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平成17年長審第3号
件名

貨物船れきお乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年5月19日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(稲木秀邦,山本哲也,藤江哲三)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:れきお船長 海技免許:一級海技士(航海)

損害
船首部から船体中央部にかけて船底外板に凹損と擦過傷

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの一級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月2日23時40分
 沖縄県那覇港
 (北緯26度13.8分 東経127度39.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船れきお
総トン数 4,945トン
全長 119.62メート
機関の種類 ディーゼル機関
出力 7,060キロワット
(2)設備及び性能等
 れきおは,平成2年5月に進水した限定近海区域を航行区域とする船尾船橋型のロールオンロールオフコンテナ貨物船で,スターンスラスター及び可変ピッチプロペラを有し,船橋楼前端が船首端から距離約75メートルのところにあり,船首楼後方に1番及び2番貨物倉,船尾楼に後部貨物倉が設けられていた。
 航海船橋甲板は,満載喫水線からの高さが約15メートルで,同甲板上に船首尾方向の長さ約5メートル及び幅約9メートルの操舵室が設けられており,同室内の前端中央にジャイロレピーターが設置され,その後方の中央部から右舷側にコンソールスタンドがあり,中央から順に操舵スタンド,GPSプロッター,スラスター操作スタンド,主機操作スタンド及びバラスト水操作盤が配置され,同コンソールの左舷側に中央から順に主レーダー及び従レーダー,右舷側後部に海図台を備え,同室両舷がウイングと称する暴露甲板となっていた。
 上甲板上には,高さ約9メートルの移動式門型ガントリークレーンが装備され,前後に移動して各倉のコンテナを左舷船外に最大約6メートル移動できるようになっていたが,見張りの障害にはならなかった。
 れきおは,海上公試運転成績書によれば,最大速力が主機回転数毎分158,翼角23.8度において21.6ノット,主機回転数毎分150,翼角24.0度,舵角35度をとって左旋回したとき,最大横距及び最大縦距は,634メートル及び451メートルで,同右旋回したときは,614メートル及び446メートルであった。

