(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年7月18日20時26分
高知県久礼港東方沖合
(北緯33度19.7分東経133度15.4分)
2 船舶の要目
船種船名 |
瀬渡船豊丸 |
総トン数 |
3.2トン |
全長 |
9.55メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
169キロワット |
3 事実の経過
豊丸は,GPSプロッター及び魚群探知機を備えた一層甲板型FRP製小型兼用船で,平成15年8月交付の一級,特殊及び特定操縦の小型船舶操縦免許証を受有するA受審人が1人で乗り組み,高知県久礼港双名南島灯台(以下「南島灯台」という。)から059度(真方位,以下同じ。)2,000メートルのところにある黒碆の1番(以下「黒1」という。)と称する釣り場で,瀬渡しした釣客2人を収容し,船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,同16年7月18日20時19分黒1を発し,久礼港の係船地に向けて帰途についた。
ところで,久礼港東方沖合には,南島灯台から095度625メートルのところに,平均水面上の高さ2.6メートルの丸碆と称する岩があり,夜間は灯火もなく視認することが困難で,A受審人は,黒1から帰途につく針路及び丸碆をGPSプロッターに登録し,いつも同碆の東方約100メートル沖合を通航するようにしていた。
A受審人は,20時20分南島灯台から060度1,940メートルの地点において,針路を224度に定めて手動操舵とし,全速力前進より少し遅い機関回転数毎分1,000にかけ,8.0ノットの対地速力で進行した。
A受審人は,操舵輪後方のいすに腰掛け,右手をガバナハンドルに添え,左手で舵輪上端を握って操舵に当たり,釣客を迎えに行く途中に認めていた友人の船を探そうとして,左手で舵輪上端を握ったまま右を向く姿勢をとったところ,舵輪がわずかに右に回った。
20時25分少し前A受審人は,南島灯台から083度900メートルの地点で,少し右舵をとった状態となって徐々に右回頭を始めたが,友人の船の灯火を探すことに気をとられ,GPSプロッターの画面で接近状況を確かめるなど,船位の確認を十分に行わなかったので,丸碆に向かって右転しながら接近する状況となったことに気付かないまま続航した。
こうして,豊丸は,20時26分南島灯台から095度625メートルの地点で,原速力のまま,船首が250度を向いたとき丸碆の北側に乗り揚げ,これを乗り切った。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の初期で,月齢は0.7日であった。
乗揚の結果,左舷船首外板に破口を生じ,自力で久礼港へ帰港中,港内で浸水して転覆し,機関及びGPSプロッターなどに濡れ損を生じたが,のち修理された。
(原因)
本件乗揚は,夜間,高知県久礼港東方沖合において,釣客を収容して同港に帰港する際,船位の確認が不十分で,徐々に右回頭しながら丸碆に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,高知県久礼港東方沖合において,釣客を収容して同港に帰港する場合,久礼港東方沖合には,丸碆があったから,同碆に接近しないよう,GPSプロッターの画面で接近状況を確かめるなど,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,友人の船の灯火を探すことに気をとられ,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,丸碆に向かって右転しながら接近している状況に気付かず,そのまま進行して,丸碆への乗揚を招き,左舷船首外板に破口を生じさせ,自力で帰港中に浸水して転覆させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。