(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年9月12日11時30分
宮城県女川湾南部
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第12智恵丸 |
総トン数 |
4.80トン |
登録長 |
9.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
279キロワット |
3 事実の経過
第12智恵丸は,昭和54年4月に進水したFRP製漁船で,平成15年7月に取得した一級小型船舶操縦士(5トン限定)及び特殊小型船舶操縦士の各免許を有するA受審人が船長として乗り組み,友人4人が同乗し,魚釣りの目的で,船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,平成16年9月12日05時40分宮城県塩釜漁港を発し,同県閖上漁港東方沖合の2箇所,田代島沖合,網地島南東方沖合の仙台湾の釣り場でそれぞれ釣りを行ったものの,釣果がなかったことから,女川原子力発電所東方沖合の釣り場に移動することとして,10時50分ごろ網地島南東方沖合の釣り場を発進した。
ところで,A受審人は,平成12年に四級小型船舶操縦士の免許を取得し,以後,年間をとおして月に4ないし6回釣りに出かけ,釣り場は主に仙台湾であるが,年に2,3回女川原子力発電所東方沖合の釣り場で釣りを行っていたことから,海図を見たり,人から聞いたりして女川湾南部の早埼北方沖合に位置する干出岩である地名計根の存在を知っており,これまでは同根の北側を航行していた。
A受審人は,操舵室左舷側のいすに腰掛けて手動操舵で操船にあたり,機関の毎分回転数を2,050として17.0ノットの対地速力で航行し,レーダーを作動させていたものの目視で船位の見当をつけ,金華山瀬戸及び早崎水道を経て女川湾南部に至った。
11時28分A受審人は,早埼灯台から049度(真方位,以下同じ。)670メートルの地点に達したとき,左転して目的の釣り場に向かうこととしたが,これまでに7,8回航行した経験があったことから目視のままで航行を続けても地名計根の北側を航行できると思い,作動中のレーダーで離岸距離を求めるなどして船位を十分に確認することなく,左転を開始した。
A受審人は,11時29分少し過ぎ早埼灯台から345度600メートルの地点で左転を終えて針路を274度に定め,地名計根に向首していることに気付かないまま,同じ速力で進行中,11時30分早埼灯台から320度800メートルの地点において,突然衝撃を受け,水面下に隠れた地名計根に乗り揚げ,これを擦過した。
当時,天候は晴で風力1の東北東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果,船底外板後方中央部に破口が生じて浸水したほか,推進器翼及び同軸に曲損などを生じた。
(原因)
本件乗揚は,宮城県女川湾南部において,釣り場に向けて転針する際,船位の確認が不十分で,干出岩に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,宮城県女川湾南部において,釣り場に向けて転針する場合,転針する方向に干出岩が存在することを知っていたのであるから,同岩を避けることができるよう,作動中のレーダーを利用して離岸距離を求めるなどして船位を十分に確認すべき注意義務があった。ところが,同人は,これまでに7,8回航行した経験があったことから目視のまま航行を続けても干出岩を避けることができると思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,同岩に向首していることに気付かないまま進行して乗揚を招き,船底外板後方中央部に破口を生じさせて浸水させたほか,推進器翼及び同軸に曲損などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。