3 事実の経過
 れきおは,A受審人ほか12人が乗り組み,コンテナ及びシャーシ合計1,000トンを積載し,船首4.48メートル船尾6.05メートルの喫水をもって,平成16年6月1日20時25分福岡県博多港を発し,沖縄県那覇港に向かった。
 発航後,A受審人は,航海中の船橋当直を,各直に航海士と操舵手を配置して2人で入直する4時間交替の3直制とし,九州北岸から長崎県平戸島と五島列島間を経由して奄美列島西方海域を南下し,翌2日22時00分沖縄県伊江島の西方6海里の地点で,那覇港着岸前のガントリークレーンのラッシング取外しなど荷役準備作業に備えて早めに昇橋し,船橋当直中の三等航海士(以下「三航士」という。)から当直を引き継いだ。
 ところで,A受審人は,れきお乗船以来,那覇港に昼夜それぞれ一度入港した経験があったことから,夜間入航であったが,GPSプロッターもあり,あらためて入航計画を再検討することもないと思って入航前に港口付近の航路標識などの灯質を海図に当たって確かめなかったものの,那覇港新港第1防波堤南灯台(以下「南灯台」という。)の手前500メートルに那覇港第1号灯浮標(以下「1号灯浮標」という。)が存在することを承知しており,また,平素,入航操船する際,航海士をレーダー監視に当たらせていたが,乗船して間もないこともあって防波堤までの距離などの操船に必要な情報を報告するよう指示しておらず,報告された情報もあまり信頼していなかった。
 23時00分A受審人は,残波岬灯台を左舷側に4.0海里離して航過したのち,同時20分入航用意を令し,船首に一等航海士(以下「一航士」という。),甲板長及び甲板員を,船尾に三航士及び甲板手をそれぞれ配し,二等航海士(以下「二航士」という。)をレーダー監視に,甲板手を手動で操舵に当たらせ,機関を全速力前進にかけ,19.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で南下し,23時31分少し過ぎ南灯台から311度(真方位,以下同じ。)1.5海里の地点に達したとき,針路を140度に定め,機関を港内全速力に減じ,13.0ノットの速力で唐口と称する那覇港南部の防波堤入口に向けて進行した。
 定針したとき,A受審人は,左舷船首12度の方向に1号灯浮標の緑色灯光を認めたが,あらかじめ港口付近の灯台及び灯浮標の灯質を調査していなかったことから,同灯浮標を南灯台と誤認したまま,GPSプロッターに頼って入航すれば大丈夫と思い,レーダーを活用するなどして船位の確認を十分に行うことなく,GPSプロッターの正面に立ち,前方の見張りを続けた。
 23時35分半A受審人は,GPSプロッター上の転針地点に達したことから,南灯台から298度1,180メートルの地点で,同灯台を左舷側に200メートル離すよう128度に転じ,同プロッターに表示された針路線上に乗ったことを確認して続航し,同時36分前方の見張りに専念するため船橋前面中央のレピーターの右側に移動したところ,二航士から南灯台まで0.5海里と報告を受けたものの,「はい」と返事しただけで,間もなく1号灯浮標に並航する状況であったが,依然レーダーで船位を確認しなかったので同灯浮標を南灯台と誤認していることに気付かなかった。
 23時37分少し前A受審人は,南灯台から290度650メートルの地点に差し掛かったとき,当時満月であったが曇天のため防波堤の影も見えなかったことから,同灯台に達したものと思って新港埠頭7号岸壁に向かうつもりで,操舵手に左舵20度を令した。
 こうして,A受審人は,左転しながら那覇港新港第1防波堤(以下「第1防波堤」という。)に向かっていることに気付かないまま進行中,一航士から前方に防波堤が見える旨の叫び声に近い報告を受けると同時に,船首方に南灯台及び第1防波堤を認め,左舵一杯を令したのち,主機操作スタンドに駆け寄って自ら機関を翼角0度の停止とし,なんとか第1防波堤をかわしたものの,23時40分れきおは,南灯台から020度610メートルの地点において,010度に向首して5ノットの速力で,同防波堤外側の浅礁に乗り揚げた。
 当時,天候は曇で風力4の南西風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
 乗揚の結果,れきおは,船首部から船体中央部にかけて船底外板に凹損と擦過傷を生じ,引船の来援を得て離礁した。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が入航前に港口付近の航路標識などの状況を確かめなかったこと
2 当時夜間で,防波堤が見えなかったこと
3 A受審人が船位を確認しなかったこと
4 A受審人がGPSに頼って運航していたこと
5 A受審人が船橋の人的資源を活用しなかったこと
6 A受審人が1号灯浮標を南灯台と誤認したこと

(原因の考察)
 本件は,れきおが,夜間,沖縄県那覇港に入航する際,船位を確認しないまま,1号灯浮標を南灯台と誤認し,同灯浮標の灯火を左舷側に見て転針し,第1防波堤外側の浅礁に乗り揚げたものであり,れきおが,船位の確認を十分に行っていたなら,発生していなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,船位の確認を行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 また,A受審人が,入航前に港口付近の航路標識などの状況を確かめなかったこと,GPSに頼って運航していたこと,船橋の人的資源を活用しなかったこと,1号灯浮標を南灯台と誤認したことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらのことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 当時夜間で,防波堤が見えなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)

 本件乗揚は,夜間,沖縄県那覇港において,唐口から新港埠頭に向けて入航中,船位の確認が不十分で,第1防波堤に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)

 A受審人は,夜間,沖縄県那覇港において,唐口の防波堤入口から新港埠頭に向けて入航する場合,第1防波堤に向首進行することのないよう,レーダーを活用するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,GPSプロッターに頼って入航すれば大丈夫と思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,1号灯浮標を南灯台と誤認したまま,第1防波堤に向首進行して同防波堤外側の浅礁に乗揚を招き,船首部から船体中央部にかけて船底外板に凹損と擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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