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平成6年神審第94号
件名

油送船れい丸火災事件
第二審請求者〔理事官 岸 良彬〕

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成7年4月13日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(中井 勤,甲斐賢一郎,橋本 學)

理事官
相田尚武

受審人
A 職名:れい丸機関長 海技免許:三級海技士(機関)

損害
通風ダクト及び排気マニホルドの防熱材の一部などが焼損

原因
主機付過給機の同油圧力計導管が潤滑油入口管への管継手内で破断し、噴出した同油が主機のマニホルドに降りかかったこと

主文

 本件火災は,航行中,主機付過給機の潤滑油入口管に接続されていた同油圧力計導管が破断し,噴出した潤滑油が排気管に降りかかって着火したことによって発生したものである。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成5年8月5日04時20分
 和歌山県日ノ御埼北西方沖合
 (北緯33度56.8分 東経34度58.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 油送船れい丸
総トン数 2,99トン
全長 102.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット
回転数 毎分220
(2)設備及び性能等
 れい丸は,平成3年2月に竣工し,船体後部に機関室を有する鋼製油送船で,ナフサ及びガソリンの輸送に従事していた。
ア 機関室
 機関室は,3段構造となっており,下段には中央に主機,主機の両舷に各種ポンプや停泊用発電機などの補機類,中段には両舷に主発電機,船首尾側にそれぞれ空気槽及び補助ボイラなど,また,上段には両舷側に燃料油及び潤滑油の各澄しタンク及び供給タンクなどの置きタンクが設置され,上段の船首側に主機のシリンダヘッド及び過給機などが見えるガラス窓を後部壁面に備えた監視室が設けられていた。
イ 主機
 主機は,B社が製造した,6EL44型と称するシリンダ数6の4サイクル機関で,各シリンダには船首方から順番号が付され,常用回転数を空倉時及び満載時にそれぞれ毎分195及び同192として運転されていた。
 排気マニホルドは,1ないし3番及び4ないし6番シリンダの排気が,各シリンダヘッド右舷側でそれぞれ合流して2群となり,主機付過給機(以下「過給機」という。)に流入する2本の排気集合管で,それらの表面に防熱材が巻き付けられたうえ,鋼製化粧板による防油措置が施されていたものの,過給機への長さ約30ないし50センチメートル(cm)の入口部が,同化粧板に覆われていない状態であった。
ウ 過給機
 過給機は,C社が製造したNA34/T型と称する排気タービン式のもので,主機シリンダ列の船尾側端部に1台設置され,その上部には容量約59リットルの潤滑油重力タンク(以下「重力タンク」という。)が取り付けられ,排気入口には2本の排気マニホルドが,管フランジにより上下に隣接した状態で接続されていた。
エ 主機システム油系統
 主機システム油系統は,ドライサンプ方式で,二重底にあって容量約11キロリットル(kl)のサンプタンク内に貯蔵された潤滑油が,1次こし器を経て直結潤滑油ポンプ又は電動予備潤滑油ポンプで吸引・加圧され,潤滑油冷却器及び2次こし器を経て約3.2キログラム毎平方センチメートル(kgf/cm2)の圧力で主機入口主管に至り,主機各部を潤滑・冷却するほか,一部が同主管から分岐し,オリフィス及び圧力調節弁で圧力約11.5kgf/cm2に調圧され,ほぼ直線状で立ち上がる呼び径20Aの配管用炭素鋼鋼管(以下「潤滑油入口管」という。)を経て,重力タンク及び過給機に供給されるようになっていた。
オ 過給機計装用配管
 主機には,その前部及び架構右舷側のほぼ中央部に,それぞれ過給機潤滑油圧力計及び圧力1.1kgf/cm2で作動する圧力低下警報用圧力スイッチ(以下「圧力スイッチ」という。)が設けられ,双方に外径8ミリメートル(mm)厚さ1mmのりん脱酸銅製管(以下「導管」という。)が,接続されていた。
 前記2本の導管(以下それぞれ「圧力計導管」及び「圧力スイッチ導管」という。)は,潤滑油入口管の,排気マニホルドからやや上方及び下方の位置に設けられたソケットに,いずれも食込み形ユニオンと称する管継手で無理なく接続されており,圧力計導管の管継手近くが結束バンドで潤滑油入口管に固縛され,圧力スイッチ導管と共に排気マニホルドの過給機入口部と主機架構後部との狭い空間を下方に降り,他の計装用配管数本と防振金具で束ねて固定された状態で,同架構右舷側下部に沿って敷設されていた。
カ 消防設備
 機関室には,船舶消防設備規則及び危険物船舶運送及び貯蔵規則の定めるところにより,射水消火装置や消火器のほか,炭酸ガスを消火剤とした固定式鎮火性ガス消火装置及び火災探知装置を備え,機関室左舷後部の区画に炭酸ガスボトルが格納されていた。

