(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年10月30日02時50分
北海道根室港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第六十五秀栄丸 |
総トン数 |
9.7トン |
登録長 |
15.04メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
496キロワット |
3 事実の経過
第六十五秀栄丸(以下「秀栄丸」という。)は,船体のほぼ中央部に操舵室を設けた,さんま棒受け網漁業に従事するFRP製漁船で,A受審人(昭和49年12月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか5人が乗り組み,操業の目的で,船首0.80メートル船尾2.05メートルの喫水をもって,平成16年10月29日08時00分北海道花咲港を発し,17時ごろ知床岬西北西方3海里ばかりの漁場に至って操業を行い,さんま10トンばかりを獲て,19時00分知床岬灯台から300度(真方位,以下同じ。)2.3海里の地点を発進し,根室港に向けて帰航の途に就いた。
これより先,秀栄丸は,太平洋,オホーツク海域を主な漁場とし,日没から日出まで操業して帰港する連日の操業を行い,前日の28日も出漁したものの,漁獲がないまま翌29日05時ごろ花咲港に戻り,知床岬沖での操業に期待して再び出漁したものであった。
A受審人は,前日の出漁において,出航後から操舵室において魚群探索に当たり,帰港しても燃料の補給を行ってすぐに出航し,知床岬沖漁場までの往航時に当直を甲板員に行わせて休息をとったが,僚船との無線による情報交換をするなどして3時間ばかりの仮眠をとっただけで,漁場においても操業の指揮を行い,睡眠不足により疲労が蓄積した状態であった。
発進後,A受審人は,単独で船橋当直に当たり,翌30日00時57分野付埼灯台から052度2.4海里の地点において,針路を根室港港口に向く151度に定め,機関を回転数毎分1,800の全速力にかけ,折からの上げ潮流の影響を受け,左方に1度ばかり圧流されながら9.0ノットの対地速力で,自動操舵により進行した。
02時30分A受審人は,根室港北副防波堤灯台から333度2.9海里の地点に達したとき,操舵室左舷側に置いた椅子に腰掛けた姿勢でレーダーにより根室港を3海里ばかりに認めたころ,蓄積された疲労から眠気を催すようになったが,港も近いので居眠りしてしまうことはないものと思い,休息中の乗組員を昇橋させて2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,同姿勢をとったまま続航した。
こうして,秀栄丸は,A受審人がいつしか居眠りに陥り,居眠り運航となって根室港北防波堤基部の海岸に向首したまま進行し,02時50分根室港北副防波堤灯台から110度360メートルの地点の岩礁に,原針路原速力のまま乗り揚げた。
当時,天候は曇で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の末期であった。
乗揚の結果,船底外板全般にわたり一部亀裂を伴う擦過傷及び推進器翼に曲損を生じたが,のち修理された。
(原因)
本件乗揚は,夜間,北海道根室港北方沖合から同港へ向けて帰航中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同港北防波堤基部の海岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,北海道根室港北方沖合から単独の船橋当直に就いて同港へ向けて帰航中,連日操業による睡眠不足で,蓄積された疲労から眠気を催すようになった場合,休息中の乗組員を昇橋させて2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかし,同人は,港も近いので居眠りしてしまうことはないものと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥ったまま進行して根室港北防波堤基部の海岸への乗揚を招き,秀栄丸の船底外板全般にわたり一部亀裂を伴う擦過傷及び推進器翼に曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。