(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年12月22日17時10分
神奈川県猿島西方沖合
(北緯35度17.1分 東経139度41.4分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
油送船オイルエース |
総トン数 |
99トン |
全長 |
29.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
404キロワット |
(2)設備及び性能等
オイルエース(以下「オ号」という。)は,昭和60年10月に進水した船尾船橋型鋼製油タンカーで,航行区域を平水区域とし,専ら給油船として東京湾内の船舶に燃料を補給する運航に従事していた。
操舵室には,中央に操舵装置,その右側に機関操縦装置が設備され,自動操舵装置はなく,座って操舵できるように操舵輪後方約30センチメートルに,床からの高さ約70センチメートルで,肘掛けと背もたれのない,踏み板の1段付いた木製椅子が置かれていた。
3 事実の経過
オ号は,A受審人ほか1人が乗り組み,平成16年12月22日06時30分京浜港川崎区を発航し,同港川崎区及び横浜区の精油所で重油を積み,同港横浜区の錨地及び本牧ふ頭の各停泊船に給油ののち,重油約220トンを積載し,船首1.8メートル船尾2.8メートルの喫水をもって,同日16時00分本牧ふ頭を発し,横須賀港新港ふ頭に向かった。
ところで,A受審人は,1週間ほど前から風邪を引き,医師により調合された風邪薬を2日前に切らして以降服用しておらず,咳(せき)が続いてあまり体調が良くなかった。
A受審人は,操舵室中央の椅子に腰を掛けて操舵輪を握り,16時27分半横浜蛸根海洋観測灯標から038度(真方位,以下同じ。)1.2海里の地点で,針路を178度に定め,機関を全速力前進にかけ,9.0ノットの対地速力で進行した。
定針したころA受審人は,昇橋してきた機関長に操舵を委ね,16時39分横浜蛸根海洋観測灯標から141度1.2海里の地点に達したとき,機関長が入港準備のために降橋したので再び操舵に就き,17時00分少し過ぎ横須賀港第1号灯浮標を右舷正横180メートルに航過して続航した。
A受審人は,風邪によりあまり体調が良くない状態で早朝から給油作業と操舵に就いて疲労気味となり,17時03分横須賀港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から024度1,660メートルの地点に達したとき,眠気を催したが,もう少しすれば立ち上がって両舷のドアを開け入港態勢に入るから,それまで眠気を我慢できると思い,直ちに椅子から立ち上がって窓外の冷気に当たるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく,椅子に腰掛け両腕を伸ばした姿勢で操舵輪を握っているうち,いつしか居眠りに陥った。
こうして,A受審人は,わずかに右舵をとったまま居眠りに陥り,転針予定地点を航過し,わずかに右回頭しながら猿島西方沖合の浅所に向かって進行中,17時09分少し過ぎふと目覚め,周囲を見渡して右舷正横後方に横須賀港南第5号灯浮標の緑灯を認め,針路から外れていることに気付いて急ぎ全速力後進としたが及ばず,17時10分西防波堤灯台から132度650メートルの地点において,オ号は,後進により船首が左に振られて168度に向首し,約1.0ノットの速力となったとき,浅所に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力4の北風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果,船底中央外板に凹損,船底船首尾外板に擦過傷を生じたが,サルベージ会社の救援により引き下ろされ,のち修理された。
(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,風邪によりあまり体調が良くない状態で早朝から給油作業と操舵に就いて疲労気味であったこと
2 A受審人が,眠気を催したときに,我慢できると思い,椅子から立ち上がって窓外の冷気に当たるなどの居眠り 運航の防止措置をとらなかったこと
3 居眠り運航となったこと
(原因の考察)
船長が,単独で当直中眠気を催したときに,直ちに椅子から立ち上がり眠気を払拭する行動をとっていたなら,居眠りに陥らずに乗揚を防止できたものと認められる。
したがって,A受審人が,眠気を催したときに,我慢できると思い,椅子から立ち上がって窓外の冷気に当たるなどの居眠り運航の防止措置をとらなかったこと及び居眠り運航となったことは,いずれも本件発生の原因となる。
A受審人が,風邪によりあまり体調が良くない状態で早朝から給油作業と操舵に就いて疲労気味であったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,神奈川県猿島北方の横須賀港域内を南下中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同島西方沖合の浅所に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,単独で船橋当直に当たり,神奈川県猿島北方の横須賀港域内を同港新港ふ頭に向け南下中,眠気を催した場合,居眠り運航とならないよう,直ちに椅子から立ち上がって窓外の冷気に当たるなど,居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,もう少しすれば立ち上がって両舷のドアを開け入港態勢に入るから,それまで眠気を我慢できると思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠り運航となり,猿島西方沖合の浅所に向首進行して乗揚を招き,船底外板に凹損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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