(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月19日16時40分
長崎県五島列島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十八豊福丸 |
総トン数 |
78.91トン |
登録長 |
27.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
294キロワット |
3 事実の経過
第二十八豊福丸(以下「豊福丸」という。)は,昭和53年に進水した一層甲板船尾機関室型のFRP製漁船で,毎年12月から翌年10月までの期間,長崎県五島列島から沖縄周辺にかけての海域で一航海5日程度のかつお一本釣り漁業に従事し,11月には入渠して船体及び機関の整備を行っていた。
機関室は,下段中央に主機が据え付けられ,主機の船首方両側に定格電圧225ボルト容量120キロボルトアンペアの三相交流発電機を駆動用ディーゼル機関とともに装備し,右舷機が1号発電機,左舷機が2号発電機と呼称されており,中段は,床プレートが主機シリンダヘッド周囲を囲むように配置され,前部中央に冷凍機2台を船横方向に並べて装備し,冷凍機の右舷側に主配電盤が設置されていた。
主配電盤は,高さ1.53メートル(m)幅1.9m奥行き0.5mのデッドフロント型で,機関室前隔壁と幅約0.5mの通路を隔てて設置されており,右舷側から発電機盤,2面の動力電源給電盤,照明及び制御電源給電盤に4分割され,いずれも前面が横開きできるパネル扉になっていて,発電機盤前面の同扉には,上部に両発電機の電圧計,電流計,運転表示灯等を取り付け,ほぼ中央の左右に設けられた開口部は扉を閉じたまま内部に設置した両発電機の気中遮断器を操作できるように位置が合わせてあり,下部には接地灯等が取り付けてあった。
A受審人は,親族が所有するかつお一本釣り漁船に機関員で乗船し,免許取得後は機関長として乗り組んだのち,豊福丸所有者と遠縁に当たる関係で平成8年2月から同船に乗り組むようになり,同11年1月まで一等機関士として,同13年1月からは機関長として機関及び電気機器の取扱い整備に当たっていた。
A受審人は,船火事の怖さ及び電気火災の多くが配線端子の緩みや端子間のほこりによって誘発されることを知識として承知していたので,主配電盤について,電気業者には必要な検査年に絶縁抵抗を計測させる程度であったものの,毎年入渠の際に機関整備業者に内部点検及びほこりの除去を依頼し,自らも水揚港に寄港したとき等を利用して両発電機を停止したうえ,配線端子の緩みや過熱変色している箇所がないかなどを点検し,当直中には適宜接地灯をチェックするようにしていたところ,いつしか,2号発電機用気中遮断器に接続する配線端子のビスが投入や遮断時の振動の影響で緩み始めたが,同端子が気中遮断器の裏側だったこともあってこのことを知ることができなかった。
豊福丸は,A受審人ほか12人が乗り組み,平成15年7月19日05時00分長崎県三重式見港を発し,操業の目的で,同県五島列島周辺の漁場に向かい,14時00分漁場に至り,2号発電機を単独運転して操業を開始したところ,主配電盤において,前示配線端子のビスの緩みが進行して接触不良による電気火花を発し,16時40分北緯32度54分東経128度26分の地点において,配線被覆に燃え移って主配電盤内部が火災となり,船内電源が喪失した。
当時,天候は晴で風力2の北風が吹き,海上は穏やかであった。
機関室当直に就いていたA受審人は,上甲板上でいけすとして使用している魚倉内の活餌の状態を見ていて船内電源が喪失したことに気付き,機関室に急行して主配電盤内部から火炎が上がっているのを認め,持運び式泡消火器で消火に当たった。
豊福丸は,異状に気付いた乗組員が消火作業に加わり,3本の泡消火器を使用して短時間で鎮火させたものの,主配電盤が焼損して給電不能となり,運航を断念して救助を要請し,来援した僚船により長崎県三重式見港に引き付けられ,のち焼損した電気部品及び配線等を新替した。
(原因)
本件火災は,主配電盤内部において,2号発電機用気中遮断器の配線端子に振動による緩みが生じ,五島列島西方沖合で同発電機を運転して操業中,同端子部が過熱発火して配線被覆に燃え移ったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。