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平成16年長審第61号
件名

漁船萬栄丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年4月25日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(稲木秀邦)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:萬栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船尾船底に擦過傷及びプロペラ羽根に曲損

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年8月10日21時10分
 福岡県筑後川

2 船舶の要目
船種船名 漁船萬栄丸
総トン数 4.2トン
全長 13.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 139キロワット

3 事実の経過
 萬栄丸は,専ら海苔養殖漁業に従事する船尾に操舵室があるFRP製漁船で,A受審人(昭和52年8月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,花火見物の目的で,同人の家族及び親戚等12人を乗せ,船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって,平成16年8月10日19時00分筑後川支流の早津江川右岸にある佐賀県戸ヶ里漁港(戸ヶ里地区)の係留地を発して上航したのち,筑後川との合流地点から同川を下航し,同時40分新田大橋北西方の大角宮前三角点(15.3メートル)(以下「三角点」という。)から132度(真方位,以下同じ。)625メートルの地点に到着して錨泊し,地元観光協会主催の花火大会を見物して21時07分同地点を発進し,帰途に就いた。
 ところで,筑後川には,筑後川昇開橋のほぼ南西方450メートルの前示合流地点付近から筑後川下流にかけてその中央部に,長さ6,527メートル幅約10メートルの導流堤が築造され,導流堤に船舶通航用切通し(以下「切通し」という。)が新田大橋の上流に2箇所下流に1箇所それぞれ設けられていた。そして,新田大橋から370メートル上流に設けられた幅35メートルの切通し両側には,高潮時における水面上の高さ約2.5メートル直径約0.5メートルの灯火設備のないコンクリート製標識柱がそれぞれ設置されていた。また,同種の標識柱は,高潮時導流堤が水面下となったときの目印として導流堤上の数十箇所にも設置され,それらの間隔が明らかに切通し幅と違っていたので夜間でも照明があれば,切通しの標識柱と認識することができた。
 発進したとき,A受審人は,往航と同じ経路を航行して早津江川に入る予定で,針路を008度に定め,機関を微速力前進にかけ,3.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,サーチライトを前方に照射しながら手動操舵によって,導流堤が水面下に隠れる状況下,筑後川左岸と導流堤の標識柱間のほぼ中央を進行した。
 A受審人は,操業のときは早津江川を下航して有明海で操業しており,本来筑後川を航行することはなかったが,花火見物には何度も来ていて導流堤のことは承知していたが,それまで切通しを通航したことはなかった。
 A受審人は,新田大橋の下方を通過して21時08分半三角点から120度565メートルの地点に達し,機関を半速力前進に増速して10.0ノットの速力で続航中,自船の左舷側を追い越した花火見物船が筑後川右岸に向けて上航して行ったので,自船も切通しを通航して近回りすることとしたが,サーチライトを照射して切通しの両側に設けられた標識柱間の幅を確かめるなど,船位の確認を十分に行うことなく,サーチライトを左舷前方に照射し,切通し北側の標識柱を認めてこれを南側の標識柱と誤認したまま進行した。
 こうして,A受審人は,21時10分少し前三角点から085度530メートルの地点において,徐々に左転したところ,水面下の切通し北側の導流堤に向首することになったが,依然船位の確認を行わなかったので,このことに気付かず進行中,21時10分萬栄丸は,三角点から073度470メートルの地点において,305度に向首して原速力のまま導流堤に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力1の北北西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果,船尾船底に擦過傷及びプロペラ羽根に曲損をそれぞれ生じたが,自力離礁し,のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は,夜間,福岡県筑後川で花火大会の見物を終えて帰航中,同川中央に設けられた導流堤の切通しを通航しようとする際,船位の確認が不十分で,水面下の導流堤に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,福岡県筑後川で花火大会の見物を終えて帰航中,同川中央に設けられた導流堤の切通しを通航しようとする場合,導流堤に向首進行することのないよう,サーチライトを照射して切通しの両側に設けられた標識柱間の幅を確かめるなど,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,切通し北側の標識柱を認めてこれを南側の標識柱と誤認したまま,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,水面下の導流堤に向首進行して乗揚を招き,船尾船底に擦過傷及びプロペラ羽根に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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