(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月26日04時20分
北海道室蘭港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第二十一三晃丸 |
総トン数 |
499トン |
全長 |
75.853メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第二十一三晃丸(以下「三晃丸」という。)は,平成4年1月に進水した,航行区域を限定沿海区域とし,専ら鋼材輸送に従事する鋼製貨物船で,バウスラスタを有し,駆動装置としてC社が製造したUM6BG1TC2型と呼称する,連続最大出力169キロワット同回転数毎分2,700の過給機・逆転減速機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関(以下「バウスラスタ機関」という。)を,船首部第2甲板下のスラスタ室に備え,潤滑油量が約24リットルであった。
三晃丸は,船橋内にバウスラスタ機関の遠隔操縦装置を備え,同機関の始動・停止,回転数及び回転方向の制御をそれぞれ行うようになっており,船橋の操船者が各港での離着岸時に30分ないし1時間運転していた。
バウスラスタ機関の整備は,機関部が所掌し,適宜潤滑油の補給及び取替え,同油及び燃料油各こし器のエレメント取替えなどを行っていたが,運転時間が少ないことから,ピストン抜き整備は行われていなかった。
A指定海難関係人は,昭和43年10月B社を設立し,四級海技士(航海)及び五級海技士(機関)の免許を有して以前には社船に船長として乗船しており,本件当時三晃丸ともう一隻の同型船を所有していた。
ところで,A指定海難関係人は,バウスラスタ機関のクランク室に海水が浸入するとの報告を乗組員から受け,平成12年3月の定期検査の入渠時において,上甲板上に開口した排気管の同甲板貫通部に生じた亀裂を修理するとともに,潤滑油の取替えを行った。
その後,三晃丸は,バウスラスタ機関の傷んでいたシリンダライナ及びピストンリングの摩耗が進行し,いつしか運転中に潤滑油が燃焼するようになった。
同14年7月ごろ,A指定海難関係人は,バウスラスタ機関の排気管から白煙が出るようになったとの連絡を乗組員から受け,その後白煙及び潤滑油の消費量が次第に多くなっていたが,接岸時の操船にそれほど支障がないので整備しなくてもよいと思い,同年10月の第一種中間検査の入渠時にピストン抜き整備を行わなかった。
三晃丸は,船長ほか4人が乗り組み,空倉のまま,船首2.0メートル船尾3.5メートルの喫水をもって,同15年7月25日14時20分北海道苫小牧港を発して室蘭港に向かい,18時30分同港に入港して錨泊し,翌26日03時30分ごろ揚錨して新日本製鉄全天候岸壁へ向かった。
こうして,三晃丸は,主機を停止回転とし,バウスラスタ機関を運転して同岸壁に接岸作業中,シリンダライナ及びピストンリングの摩耗が著しく進行し,同リングがこう着して排気管から激しく白煙が噴出し,04時20分室蘭港新日本製鉄ふとう灯台から真方位078度1.06海里の地点において,煙が船橋前面まで立ち込め,前方の視認が困難となった。
当時,天候は曇で風力3の東北東風が吹いていた。
この結果,のちバウスラスタ機関が換装された。
(原因)
本件機関損傷は,バウスラスタ機関排気管からの白煙及び潤滑油の消費量が次第に多くなった際,ピストン抜き整備が不十分で,シリンダライナ及びピストンリングの摩耗が著しく進行し,同リングがこう着したことによって発生したものである。
(指定海難関係人の所為)
A指定海難関係人が,バウスラスタ機関排気管から白煙が出るようになったとの連絡を乗組員から受け,その後白煙及び潤滑油の消費量が次第に多くなった際,入渠時に同機関のピストン抜き整備を行わなかったことは,本件発生の原因となる。
A指定海難関係人に対して勧告しないが,今後機関部各機器の異常について乗組員から報告を受けたときは,早めに善処するよう要望する。