(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年3月17日15時30分
兵庫県淡路島北岸
(北緯35度36.4分 東経135度00.4分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第五雄山丸 |
総トン数 |
498トン |
全長 |
71.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
3 事実の経過
第五雄山丸(以下「雄山丸」という。)は,限定沿海区域を航行区域とする船尾船橋型貨物船で,A受審人及びB受審人ほか2人が乗り組み,残土1,500トンを積載し,船首3.50メートル船尾5.00メートルの喫水をもって,平成16年3月17日13時00分大阪港を発し,大分県高田港に向かった。
A受審人は,発航操船ののち,14時00分ごろ大阪港港外に出たところでB受審人と船橋当直を交替することとした。
ところで,雄山丸では,航行中の船橋当直をA受審人とB受審人とが4時間交替で行い,停泊中の荷役作業時に自船のクレーンを使用するときは,B受審人が主にその操作を行うようにしていた。
A受審人は,当日03時50分大阪港に入港後,B受審人が荷役時にクレーンの操作に専従しており,日中に十分な睡眠と休息がとれなかったことを承知していたが,同人と船橋当直を交替する際,昼間の航海だから居眠りすることはないと思い,居眠り運航とならないよう,居眠り運航の防止措置について十分な指示を与えることなく,当直を引き継いだ。
交替したB受審人は,操舵室中央部にある舵輪後方のいすに腰掛けて当直に従事し,明石海峡航路に向けて西行するうち,強い眠気を感じたので,眠気を払うためいすから立ち上がってコーヒーを飲み,再びいすに戻って当直を続けた。
15時02分半B受審人は,江埼灯台から093度(真方位,以下同じ。)5.7海里の地点に達し,レーダーで前路約3海里に明石海峡航路中央第3号灯浮標の映像を認めたとき,針路を273度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対地速力で進行した。
そのころB受審人は,依然,眠気を感じていたが,明石海峡航路の転針予定地点が近づいていたうえ,今まで当直中に眠気を感じても居眠りしたことがなかったので,居眠りに陥ることはあるまいと思い,船長に報告して一時当直を交替してもらったり,機関室で当直中の機関部員を昇橋させるなど,居眠り運航の防止措置をとらなかった。
こうして,雄山丸は,B受審人がいつしか居眠りに陥り,15時18分少し過ぎ明石海峡航路に入航したが,針路が同航路に沿う304度に転じられないまま,原針路,原速力で淡路島北岸の松帆埼付近に向けて続航中,15時30分江埼灯台から092度1,300メートルの松帆埼海岸沖合浅所に乗り揚げた。
当時,天候は曇で,風力3の南風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,付近には微弱な南東流があった。
B受審人は,乗揚の衝撃で目を覚ましてA受審人に知らせ,同人が昇橋して事後の措置に当たった。
乗揚の結果,雄山丸は,来援した救助船により引き下ろされたが,底質が砂であったため,船首船底部に軽微な凹損が生じたのみであった。
(原因)
本件乗揚は,大阪湾を明石海峡航路に向けて西行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,予定転針地点で針路を転じないまま,淡路島北岸に向けて進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは,船長が睡眠不足気味の船橋当直者に対し,居眠り運航の防止措置についての指示を十分に行わなかったことと,船橋当直者が眠気を感じた際に居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は,大阪港を発して明石海峡に向けて西行中,単独の船橋当直を一等航海士に任せる場合,同一等航海士が停泊中の荷役作業時にクレーン操作に専従し,十分な睡眠と休息をとっていなかったことを承知していたのであるから,居眠り運航を防ぐため,当直中に眠気を催したときには,速やかに船長に報告するなど,居眠り運航の防止措置をとるよう十分に指示すべき注意義務があった。ところが,同人は,昼間の航海だから一等航海士が居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航とならないよう,居眠り運航の防止措置について十分な指示を与えなかった職務上の過失により,一等航海士が眠気を催した際に報告が得られず,淡路島北岸に向首したまま進行して乗揚を招き,船首船底部に凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,大阪湾北部を明石海峡航路に向けて西行中,単独で船橋当直に当たって眠気を催した場合,当日は早朝から荷役作業に専従し,睡眠も休息も十分にとれていない状況であったから,居眠り運航とならないよう,船長に報告して一時当直を交替してもらうなど,居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,明石海峡航路の転針予定地点が近づいていたうえ,今まで当直中に眠気を感じても居眠りしたことがなかったので,居眠りに陥ることはあるまいと思い,船長に報告して一時当直を交替してもらうなど,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,予定転針地点において転針することができないまま,淡路島北岸に向首したまま進行して乗揚を招き,船首船底部に凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。