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 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  乗揚事件一覧 >  事件





平成17年門審第6号
件名

漁船一幸丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年4月21日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治)

理事官
金城隆支

受審人
A 職名:一幸丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船首外板を大破,同船底外板に破口

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月9日13時25分
 長崎県対馬市豆酘湾

2 船舶の要目
船種船名 漁船一幸丸
総トン数 9.7トン
全長 17.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 496キロワット

3 事実の経過
 一幸丸は,ぶりのはえなわ漁に従事し,船体ほぼ中央部に操舵室を有するFRP製漁船で,A受審人と甲板員Bが乗り組み,操業の目的で,船首0.60メートル船尾1.75メートルの喫水をもって,平成16年11月8日17時00分長崎県対馬市根緒漁港を発し,18時ごろ同漁港南東方12海里ばかりの地点に到着して24時ごろまで,ぶりの餌に使用するいかの採捕を行ったのち,翌9日01時30分対馬南端の豆酘埼北北西方3海里ばかりの地点に至り,操業開始を待って錨泊し,05時45分抜錨した。
 06時00分A受審人は,付近海域で操業を開始し,ぶり160尾を漁獲したのち,12時35分豆酘埼灯台北西5海里ばかりの地点で,単独の船橋当直に就いて,帰港の目的で発進した。
 ところで,A受審人は,平成11年2月に交付された一級小型船舶操縦士の有効期間が同16年5月に満了したものの,その後更新手続きを行わず,操縦免許証が失効したまま一幸丸に船長として乗り組んでいた。そして,対馬周辺での操業に際しては,操船を全て自ら行うとともに操業中も甲板員と一緒に漁労に従事し,当時,10日間程連続して昼過ぎに帰港して同日夕方に出漁する操業形態をとっていたので,睡眠時間が十分とれず,疲労が蓄積した状態にあった。
 B甲板員は,はえなわ漁といか釣漁の操業時だけA受審人に雇用され,平成16年3月に一級,特殊及び特定の各資格を担保する操縦免許証の交付を受けていたが,一幸丸では漁労作業にのみ従事し,それ以外の時間は船尾の船員室で休息をとっていた。
 発進後,A受審人は,舵輪の船尾側で操舵室床面から80センチメートルの高さに設置された座椅子に腰を掛けた姿勢で,豆酘埼南端に向かって南東進し,同埼に接近してからは立ち上がった姿勢で操船に当たり,同埼南端の狭水道を通過して豆酘湾に入り,13時12分少し過ぎ豆酘埼灯台から170度(真方位,以下同じ。)500メートルの地点で,前路に設置された定置漁具を替わすため,針路を110度に定め,機関を半速力前進にかけ,11.0ノットの対地速力で,自動操舵により進行した。
 定針後,A受審人は,操業による疲労などから眠気を催していたが,常時自ら操船していたことや過去に眠気を感じたまま操船することがしばしばあったことから,眠気を催してもこのまま我慢することができ,居眠りに陥ることはないと思い,休息中のB甲板員を呼んで船橋当直を一時交代するなどの居眠り運航の防止措置をとることなく続航した。
 13時21分少し過ぎA受審人は,神埼灯台から297度1,400メートルの地点に達し,前路に設置漁具などの障害物もなくなったので,安心して針路を自動操舵のまま神埼南端付近に向く117度に転じ,同南端に接近すれば沖出しするつもりで,座椅子に腰を掛けたところ,間もなく居眠りに陥った。
 こうして,一幸丸は,神埼沖合に向けて転針がなされず,同埼に向首したまま進行し,13時25分神埼灯台から294度150メートルの地点において,原針路,原速力のまま乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の初期であった。
 A受審人は,衝撃により目覚めて,乗り揚げたことを知り,事後の措置に当たった。
 乗揚の結果,船首外板を大破したほか,同船底外板に破口を生じたが,自力離礁し,根緒漁港に向け航行中に浸水し,来援した起重機台船により引き揚げられ,のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は,長崎県対馬市豆酘湾において,漁場から根緒漁港に向け帰航する際,居眠り運航の防止措置が不十分で,神埼に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,豆酘湾において,単独の船橋当直に就き,漁場から根緒漁港に向け自動操舵により帰航中,連続した操業による疲労などから眠気を催した場合,居眠り運航にならないよう,休息中の甲板員と当直を交代するなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,常時自ら操船していたことや過去に眠気を感じたまま操船することがしばしばあったことから,眠気を催してもこのまま我慢することができ,居眠りに陥ることはないと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,神埼に向首進行して乗揚を招き,船首外板の大破及び同船底外板に破口を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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