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平成17年長審第6号
件名

押船第七福江丸被押土運船福江36号乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年6月16日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(稲木秀邦,山本哲也,藤江哲三)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:第七福江丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第七福江丸甲板員 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
プロペラ翼に欠損及び曲損

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月18日23時10分
 平戸島東岸
 (北緯33度18.2分 東経129度31.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 押船第七福江丸 土運船福江36号
総トン数 19トン  
全長 18.00メートル 43.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,176キロワット  
(2)設備及び性能等
ア 第七福江丸
 第七福江丸は,平成9年に建造され,土砂などを積載したバージを押航する2機2軸の鋼製押船で,竣工時からC社が傭船して運航しており,上甲板上の船体中央部やや後方に機関室囲壁が,その前部に接して甲板上の高さ約3.3メートルの船橋楼がそれぞれ設置され,船橋楼下部に厨房及び便所,その船首側に甲板下乗組員居住区への階段,同上部に独航時使用の操舵室が,また,船橋楼上に立てられた海面から約6.1メートルの高さの4本の支柱上に押航時に使用する操舵室(以下「操舵室」という。)がそれぞれ設けられていた。
 操舵室は,長さ1.7メートル幅1.8メートル及び高さ1.9メートルで,両舷側に引き戸が設けられており,同室内前部には左舷側から順にGPSプロッター,レーダー,直径約12センチメートルの磁気コンパス,操舵スタンド,主機遠隔操縦装置及び主機計器盤が装備され,船橋前面壁上部には,舵角指示器が取り付けられ,舵輪の後方にはいすが置かれていた。
 当時の喫水で,眼高は約7メートルとなり,福江36号と押航状態にすると,船橋から福江36号の先端までの距離は約48メートルであった。
イ 自動操舵装置
 自動操舵装置は,磁気コンパスと操舵装置を連動させたもので,同コンパスが小型で外力の影響を受けた際にコンパスカードの振れが大きく,整定するまでに時間を要することから,海象が比較的穏やかなときに自動操舵で航行する際も,作動状況を確認する必要があった。
ウ 福江36号
 福江36号は,平成9年に建造された800立方メートル積み非自航式の鋼製バージで,甲板下に前から順に船首バラストタンク,両舷にバラストタンクを備えた長さ25.00メートル幅9.00メートルの貨物倉,後部バラストタンク,ポンプ室及びその左舷側に錨鎖庫が配置されていた。また甲板上の船尾部に高さ2.5メートルのポンプ室囲壁が,船尾中央に押船用凹型嵌合部がそれぞれ設けられていた。

