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平成17年広審第9号
件名

貨物船広栄丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年5月12日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志,吉川 進,米原健一)

理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:広栄丸一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)(履歴限定)

損害
バルバスバウに亀裂を伴う凹損及び船底全体に凹損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月23日02時00分
 備讃瀬戸西口二面島
 (北緯34度18.0分 東経133度37.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船広栄丸
総トン数 198トン
登録長 46.41メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 514キロワット
(2)設備及び性能等
 広栄丸は,平成3年5月に進水した限定沿海区域を航行区域とする船尾船橋型貨物船で,主に兵庫県東播磨港において鋼材を積み込み,瀬戸内海各港に揚げる航海に従事していた。
 操舵室内には,中央部に舵輪及びジャイロコンパスなどが組み込まれた操舵スタンド,同スタンド右舷側に主機操作レバー,同レバー前側に第2レーダー,同スタンド左舷側に第1レーダー及び同レーダー前側にGPSがそれぞれ設置されていた。

3 船長の当直についての指示模様等
 船長Bは,当直は立った姿勢で行うこと,気を引き締めて当直に当たること及び眠気を感じたら船長に知らせることなどを平素から乗組員に指示しており,操舵室にはいすを配置しておらず,自らは何かあればすぐに対処できるよう操舵室後部のベッドで仮眠するようにしていた。

4 居眠り防止装置
 居眠り防止装置は,操舵スタンド右舷側に設置されており,アラームの鳴る間隔時間をセットすれば,その時間に近づくとランプがゆっくり点滅を始めて次第に速くなり,解除ボタンを押さなければアラームが鳴るタイマー式のものであったが,平素からあまり使用されておらず,本航海でもそのスイッチは切られたままであった。

5 当直体制

 当直体制は,船長が03時から07時及び15時から19時,船長の弟である機関長が07時から11時及び19時から23時,船長の息子であるA受審人が11時から15時及び23時から03時の,単独4時間3直制であった。

6 本件前の運航模様等

 広栄丸は,平成16年7月18日08時50分東播磨港に入港し,翌19日午前中に積み荷して10時30分に出港し,山口県徳山下松港を経由して翌20日16時30分関門港長府に入港して揚げ荷し,翌21日11時40分出港して23時30分愛媛県壬生川港に入港し,翌22日13時10分から積荷を開始して21時50分に終了したもので,乗組員は積揚荷役の間は特に作業はなく,休息をとることができる状況であった。

7 A受審人の体調
 A受審人は,約10年前から肝炎を患っていたが,医師から飲酒さえしなければ通常の勤務をしても差し支えないと指導され,薬も服用しておらず,疲れやすいということもなく,この航海においても特に疲れているということはなかった。

8 事実の経過
 広栄丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,鋼材699トンを載せ,船首2.8メートル船尾3.8メートルの喫水をもって,平成16年7月22日22時00分愛媛県壬生川港を発し,大阪港に向かった。
 船長は,出港操船に引き続いて当直に当たり,いったん北上して比岐島南方及び燧灘沖ノ瀬灯標西方を経由し,23時30分高井神島灯台から241度(真方位,以下同じ。)7.8海里の地点で,A受審人に対して操舵室内を移動しながら見張りに当たることや眠気を催したときには報告することなどを指示して同人に当直を引き継ぎ,その後しばらく雑談したのち同室後部のベッドで仮眠した。
 A受審人は,当直交替後,針路を056度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力で進行し,翌23日00時17分高井神島灯台から010度1,600メートルの地点に達したとき,針路を備後灘推薦航路線に沿う073度に転じて続航した。
 01時20分A受審人は,備後灘航路第6号灯浮標を左舷側0.2海里ばかりに並航し,立った姿勢で操舵スタンドの前から移動することなく当直に当たっていたところ,視界もよく,航行船や漁船が少なかったことから気が緩んで眠気を催してきたが,外気に当たったり,体を動かすなどして居眠り運航の防止措置を十分にとることなく進行した。
 01時39分A受審人は,備後灘航路第7号灯浮標を左舷側に並航したのち,操舵スタンドに寄りかかった状態でいつしか居眠りに陥り,01時53分ごろ備讃瀬戸南航路に向かうための予定転針地点に達したことに気付かず,二面島に向首したまま続航し,02時00分二面島灯台から228度270メートルの同島南岸に,広栄丸は,原針路,原速力で乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風はなく,潮候はほぼ高潮時であった。
 船長は,乗揚の衝撃で目覚め,関係各機関への連絡やタグボートの手配などに当たった。
 乗揚の結果,バルバスバウに亀裂を伴う凹損及び船底全体に凹損を生じたが,タグボートにより引き降ろされ,のち修理された。

9 事後の措置
 船長は,本件後,オペレーターから,居眠り防止装置はタイマーを5分に設定してスイッチは切らないよう指導され,そのとおり実施することとした。

(本件発生に至る事由)
1 視界もよく,航行船や漁船が少なかったこと
2 A受審人が,気が緩んで眠気を催したこと
3 A受審人が,居眠り防止装置のスイッチを入れず,眠気を催したのに体を動かすなど居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
4 A受審人が,居眠りに陥ったこと

(原因の考察)

 本件は,備後灘から備讃瀬戸南航路に向かうに当たり,単独の当直者が居眠りに陥り,予定の転針が行われずに乗り揚げたものである。
 したがって,A受審人が,居眠り防止装置のスイッチを入れず,視界もよく,航行船や漁船が少なかったことから気が緩んで眠気を催したのに,体を動かすなど居眠り運航の防止措置をとらないで居眠りに陥ったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)

 本件乗揚は,夜間,備後灘から備讃瀬戸南航路に向かう際,居眠り運航の防止措置が不十分で,二面島に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)

 A受審人は,夜間,単独の当直に就き,同じ場所で立った姿勢で備後灘から備讃瀬戸南航路に向けて航行中,視界もよく,航行船や漁船が少なかったことから気が緩んで眠気を催した場合,体を動かすなどして居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,体を動かすなどして居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,操舵スタンドに寄りかかった状態で居眠りに陥り,二面島に向首進行して乗揚を招き,バルバスバウに亀裂を伴う凹損及び船底全体に凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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