと思い,両シリンダの燃料噴射弁を点検して燃焼状態を調べるとか,主機回転数またはプロペラピッチを下げるとかして,主機の熱負荷を軽減する措置をとらなかった。
A受審人は,4及び5番シリンダの排気温度が高いまま,翌年4月まで主機の運転を続けていたところ,4番伸縮継手内筒が熱疲労して微細亀裂を生じた。
同15年6月A受審人は,ピストン抜出し,吸・排気弁すり合わせ,過給機開放,燃料噴射弁ノズル取替え等の全般的な主機の整備を行い,同年9月から襟裳岬沖合で操業に従事していたところ,4番伸縮継手内筒の亀裂が進行した。
こうして,宝亀丸は,A受審人ほか15人が乗り組み,すけとうだら漁の目的で,船首1.9メートル船尾4.0メートルの喫水をもって,9月16日23時00分北海道釧路港を発し,襟裳岬東方沖合の漁場に向かった。
宝亀丸は,主機回転数693プロペラピッチ18.8度の全速力で航行中,4番伸縮継手の内筒が破損するとともにベローズに亀裂を生じ,ほぼ漁場に達した翌17日03時40分襟裳岬灯台から真方位083度19.0海里の地点において,大破片が排気通路に引っ掛かり,小破片が過給機に侵入し,機関室で当直中のA受審人が漏洩した排気ガスの臭いに気付き,給気圧力の低下を認めた。
当時,天候は曇で風力2の西風が吹き,海上は穏やかであった。
A受審人は,各部調査のうえ,漁場に到着した04時ごろ主機を停止して4番伸縮継手を取り替えたが,給気圧力が改善されず,排気温度も高かったので,取り外した同継手を調べて内筒が破損・離脱していることを知った。
そして,A受審人は,排気通路に引っ掛かっていた大破片及び過給機ノズルリング手前の小破片を取り除いたうえ,主機回転数及びプロペラピッチを下げて2日ばかり操業を続けた。
この結果,過給機ノズルリングに亀裂・変形,ローター軸タービンブレードに変形をそれぞれ生じたが,それらはのち修理された。
(本件発生に至る事由)
1 主機の負荷制限装置が取り外されていたこと
2 択捉島沖合の操業において,主機が100パーセントの負荷で使用され,排気温度が高かったこと
3 4番伸縮継手が赤熱したこと
4 A受審人が,4及び5番シリンダの排気温度が高いまま主機の運転を続け,熱負荷を軽減しなかったこと
5 4番伸縮継手内筒が破損したこと
(原因の考察)
本件は,4番伸縮継手が赤熱したとき,排気温度が高かった4及び5番シリンダの燃料噴射弁を点検して燃焼状態を調べるとか,主機回転数またはプロペラピッチを下げるとかして同温度を下げ,熱負荷を軽減していれば,その後同継手内筒が熱疲労せず,破損することがなかったものと認められる。
したがって,4番伸縮継手が赤熱したこと,A受審人が,4及び5番シリンダの排気温度が高いまま運転を続け,熱負荷を軽減しなかったこと及び同継手内筒が破損したことは,本件発生の原因となる。
主機が100パーセントの負荷で使用され,排気温度が高かったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,更に同温度が高くなって赤熱しなければ4番伸縮継手が熱疲労することがなかったのであって,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
主機の負荷制限装置が取り外されていたことは,本件発生の原因とは認めないが,同装置を取り外すことは,漁業生産力の合理的な発展に寄与するとの漁船法の趣旨に反するものであるから,厳に慎まなければならない。
(海難の原因)
本件機関損傷は,主機の負荷及び排気温度が高い状況下,更に4及び5番シリンダの同温度が高くなって排気集合管の4番伸縮継手が赤熱した際,熱負荷を軽減する措置が不十分で,同温度が高いまま運転が続けられ,同継手内筒が熱疲労して破損し,その破片が過給機に侵入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,主機の負荷及び排気温度が高い状況下,更に4及び5番シリンダの同温度が高くなって排気集合管の4番伸縮継手が赤熱した場合,同継手が熱疲労しないよう,両シリンダの燃料噴射弁を点検して燃焼状態を調べるとか,主機回転数またはプロペラピッチを下げるとかして,熱負荷を軽減する措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,4番伸縮継手を取り替えたので破損することはあるまいと思い,熱負荷を軽減する措置をとらなかった職務上の過失により,排気温度が高いまま運転を続け,熱疲労により同継手内筒の破損を招き,その破片が過給機に侵入してノズルリング及びローター軸タービンブレードを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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