(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年4月13日07時40分
佐賀県神集島北岸沖
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船修生丸 |
総トン数 |
1.5トン |
登録長 |
6.93メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
36キロワット |
3 事実の経過
修生丸は,船内外機を備えた平底の和船型FRP製漁船で,A受審人(昭和60年7月二級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,平成16年4月13日早朝,活魚を係船地のいけすから同県唐津港まで運んで水揚げしたのち,前日夕刻3箇所に投網した刺し網を順に揚網する目的で,船首0.2メートル船尾0.1メートルの喫水をもって,05時00分唐津港を発し,神集島周辺の漁場に向かった。
ところで,修生丸は,全長が約7.8メートルあり,船首端から約1メートルの部分が物入れに,続く約4メートルの部分が高さ40センチメートル(以下「センチ」という。)ばかりのブルワークを巡らせた前部甲板になっており,その後方約2.5メートルが機関室で,同室上にコの字形の風防で前面及び両側面を囲った操舵席が設けられ,前部甲板下は,後部中央の左右両舷に備えたいけすのほかは空所となっていて,物入れ及び両いけすにはさぶたが被せられていた。
また,刺し網は,網幅及び網丈が約10メートル及び1メートルの漁網5枚を1張りとしたもので,浮子や沈子など付属物を合わせると1張りの重さが約150キログラムとなり,普段,A受審人は波が高いときには積み過ぎとならないよう,1張り毎に操業を中断して神集島漁港まで往復し,揚収した網を岸壁に上げたうえ,次の揚網に掛かるようにしていた。
05時20分A受審人は,神集島南東岸沖の漁場に着き,1番目の刺し網の揚網を開始し,イシダイなどを得るうち,風はそんなに強くはなかったものの,入手していた気象情報に反して06時ごろから波とうねりが高くなるのを認めたが,時化で刺し網が傷むのを防ぐため全ての網をできるだけ早く揚収してしまおうと思い,同時15分揚網を終えたとき,いつものように操業を中断して帰港することなく,2番目の刺し網に向かい,同時20分神集島港宮崎灯台から068度(真方位,以下同じ。)1,500メートルの地点に当たる同島北東岸沖の投網地点に至って揚網に掛かった。
07時35分A受審人は,2番目の刺し網の揚網を終え,そのころには,時に波高3メートルほどのうねりが押し寄せるようになり,揚収した合計約300キログラムの刺し網2張りを前部甲板に置いた状態では,船首から波の打ち込みを受けやすく,多量の海水が流入するおそれがあったが,依然として操業を中断することなく,さらに最後の刺し網を揚網するため,3番目の投網地点に向かった。
こうして,A受審人は,07時37分神集島港宮崎灯台から048度1,200メートルの地点において,針路を3番目の刺し網に向かう255度に定めて8.0ノットの速力で手動操舵で進行し,同時40分わずか前,目印のブイまで10メートルばかりに近づいたとき,北から押し寄せる大きなうねりを見て危険を感じ,船体をうねりに立てようと右舵をとったところ,北に向首したとき船首から大きなうねりの中に突入した。
修生丸は,前部甲板に多量の海水が打ち込むとともに,うねりに伴って左舷側に傾斜したとき甲板上の漁網が海水と共に左舷に移動し,船体が大傾斜して復原力を喪失し,07時40分神集島港宮崎灯台から016度650メートルの地点において,左舷側に転覆した。
当時,天候は晴で風力2の東北東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,北方から波高3メートルのうねりがあった。
転覆の結果,修生丸は,船底を上にした水船状態となり,海中に投げ出されたA受審人は同船につかまって漂流中,陸上で見ていた者の通報で来援した神集島漁港の僚船によって救助され,修生丸は同漁港に曳航されたが,機関室の機器等に濡損及び救助作業の際に僚船と接触して船体に損傷を生じ,のち,修理費の関係から譲渡処分された。
(原因)
本件転覆は,佐賀県神集島周辺海域において,3箇所に投網した刺し網を順に揚収するつもりで最初の網を揚網中,波とうねりが高まってきたことを認めた際,いつものように操業を中断して帰港し,揚収した網を1張り毎に陸揚げする措置がとられず,2張りの刺し網を前部甲板に積載したまま3番目の投網地点に向けて航行中,遭遇した大きなうねりによって多量の海水が甲板に打ち込み,船体が大傾斜して復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,佐賀県神集島周辺海域において,3箇所に投網した刺し網を順に揚収するつもりで最初の網を揚網中,波とうねりが高まってきたことを認めた場合,刺し網2張りを前部甲板に積載したまま航行すると,船首から波の打ち込みを受けて多量の海水が流入するおそれがあったから,いつものように操業を中断して帰港し,揚収した網を陸揚げするべき注意義務があった。しかしながら,同人は,時化で刺し網が傷むのを防ぐため,全ての網をできるだけ早く揚げてしまおうと思い,操業を中断して帰港し,揚収した網を陸揚げしなかった職務上の過失により,2張りの刺し網を前部甲板に積載し,さらに最後の刺し網の投網地点に向けて航行中,遭遇した大きなうねりによって多量の海水が打ち込み,船体が大傾斜して復原力を喪失し,修生丸が転覆する事態を招き,機関室の機器の濡損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。