(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年2月14日04時00分
長崎県対馬東岸
(北緯34度16.6分東経129度21.1分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船第一倖漁丸 |
総トン数 |
16トン |
登録長 |
14.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
478キロワット |
(2)設備及び性能等
第一倖漁丸(以下「倖漁丸」という。)は,平成8年7月に進水したいか一本釣り漁に従事するFRP製漁船で,船体のほぼ中央部に機関室を,同室上部に操舵室を有する構造で,同室内前部の左舷側から右舷側にかけて,潮流計,魚群探知機,レーダー,GPSプロッタ及び機関遠隔操縦ハンドルを,中央部に操舵輪をそれぞれ備えていた。そして,操舵室の後部両舷に各一個のいすが配置されていた。
3 事実の経過
倖漁丸は,A受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,平成16年2月13日17時00分長崎県大船越漁港を発し,18時ごろ対馬下島東方の漁場に至っていか一本釣り漁を開始し,まいか210キログラムばかりを漁獲したところで操業を終え,船首0.5メートル船尾1.7メートルの喫水をもって,翌14日03時12分大船越港沖防波堤東灯台(以下灯台名及び防波堤名については「大船越港」の冠称を省略する。)から125度(真方位,以下同じ。)5.8海里の地点を発進して帰途についた。
ところで,大船越漁港の南方には,同港から綱掛埼に至る海岸線に沿って定置網が敷設されており,沖防波堤東灯台から147度700メートル,同灯台から158度700メートル及び同灯台から165度350メートルの各地点には,同網の南東端,南西端及び北西端を示す,海面上高さ約2メートルで光達距離3海里ばかりの黄色点滅灯の灯浮標がそれぞれ設置されていた。
そして,A受審人は,沖防波堤西端付近には浅所があることを知っていたので,平素,帰港する際,前示定置網(以下「定置網」という。)の西側を航過して沖防波堤に近づいたところで,右転して同防波堤東端と定置網との間を通航するようにしていた。
発進後,A受審人は,GPSプロッタ画面上に入力していた,定置網の南西端を示す灯浮標の西方約50メートルの地点に向けて針路を302度に定め,機関回転数を毎分1,200の半速力前進に掛け,8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,自動操舵により進行し,間もなく,GPSプロッタが故障して同画面上に船位が表示されていないことに気付いた。
A受審人は,03時53分ごろレーダー画面上で綱掛埼に並行したことを知り,定置網を迂回して大船越漁港に向かうこととしたものの,定置網の角部を示す灯浮標の灯火を認めなかったので,レーダー画面や周囲の地形を見ながら右旋回し,03時55分半沖防波堤東灯台から171度670メートルの地点で,針路を341度に転じて同じ速力で続航した。
転針後,A受審人は,定置網の北西端を示す灯浮標の灯火を探しながら進行したものの,注視した方向に同灯火を発見できなかったので,03時56分半沖防波堤東灯台から181度350メートルの地点に達したとき,速力を3.5ノットに減じて手動操舵に切り替えたが,同灯火を見付けることに夢中になり,レーダーを有効に活用するなどして船位の確認を十分に行わず,依然,右舷前方を注視して目視により同灯浮標を探しながら同じ速力で続航した。
倖漁丸は,A受審人が,沖防波堤西端付近の浅所に向首進行していることに気付かないまま,同じ針路及び速力で続航中,04時00分沖防波堤東灯台から276度120メートルの地点に乗り揚げた。
当時,天候は曇で風力6の南風が吹き,潮候は下げ潮の初期であった。
乗揚の結果,船底外板に破口を生じ,推進器翼などを曲損したが,のち修理された。
(本件発生に至る事由)
1 GPSプロッタが故障したこと
2 A受審人が船位の確認を十分に行わなかったこと
(原因の考察)
本件は,夜間,対馬東岸の綱掛埼西方において,大船越漁港に向けて入航中に発生したものである。
綱掛埼西方に敷設された定置網の西側を北上して大船越漁港入口の東西に延びる沖防波堤に近づき,右転して同防波堤東端と定置網との間を通過して入航するのであるから,船位の確認を十分に行っていれば同防波堤への接近模様が分かり,沖防波堤西端付近の浅所に著しく接近する前に右転して乗揚を未然に防げた。従って,A受審人が,船位の確認を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
GPSプロッタが故障したことは,レーダーを有効に活用するなどすれば船位の確認を十分に行うことができ,沖防波堤西端付近の浅所に著しく接近する前に転針して乗揚を未然に防げた。従って,このことは本件発生の原因とならない。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,対馬東岸において,綱掛埼西方に敷設された定置網と沖防波堤との間を通過して大船越漁港に入航する際,船位の確認が不十分で,沖防波堤西端付近の浅所に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,対馬東岸において,綱掛埼西方に敷設された定置網と沖防波堤との間を通過して大船越漁港に入航する場合,沖防波堤西端付近の浅所に向首進行することのないよう,レーダーを有効に活用するなどして,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,定置網の角部を示す灯浮標を見付けることに気を取られ,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,同防波堤西端付近の浅所に向首進行して乗揚を招き,船底外板に破口を,推進器翼などに曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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