3 事実の経過
(1)本件発生前に行われた修理
 平成15年8月3日A受審人は,航行中,圧力スイッチ導管の潤滑油入口管との管継手近くで振動による亀裂が生じ,潤滑油が漏洩しているとの報告を当直中の二等機関士から受け,直ちに主機を停止して応急処置を施したのち,運転を再開して,翌4日早朝愛媛県波方港に入港した。
 また,波方港で停泊中,A受審人は,自身がれい丸に乗船して間もなく,圧力計導管の潤滑油入口管との管継手からの距離が約2メートル(m)で,主機架構右舷側下部の5番シリンダ位置に長さ約40mmに亘って肉盛り補修材による修理箇所があることを承知していたこともあり,同導管も圧力スイッチ導管と同様に振動の影響を受けていると判断し,点検を行ったところ,同修理箇所から微量の潤滑油が漏洩しているのを認めたので,同種の補修材を重ねて塗り固める方法で修理を行った。
(2)本件発生に至る経緯
 れい丸は,A受審人ほか9人が乗り組み,船首4.95m船尾6.30mの喫水をもって,ナフサ5,000klを積載し,8月4日15時20分波方港を発し,三重県四日市港に向かった。
 出港後,れい丸は,主機の使用燃料油をA重油からC重油に切り替え,回転数を毎分192まで増速し,二等機関士,一等機関士及びA受審人の3人が,00時から4時間毎に区分された各時間帯に輪番で機関当直に就く当直体制をとり,以前からの習慣により,定時の30分前にそれぞれ当直を交代しながら航行を続けていた。
 各当直者は,入直前のほか,当直中,少なくとも1時間毎に機関室内の巡視を行いつつ,主として監視室内での監視業務に従事していたところ,8月5日03時30分一等機関士が機関室の巡視を終えて異常のないことを確認したのち,現直の二等機関士から当直を引き継いだ。
 こうして,れい丸は,過給機の排気入口温度が摂氏約520度となった状態で主機を運転し,紀伊水道を南下中,いつしか,過給機の潤滑油圧力低下警報装置が作動しなかったものの,圧力計導管が潤滑油入口管との管継手内で破断し,噴出した同油が過給機近くの排気マニホルドに降りかかる状況となっていたところ,8月5日04時20分紀伊日ノ御埼灯台から真方位308度5.7海里の地点において,機関室の巡視を行っていた一等機関士が,同マニホルドに施されていた防熱材に浸潤した同油が着火し,主機後部付近が火災となったことを認め,直ちにA受審人に連絡したとき,火災警報装置が作動した。
 当時,天候は晴で風力3の南南西風が吹き,海上は平穏であった。
 その結果,れい丸は,主機を停止したうえ,泡消火器による初期消火が行われたが功を奏さなかったので,固定式鎮火性ガス消火装置を使用して鎮火され,通風ダクト及び排気マニホルドの防熱材の一部などの焼損が判明した。
 その後,れい丸は,圧力計導管の破断部に応急修理を施したうえ,航行を再開して四日市港に入港し,のち,同導管の管継手位置を圧力スイッチ用のものより下方に変更するなど,同様の破断が生じた場合であっても,排気マニホルドへの飛散を軽減する措置がとられた。

(本件発生に至る事由)
1 圧力計導管が,長期間振動の影響を受けて金属疲労が進行し,管継手内で破断したこと
2 噴出した潤滑油が排気マニホルドの防熱材に降りかかったこと
3 圧力計導管の管継手部付近から潤滑油が噴出する事態に備え,排気マニホルドの過給機入口部に防油措置が施されていなかったこと

(原因の考察)

 本件火災は,常用回転数で主機を運転中,圧力計導管が潤滑油入口管との管継手内で破断し,噴出した同油が至近距離にあった排気マニホルドの過給機入口部に降りかかって着火し,主機後部付近が火災となったものである。
 管継手として用いられていた食込み形ユニオンは,導管先端に挿入したスリーブをユニオンナットを締め込むことによって導管外周及び管継手本体内周に食い込ませて油密を保つ構造となっており,広い取付空間を必要とせず,管の脱着も簡便であることから,計装配管系など比較的径が小さい管に対して広く採用されているものである。
 管材料として用いられていたりん脱酸銅は,常温での変形及び工作が容易で,前記管継手を採用できることなどから,著しく高圧となる流体である場合を除き,計装用配管材料として一般的に使用されるものであるが,鋼管と比べ機械的強度が劣るので,応力の集中や他の硬度の高い部分との擦過を最小限に抑えるため,特に振動に注意する必要があった。このため,圧力計導管は,管継手近くを結束バンドで固縛するなどの防振措置が施されていた。
 圧力計導管は,本件発生の約1時間前に行われた巡視の際には異常がなかったことから,ユニオンナットが緩んでいたり,少量の漏洩があったとは言い難く,機関振動の影響を受けていた同管の管継手内スリーブの当たり面を支点として繰り返し曲げ応力が付加されていたことにより亀裂を生じ,円周方向に急速に進展し,破断に至ったと考えられる。
 平成15年8月4日A受審人は,乗船以前に補修材で長さ約40mmに亘って肉盛りされた圧力計導管の一部から,潤滑油が漏洩しているのを認めた際,それが振動によるものと推認できる状況であったが,同部と本件亀裂部とは約2m離れており,同様の振動による影響が及んでいたとは考え難く,当該漏洩と管継手部の亀裂との発生時期的な関連を見出すことはできない。また,管継手部に振動があったことを認定できるものの,それが有害か否かの判断が可能な状態であったとまでは言えず,管継手内で破断することを予見し,本件を予防するための措置をA受審人に期待できるものではない。
 したがって,A受審人の所為は本件発生の原因とならない。
 加えて,圧力計導管の管継手部から潤滑油が噴出する事態に備え,排気マニホルドの過給機入口部に防油措置が講じられていなかった点については,同部付近の点検を容易にする意図が優先された結果であり,防油措置に関する規定を定めた船舶機関規則の適用を除外できると考えられる。

(海難の原因)
 本件火災は,常用回転数で主機を運転中,過給機潤滑油圧力計導管が同油入口管との管継手内で破断し,噴出した同油が至近距離にあった排気マニホルドの過給機入口部に降りかかって着火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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