(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年10月22日08時20分
沖縄県八重山列島黒島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船第三十八あんえい号 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
25.55メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,403キロワット |
3 事実の経過
第三十八あんえい号(以下「あんえい号」という。)は,平成12年12月に進水し,3機3軸で2舵を装備し,船首端から4メートルに操舵室,同室後方に客室を備え,航行区域を限定沿海区域とする最大搭載人員92人の軽合金製旅客船で,沖縄県石垣港と同県西表島仲間港との間を所要時間35分で運航する定期航路に従事しており,平成8年8月に取得した一級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人ほか甲板員1人が乗り組み,旅客34人を乗せ,船首0.6メートル船尾1.3メートルの喫水をもって,平成16年10月22日08時00分1便目の往航として,石垣港を発し,仲間港に向かった。
ところで,A受審人は,平成10年からあんえい号と同型船の船長職を執ったのち,平成13年から同号の船長として乗り組み,竹富島南方沖合から仲間港南東方沖合に至る通称大原航路を幾度となく行き来し,さんご礁が同航路付近に散在すること,及び同航路に沿う立標のほか,黒島北方沖合約1海里に,浅所を示すため,私設の簡易浮標が数基設置されていることなど,大原航路の状況について十分に承知していた。
また,A受審人は,平素大原航路第11号立標(以下,立標については「大原航路」を省略する。)から第15号立標に向かう際,第11号立標を右舷側に並航したのち右転し,第14号立標の南方500メートルの地点において,左転して針路を第15号立標と同立標南方の簡易浮標との間の幅100メートルばかりの狭い水路(以下「狭い水路」という。)を通航することとしており,反航船が,狭い水路に接近し,同船と第15号立標付近で行き会う状況となるときは,近距離で航過することを避けるため,早めに第15号立標と第16号立標との間の中央に向く安全な針路とすることとしていた。
08時17分半A受審人は,第11号立標至近となる,第15号立標から068度(真方位,以下同じ。)2,580メートルの地点で,針路を262度に定め,機関を全速力前進にかけ,35.0ノットの対地速力で,手動操舵により進行した。
定針したとき,A受審人は,第15号立標西方沖合に,台船を曳航する引船(以下「引船列」という。)が,ゆっくり東行するのを認め,その後,同引船列の動静監視を行いながら続航した。
08時18分少し過ぎA受審人は,第15号立標から061度1,810メートルの地点に達したとき,引船列と,第15号立標付近で行き会う状況となっていたものの,自船が,かなりの速力で航行していることから,狭い水路を先に航過できるものと思い,早めに同立標と第16号立標との間の中央に向く安全な針路とすることなく,第15号立標に向く240度として続航した。
その後,A受審人は,依然第15号立標と第16号立標との間の中央に向く安全な針路としないで航行していたところ,このまま進行すると,狭い水路で引船列と行き会う状況になることに気付いたので,急ぎ第15号立標と第16号立標との間の水路に向けることとし,08時19分半右舵20度にとったのち,原針路に戻すつもりで左舵15度にとって左転中,08時20分わずか前前路に浅所を認めたが,どうすることもできず,08時20分あんえい号は,第15号立標から303度280メートルの地点において,船首が240度に向いたとき,原速力のまま,浅所に乗り揚げ,これを乗り切った。
当時,天候は晴で風力3の北北東風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果,あんえい号は,左舷及び中央の推進器翼並びに左舵柱を曲損し,船尾甲板に損傷を生じたが,自力で仲間港に入港し,のちいずれも修理された。
(原因)
本件乗揚は,沖縄県八重山列島黒島北方沖合において,さんご礁が散在する大原航路を西行し,第15号立標付近で,反航する他船と行き会う状況となった際,針路の選定が不適切で,安全な針路としなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,沖縄県八重山列島黒島北方沖合において,さんご礁が散在する大原航路を西行し,第15号立標付近で,反航する他船と行き会う状況となった場合,さんご礁が,散在する海域だったのであるから,さんご礁に乗り揚げることのないよう,早めに,第15号立標と第16号立標との間の中央に向く安全な針路とすべき注意義務があった。しかるに,同人は,自船が,かなりの速力で航行していることから,狭い水路を先に航過できるものと思い,安全な針路にしなかった職務上の過失により,第15号立標に向けて進行したのち,狭い水路で,反航船と行き会う状況となったことに気付き,これを避けようと右舵20度にとり,その後,原針路に戻すため左舵15度にとって左転中に乗揚を招き,左舷及び中央の推進器翼並びに左舵柱を曲損させ,船尾甲板に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。