3 事実の経過
 第七福江丸(以下「福江丸」という。)は,A,B両受審人が2人で乗り組み,空倉状態で,船首尾とも1.0メートルの等喫水となった福江36号(以下「バージ」という。)の船尾凹部に船首部を嵌合して固定し,全長約59.5メートルの押船列(以下「福江丸押船列」という。)を構成し,回航する目的で,船首0.7メートル船尾2.4メートルの喫水をもって,平成16年5月18日07時00分大分県中津港を発し,長崎県福江港に向かった。
 発航後,A受審人は,狭水道通航時間帯に合わせて自身が船橋当直に就くことができるよう発航操船に引き続き入直し,自身とB受審人とによる単独3時間ないし4時間の2交代で行う当直体制を繰り返し,当直終了後もときどき昇橋して周囲の状況を確かめながら,関門海峡から九州北岸沿いを西行した。
 21時00分A受審人は,佐賀県馬渡島南西方3海里沖合で船橋当直を引き継ぎ,平戸瀬戸北口に向けて南下し,22時15分ごろ広瀬灯台の手前1海里に達したとき,平戸瀬戸の通狭見学のため昇橋してレーダーの前に立ったB受審人に水路状況を教えながら,手動操舵で平戸瀬戸を南下し,平戸大橋を通過して同時49分青砂埼灯台西方0.5海里の地点を航過し,広い海域に出たので自動操舵にすることにし,左舷船首方向から南寄りの風浪を受けるようになった状況下,GPSプロッターの表示する針路とコンパスの示度を見比べて自動操舵の設定針路を調整しながら航行した。
 22時53分A受審人は,青砂埼灯台から256度(真方位,以下同じ。)0.5海里の地点において,GPSで針路を平戸島東岸に沿う207度に定めて自動操舵とし,折から南寄りの風浪により8度ばかり右方に圧流されながら215度の進路で,機関を全速力前進にかけ,7.0ノットの対地速力としたうえ,早朝からほとんど休息をとっていなかったので,入航に備えてB受審人と船橋当直を交替することとし,平素から磁気コンパスが外力の影響を受けた際に整定するまでに時間を要することから,自動操舵の作動状況に注意することを教えていたので,風浪で少し右に流されていることに注意するよう指示して降橋した。
 B受審人は,前示針路及び速力のまま当直を引き継ぎ,自動操舵で進行することとしたが,これぐらいの風浪なら大きく圧流されることはあるまいと思い,多少右方の陸岸に寄せられていることを認めたものの,作動中のレーダー及びGPSプロッターを有効に活用して船位の確認を十分に行うことなく,右方の京崎南方の陸岸から東方沖に拡延する浅所に向かって著しく圧流されていることに気付かないまま,舵輪後方のいすに腰を掛けて前方を見ながら進行した。
 こうして,B受審人は,23時08分1海里レンジとしたレーダーの右方に写る陸岸の映像がいつもより近いように感じ,船位を確認するつもりで室内灯を点灯し,レーダーとGPSプロッターの間に置かれた海図を両手で広げて見ながら続航中,23時10分福江丸押船列は,青砂埼灯台から224度2.4海里の地点において,船首が223度に向いたとき,原速力のまま,京崎南方の陸岸から東方沖に拡延する浅所に乗り揚げ,これを擦過した。
 当時,天候は曇で風力4の南風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
 A受審人は,自室で休息中,乗揚の衝撃に気付いて直ちに昇橋し,B受審人がいすに腰を掛けて茫然としたまま,機関が全速力前進であることを認めて中立とし,事後の措置に当たった。
 乗揚の結果,福江丸はプロペラ翼に欠損及び曲損を生じたが,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 磁気コンパスが外力の影響を受けた際に整定するまでに時間を要するものであったこと
2 B受審人がこれぐらいの風浪なら大きく圧流されることはないとの認識をもったこと
3 B受審人が自動操舵の作動状況を確認しなかったこと
4 B受審人が船位の確認を十分に行わなかったこと
5 押船列が圧流されたこと

(原因の考察)

 本件は,福江丸押船列が,自動操舵で航行中,船位が確認されないまま,風下に圧流されて陸岸の浅所に乗り揚げたもので,福江丸押船列の船橋当直者が,船位の確認を行って針路を修正していたなら,発生していなかったものと認められる。
 したがって,B受審人が船位の確認を行わないまま圧流されたことは,本件発生の原因となる。
 磁気コンパスが外力の影響を受けた際に整定するまでに時間を要するものであったこと,B受審人がこれぐらいの風浪なら大きく圧流されることはないとの認識をもったこと及び自動操舵の作動状況を確認しなかったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらのことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)

 本件乗揚は,夜間,陸岸に向かう風浪を受けながら長崎県平戸島東岸に沿って航行する際,船位の確認が不十分で,風下に圧流されて京崎南方の陸岸から東方沖に拡延する浅所に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,夜間,陸岸に向かう風浪を受けながら長崎県平戸島東岸に沿って航行する際,京崎南方の陸岸から東方沖に拡延する浅所に接近することのないよう,レーダー及びGPSプロッターを有効に活用して船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,これぐらいの風浪なら大きく圧流されることはあるまいと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,著しく右方に圧流されていることに気付かず,京崎南方の陸岸から東方沖に拡延する浅所に向首進行して同所に乗揚を招き,福江丸のプロペラ翼に欠損及び曲損を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。
 A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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