(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年10月14日23時00分
北海道吉岡漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十八永宝丸 |
総トン数 |
138トン |
登録長 |
29.73メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
573キロワット |
3 事実の経過
第十八永宝丸(以下「永宝丸」という。)は,船体のほぼ中央部に船橋を設けた,いか一本つり漁業に従事する鋼製漁船で,A受審人ほか8人が乗り組み,操業の目的で,船首1.2メートル船尾3.2メートルの喫水をもって,平成16年10月14日20時00分北海道函館港を発し,北海道西方沖合の漁場に向かった。
ところで永宝丸は,前日05時ごろ北海道西方沖合の漁場を発進し,14日03時00分函館港に入港して水揚を行い,14時ごろ燃料などの積込みを終了した。
A受審人は,発航に先立ち休息を十分にとることができる状況であったが,この間パチンコなどに興じたため,連日の操業や航海当直による疲労が蓄積したままであった。
またA受審人は,漁場までの航海当直に,自らが出港から3時間ばかり就いたのち,甲板長と甲板員2人による単独3時間の輪番制で就かせることとしていた。
A受審人は,出港操船に続き,単独の航海当直に就いて渡島半島南岸沿いの津軽海峡を西進し,22時02分矢越岬灯台から125度(真方位,以下同じ。)0.8海里の地点に達したとき,針路を245度に定め,機関を全速力前進にかけて9.6ノットの対地速力で,自動操舵により進行した。
定針後A受審人は,操舵室左舷側の背もたれ付きいすに腰を下ろした姿勢で見張りに当たっていたところ,蓄積した疲労により,眠気を覚えたが,間もなく当直を交替するのでそれまで我慢できるものと思い,休息中の乗組員を昇橋させて2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとらずに続航した。
こうして永宝丸は,A受審人がいつしか居眠りに陥って居眠り運航となり,予定転針地点に至っても転針がなされず,吉岡漁港南防波堤に向けたまま進行し,23時00分吉岡港第2西防波堤灯台から304度127メートルの地点の吉岡漁港南防波堤消波ブロックに,原針路原速力のまま乗り揚げた。
当時,天候は曇で風力3の北北東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果,永宝丸は船首船底部に亀裂を伴う凹損などを生じた。
(原因)
本件乗揚は,夜間,北海道矢越岬沖合の津軽海峡において,漁場向け西行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,吉岡漁港南防波堤に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,北海道矢越岬沖合の津軽海峡において,単独の船橋当直に就き,漁場向け西行中,蓄積した疲労により,眠気を覚えた場合,休息中の乗組員を昇橋させて2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかし,同受審人は,間もなく当直を交替するのでそれまで我慢できるものと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥ったまま吉岡漁港南防波堤に向けて進行していることに気付かず,同防波堤消波ブロックへの乗揚を招き,永宝丸の船首船底部に亀裂を伴う凹損などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。