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平成17年門審第9号
件名

漁船第一倖漁丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年5月26日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上田英夫,千手末年,織戸孝治)

理事官
濱田真人

受審人
A 職名:第一倖漁丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船首部の圧壊並びに推進器翼及びシューピース等に曲損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月26日08時20分
 長崎県大船越漁港港口西方の海岸
 (北緯34度16.6分東経129度21.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第一倖漁丸
総トン数 16トン
登録長 14.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 478キロワット
(2)設備及び性能等
 第一倖漁丸(以下「倖漁丸」という。)は,平成8年7月に進水したいか一本釣り漁業に使用されるFRP製漁船で,船体のほぼ中央部に位置する操舵室には,中央部に舵輪を備えるほか,前面に右舷側から順に機関遠隔操縦ハンドル,GPSプロッタ,レーダー,魚群探知機及び潮流計がそれぞれ装備され,同室後方中央部の棚には,スライド式の台が組み込まれており,これを引き出して座いすなどを載せることができた。
 また,自動いか釣り機を5台装備していた。

3 事実の経過
 倖漁丸は,A受審人が1人で乗り組み,平成16年10月25日17時00分大船越漁港を発し,長崎県対馬下島の南西方約14海里の漁場に向かい,19時ごろ同漁場に至り,シーアンカーを使用して漂泊し,いか一本釣り漁を開始した。
 ところで,A受審人は,同月19日及び20日は台風接近のため自宅で過ごしたが,21日から連日出港して夜間操業を行い,帰宅後も自宅の改修工事を自ら行っていたため,自宅での睡眠時間は,2ないし3時間であった。また,操業中の睡眠時間は,弟に甲板部の作業を任せていたものの,1ないし2時間であったことから,連日の操業と睡眠不足により,疲労が蓄積された状態であった。なお,本件時,弟は急な用事があって乗船できず,単独での出港となった。
 A受審人は,操業中,自動いか釣り機の仕掛けが絡んだりしたことから仮眠をとれないまま,翌26日05時00分操業を切り上げ,同時30分対馬下島の南西方約10海里の漁場を発進したが,大船越漁港での第1回目の集荷時刻に間に合わないと判断し,直接,厳原港に向かい,07時20分同港に入港着岸し,いか30箱を水揚げしたのち,同時30分船首0.5メートル船尾1.7メートルの喫水をもって,同港を発し,大船越漁港に向け帰途に就いた。
 A受審人は,厳原港の防波堤を通過したのち,自動操舵に切り替え,操舵室右舷側に設置した折りたたみ式いすに腰掛け,機関を全速力前進よりやや減じた回転数毎分1,200にかけ,8.0ノット(対地速力,以下同じ。)の速力で,陸岸に沿って進行した。
 07時55分少し過ぎA受審人は,大船越港沖防波堤東灯台(以下「大船越港灯台」という。)から200度(真方位,以下同じ。)3.3海里の地点に達して大船越漁港港口を見渡せるようになったころ,綱掛埼西方に設置されている定置網に近付かないよう,同埼西方の地点に至ったのち,右転して針路を同港口に向けることとし,自動操舵のまま針路を同埼と太田埼のほぼ中間に向く016度に定め,その後,疲れを感じるようになったことから,操舵室後方中央部の棚からスライド式の台を引き出して座いすを載せ,これに座って続航した。
 08時05分半わずか前A受審人は,大船越港灯台から202度1.9海里の地点に差し掛かったとき,連日の操業と睡眠不足により,疲労が蓄積していたことや,前路に他船がいない安堵感もあって気が緩み,眠気を感じるようになったが,まもなく入港するからそれまで眠気を我慢できると思い,立ち上がって外気に当たるなど,居眠り運航の防止措置をとることなく,座いすに座ったまま進行するうち,いつしか居眠りに陥った。
 08時17分わずか過ぎA受審人は,大船越港灯台から202度800メートルの,大船越漁港港口に向かう転針予定地点に達したが,居眠りをしていてこのことに気付かず,転針がなされずに同港港口西方の海岸に向首したまま続航し,08時20分倖漁丸は,大船越港灯台から288度380メートルの地点において,原針路,原速力のまま,同海岸に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の初期であった。
 乗揚の結果,船首部の圧壊並びに推進器翼及びシューピース等に曲損を生じたが,自力で離礁し,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,連日の操業と睡眠不足により,疲労が蓄積した状態であったこと
2 A受審人が,自動操舵を使用して操船していたこと
3 A受審人が,眠気を感じたとき,居眠り運航の防止措置を十分にとらず,座いすに座ったまま当直を続け,居眠りに陥ったこと

(原因の考察)
 本件は,倖漁丸の船長が,居眠りに陥り,大船越漁港港口西方の海岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。
 したがって,A受審人が,眠気を感じたとき,居眠り運航の防止措置を十分にとらず,座いすに座ったまま当直を続け,居眠りに陥ったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,連日の操業と睡眠不足により疲労が蓄積した状態であったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 A受審人が,自動操舵を使用して操船していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,長崎県大船越漁港南方沖合を同港に向けて帰航中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同港港口西方の海岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,長崎県対馬下島南方の漁場で操業を行ったのち,同県厳原港で漁獲物の水揚げを終え,同県大船越漁港南方沖合を同漁港に向け単独の船橋当直に就いて帰航中,眠気を催した場合,連日の操業と睡眠不足により,疲労が蓄積した状態であったから,居眠り運航とならないよう,立ち上がって外気に当たるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが,同人は,まもなく入港するからそれまで眠気を我慢できるものと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,同港港口西方の海岸に向首したまま進行して乗揚を招き,船首部を圧壊並びに推進器翼及びシューピース等に曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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