（事実）
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年8月15日19時30分
和歌山県田辺港
2 船舶の要目
| 船種船名 |
モーターボートとも丸 |
| 総トン数 |
5.1トン |
| 登録長 |
10.80メートル |
| 機関の種類 |
ディーゼル機関 |
| 出力 |
213キロワット |
3 事実の経過
とも丸は，平成3年3月に進水したFRP製モーターボートで，同16年7月に交付された一級小型船舶操縦士免許を有するA受審人が1人で乗り組み，亡くなった友人の遺族6人を乗せ，故人を供養する灯籠流しを行う目的で，船首0.35メートル船尾1.00メートルの喫水をもって，同年8月15日19時00分和歌山県田辺港跡ノ浦を発し，田辺港キヌガサ灯浮標北方200メートル付近の海域へ向かった。
ところで，A受審人は，平成3年にとも丸を購入して以来，農業の傍ら，専ら田辺港沖や潮岬沖で一本釣り漁業に従事しており，漁場への行き帰りの都度，田辺港内を昼夜の別なく航行していたことから，同港内の灯台位置やその灯質などを十分に認知していたのであった。
19時10分A受審人は，前示灯籠流しを予定していた海域に至り，準備してきた長さ1.5メートル高さ1.0メートルの灯籠舟に，ろうそくを灯した8つの提灯を乗せて船縁から海面上に流したのち，花火をしながら，15ないし16分間，ゆっくりと同舟を周回して友人の供養を終え，帰途についた。
19時26分少し過ぎA受審人は，田辺港新文理西防波堤灯台（以下，灯台の名称については乗揚地点を表記する場合を除き「田辺港」を省略する。）から300.5度（真方位，以下同じ。）1,000メートルの地点で，針路を118度に定め，機関を半速力前進にかけ，8.0ノットの対地速力で，手動操舵によって進行した。
定針したとき，A受審人は，蝦島から北方へ延びる浅礁が正船首方に位置することとなり，そのまま続航すると同浅礁に乗り揚げるおそれがある状況となったが，灯籠舟を周回した直後の方向感覚が鈍っていた状態であったことなどに起因して，最初に左舷船首方に視認した湊西防波堤灯台の等明暗緑光と，平素から航行の目標としていた新文理西防波堤灯台の単閃緑光とを取り違え，いつものように同灯台を左舷側に見る針路線上を航行しているものと思い，レーダーを活用するなどして船位の確認を十分に行わなかったので，自船が蝦島北方の浅礁に向首して進行していることに気付かなかった。
こうして，A受審人は，その後も，依然として，船位の確認を十分に行うことなく続航中，19時30分田辺港新文理西防波堤灯台から342度110メートルの地点において，とも丸は，原針路，原速力のまま，同浅礁に乗り揚げた。
当時，天候は曇で風力1の南風が吹き，潮候は下げ潮の初期であった。
乗揚の結果，船底外板に損傷を生じたが，のち修理された。
（原因）
本件乗揚は，夜間，和歌山県田辺港において，灯籠流しを終え，跡ノ浦へ向けて帰航中，船位の確認が不十分で，蝦島から北方へ延びる浅礁に向首して進行したことによって発生したものである。
（受審人の所為）
A受審人は，夜間，和歌山県田辺港において，灯籠流しを終え，跡ノ浦へ向けて帰航する場合，平素から航行の目標としていた新文理西防波堤灯台と，その近くに位置する湊西防波堤灯台の灯質が良く似ていることから，両灯台の灯火を取り違えないよう，レーダーを活用するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら，同人は，灯籠舟を周回した直後の方向感覚が鈍っていた状態であったことなどに起因して，最初に左舷船首方に視認した湊西防波堤灯台の等明暗緑光と，平素から航行の目標としていた新文理西防波堤灯台の単閃緑光とを取り違え，いつものように同灯台を左舷側に見る針路線上を航行しているものと思い，船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により，自船が，蝦島の北方へ延びる浅礁に向首していることに気付くことなく進行して乗揚を招き，船底外板に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては，海難審判法第4条第2項の規定により，同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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