(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年8月15日00時10分
静岡県神子元島北東岸沖合
(北緯34度34.6分 東経138度56.6分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船とうしん |
総トン数 |
499トン |
全長 |
75.87メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
(2)設備及び性能等
とうしんは,平成4年8月に新造された限定沿海区域を航行区域とする船尾船橋型貨物船で,船体後部に三層構造の船楼を有し,最上部3階に船橋が在り,2階に船長室,機関長室,一等航海士室及びトイレ,1階に乗組員室が数室,厨房及び食堂が配置されていた。
本船の船橋は幅約5メートル奥行き約4メートルで,前窓の後方約1メートルのところに床からの高さ約80センチメートルのコンソールスタンドが設備され,その船体中心線上に操舵輪が組み込まれ,同スタンドの左舷側にレーダーが2台,右舷側に船内電話及びエンジンコントロール盤が配置されていた。
また,試運転時の最大速力は約12.7ノット,旋回試験の右転結果は最大縦距230メートル及び最大横距144メートルで,左転結果はそれらの値よりいずれも少し大きく,操舵試験において舵中央から右舵45度が取られるまでの時間は約11秒,後進発令から船体停止までの時間と航走距離は約2分37秒及び580メートルであった。
(3)運航形態
とうしんは,主に京浜港から北海道苫小牧港までの間を3ないし4日の航海日数で不定期貨物の輸送に従事していた。
3 事実の経過
とうしんは,C船長及びA受審人ほか2人が乗り組み,平成16年8月13日06時00分茨城県鹿島港に入港後,09時から15時の間に燐安1,000トンの積載を終え,船首2.40メートル船尾4.30メートルの喫水をもって,翌14日10時30分同港を発し,三重県四日市港に向かった。
ところで,本船の船橋当直体制は,C船長及びA受審人による単独6時間交替の2直制で,同受審人は,午前及び午後の0時から6時までの船橋当直にあたっていたもので,同船長から機会あるごとに居眠り運航の防止など安全運航に徹するよう指示されていた。また,機関部の当直体制も同様に機関長及び一等機関士による6時間交替制で,同機関士がA受審人の当直時間帯に機関室で当直にあたっており,時折機関関係などの用事があると昇橋してくることがあった。
発航後A受審人は,12時から18時までの間の船橋当直にあたったのち,入浴と食事を済ませて19時ごろ自室のベッドに横になってテレビを見ていたが,なかなか寝付かれずに過ごすうち,23時45分深夜の同当直に就くため起床し,小用を済ませて昇橋した。
A受審人は,C船長から222度(真方位,以下同じ。)の針路と12.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)のほか,海図に船位を示さないで船首方が神子元島であると言われただけで,自身も海図にあたって十分に船位の確認をしなかったうえ,船橋当直を任せても大丈夫かとの問いかけに対し,睡眠不足であったが,このことを同船長に報告せずに大丈夫と答えて同当直を引き継ぎ,23時55分神子元島灯台から041度3.15海里の地点で,降橋したC船長に替わり単独の船橋当直に就いた。
そのころA受審人は,C船長が使用していた従レーダーを停止してテレビ画面型の主レーダーを起動した際,レーダーレンジが3海里となっていたが,普段,専ら6海里レンジにして使っていたので,そのレンジになっているものと思い込んだまま,レーダーレンジを確認しなかった。
15日00時00分A受審人は,神子元島灯台から040度2.15海里の地点に達したとき,神子元島北方近くに存在するイナリモジや十六根の浅所を少しでも右方に離すつもりで針路を同灯台に向首する220度に定めて自動操舵とし,引き続き機関を全速力前進にかけ12.0ノットの速力で進行した。
定針直後A受審人は,睡眠不足から眠気を催すようになり,操舵輪後方の見張り位置に立ってコンソールスタンドに両肘を置き同スタンドに寄りかかる姿勢をとり始め,00時03分神子元島が0.5海里ばかりに接近したら267度に転針する予定であったことから,同島までの距離をレーダーで確かめようと半歩ほど左方に動き,神子元島の映像を船首輝線ほぼ中央にあるのを見たとき,レーダーレンジを確かめていなかったので,実際には1.5海里に接近していたものの,3海里と勘違いをしたまま続航し,依然として眠気を催していたが,居眠りすることはあるまいと思い,機関当直者に応援を求めて二人で見張りにあたるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく,再びコンソールスタンドに寄りかかった姿勢で船橋当直を続けるうち,いつしか居眠りに陥った。
00時08分A受審人は,神子元島灯台から040度1,000メートルの予定転針地点に達したことに気付かずに直進し,00時10分神子元島灯台から040度280メートルの地点において,とうしんは,原針路,原速力のまま,神子元島北東岸至近の浅礁に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力2の西南西風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
A受審人は,船底を擦る大きな音で目覚め,一方,C船長は,船体の異常を感じ直ちに昇橋して浅礁に乗り揚げたことを知り,自力離礁したのち静岡県下田港に入港し,事後の措置にあたった。
乗揚の結果,船首部船底外板に亀裂を伴う凹損を生じたが,のち修理された。
(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,睡眠不足であったこと
2 A受審人が,睡眠不足であることを船長に報告しないで船橋当直を引き継いだこと
3 船位の確認が不十分のまま船橋当直の交替が行われたこと
4 A受審人が,レーダーレンジを確認しなかったこと
5 A受審人が,眠気を催した際,居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
(原因の考察)
本件乗揚は,夜間,伊豆半島南東岸沖合を南下中,単独で船橋当直に就いた当直者が居眠りに陥り,予定転針地点に達したことに気付かないまま,神子元島北東岸至近の浅礁に向首進行したことによるものである。
したがって,A受審人が,眠気を催した際,居眠りすることはあるまいと思い,機関当直者に応援を求めて二人で見張りにあたるなどの居眠り運航の防止措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,睡眠不足であったこと,このことを船長に報告しないで船橋当直を引き継いだこと及びレーダーレンジを確認しなかったこと,また,船位の確認が不十分のまま同当直の交替が行われたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,静岡県伊豆半島南東岸沖合を南下中,居眠り運航の防止措置が不十分で,神子元島北東岸至近の浅礁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,睡眠不足の状態で単独の船橋当直に就き,静岡県伊豆半島南東岸沖合を南下中,眠気を催した場合,機関当直者に応援を求めて二人で見張りにあたるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,コンソールスタンドに寄りかかった姿勢で居眠りに陥り,予定転針地点に達したことに気付かず,神子元島北東岸至近の浅礁に向首進行して乗揚を招き,船首部船底外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
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