(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年10月16日04時50分
北海道苫小牧港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第12喜誉丸 |
総トン数 |
4.56トン |
登録長 |
9.96メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
139キロワット |
3 事実の経過
第12喜誉丸(以下「喜誉丸」という。)は,船体のほぼ中央部に操舵室を設け,レーダー1台のほかGPSプロッター1台などを備えた,ほっきがいけたびき網漁業に従事するFRP製漁船で,A受審人(昭和50年4月一級小型船舶操縦士(5トン限定)免許取得)ほか1人が乗り組み,操業の目的で,船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成16年10月16日02時00分北海道苫小牧港を僚船32隻とともに発し,同港西方沖合の漁場に向かった。
ところで,苫小牧灯台から248度(真方位,以下同じ。)5,300メートルの地点と同灯台から247.5度4,400メートルの地点との間には,長さ100メートルの離岸堤が5基海岸線に沿って等間隔に設置されていた。喜誉丸の漁場が離岸堤付近海域であったことから,A受審人はこれら離岸堤の存在を知っていた。
02時45分A受審人は,離岸堤西方350メートルほどの,苫小牧灯台から249度5,650メートルの地点の漁場に到着し,船尾から錨を投じて待機し,03時00分操業開始時刻となり,船首からけたびき網を投じて操業を行い,04時34分ほっきがい200キログラムを漁獲したところで操業を打ち切り,揚錨して船首を東北東方に向け漂泊を開始し,折からの風潮流により東北東に0.8ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で圧流されながら,前部甲板上で作業灯を点じて漁獲物の選別作業を行った。
04時50分少し前A受審人は,苫小牧灯台から248.5度5,250メートルの地点に至ったとき,漁獲物の選別作業を終えて帰途に就くこととしたが,それほど離岸堤寄りに圧流されていることはないものと思い,レーダーを使用するなどして船位の確認を十分に行うことなく,同堤寄りに圧流されていることに気付かず,船首方に見える苫小牧港の明かりを頼りに船首を080度に向け,作業灯を点じたまま甲板員を甲板清掃に従事させ,機関を半速力前進にかけて発進した直後,船首方に磯波を認めたことから,咄嗟に沖出しするため右舵15度をとったところ,西端の離岸堤に向かっていることに気付かずに進行した。
こうして喜誉丸は,04時50分苫小牧灯台から248度5,220メートルの地点において,7.0ノットの速力で旋回中,125度を向首したとき,離岸堤消波ブロックに乗り揚げた。
当時,天候は曇で風力3の西南西風が吹き,潮候はほぼ高潮時であった。
乗揚の結果,喜誉丸の船首部船底に破口,中央部船底及び推進器翼に曲損などを生じ,甲板員が顔面打撲傷を負った。
(原因)
本件乗揚は,夜間,北海道苫小牧港西方沖合において,漂泊したのち帰航するため発進する際,船位の確認が不十分で,離岸堤に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,北海道苫小牧港西方沖合において,離岸堤付近の漁場で漂泊したのち帰航するため発進する場合,レーダーを使用するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,離岸堤寄りに圧流されていることはないものと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,同堤寄りに圧流されていたことに気付かず,発進直後,船首方に磯波を認めたことから,咄嗟に沖出しするため右転して旋回中,同堤に向かって進行して離岸堤消波ブロックへの乗揚を招き,喜誉丸の船首部船底に破口,中央部船底及び推進器翼に曲損などを生じさせ,甲板員に顔面打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。