(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年4月26日22時53分
山口県徳山下松港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船パシフィックファルコン |
総トン数 |
7,918トン |
全長 |
126.66メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
3,883キロワット |
3 事実の経過
パシフィックファルコン(以下「パ号」という。)は,操船位置から船首端までの距離が約95メートルの船尾船橋型鋼製セメント運搬船で,A,B両受審人ほか9人が乗り組み,空倉のまま,海水バラスト4,000トンを張り,船首3.46メートル船尾5.29メートルの喫水をもって,平成16年4月24日07時30分沖縄県那覇港を発し,高知県高知港に向う途中,数日間の時間調整のため,翌々26日山口県徳山下松港に寄港することとした。
ところで,A受審人は,徳山湾で錨泊した経験が豊富にあったことから,錨地の底質が泥で錨かきが良いものの,南寄りの強風に対し好錨地でないことを認識していた。また,錨鎖の伸出量については,風速毎秒15メートル未満のときは水深の5倍の長さが,それ以上のときはその7倍の長さがそれぞれ適切と判断していた。
08時30分A受審人は,樺島島頂(46メートル,以下「島頂」という。)から139度(真方位,以下同じ。)1,390メートルの地点に至り,水深14メートル底質泥の海底に,後進しながら左舷錨を投じ,1節の長さが27.5メートルで各舷9節半保有している錨鎖のうち5節半を水際まで伸出し,錨が効いたことを確認して機関を終了し,甲板手らによる4時間3直制の甲板当直を維持して錨泊を始めた。
18時ごろA受審人は,自室の風速計で時折南寄りの強風が吹いていることを認めたが,錨鎖を5節半伸出しているので,走錨することはないものと思い,甲板当直者に対し,風速が毎秒15メートル以上になれば知らせるなど,報告すべき風速を具体的に指示せず,自室で休息した。
20時00分B受審人は,船長に報告すべき風速など前直者から申し送りのないまま甲板当直に就いたところ,間もなく南寄りの強風が吹き始めたことを認めたが,船長に対し,報告すべきかどうか戸惑い,風速が増大した旨を報告せず,操舵室の風速計が毎秒30メートル付近を指している状況を監視し続けた。
A受審人は,風速が増大した旨の報告を受けられず,左舷錨鎖を十分に伸出するなど,走錨の防止措置をとることができないまま錨泊を続けたところ,やがて,パ号が強風により走錨を始めた。
22時15分B受審人から樺島に接近している旨を知らされて昇橋したA受審人は,直ちに船首に配員して機関用意とし,22時47分島頂から132度800メートルの地点で揚錨を終え,樺島東岸の浅所に向け圧流されながら機関を全速力前進として左回頭中,レーダーで船首方に樺島を認め,機関を後進にかけたが及ばず,22時53分パ号は,島頂から115度160メートルの地点において,284度に向首したとき,樺島東岸の浅所に乗り揚げた。
当時,天候は雨で突風を伴う風力9の南東風が吹き,潮候は上げ潮の末期で,山口県中部には強風,波浪注意報が発表されていた。
乗揚の結果,船首部船底外板に亀裂を伴う凹損を生じたが,すぐに自力離礁して付近に再錨泊し,のち修理された。
(原因)
本件乗揚は,山口県徳山下松港において錨泊中,走錨の防止措置が不十分で,強風により走錨し,樺島東岸の浅所に向け圧流されたことによって発生したものである。
走錨の防止措置が十分でなかったのは,船長が,甲板当直者に対し,報告すべき風速を具体的に指示しなかったことと,同当直者が,船長に対し,風速が増大した旨を報告しなかったことによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は,山口県徳山下松港において,甲板当直者を立てて錨泊中,時折南寄りの強風が吹いていることを認めた場合,同港が南寄りの強風に対し好錨地でないことを認識していたのであるから,走錨の防止措置をとることができるよう,同当直者に対し,風速が毎秒15メートル以上になれば知らせるなど,報告すべき風速を具体的に指示すべき注意義務があった。しかるに,同人は,錨鎖を5節半伸出しているので,走錨することはないものと思い,報告すべき風速を具体的に指示しなかった職務上の過失により,風速が増大した旨の報告を受けられず,走錨の防止措置をとることができないまま錨泊を続けて走錨し,樺島東岸の浅所に向け圧流されて乗り揚げる事態を招き,船首部船底外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,山口県徳山下松港において,甲板当直に当たって錨泊中,南寄りの強風が吹き始めたことを認めた場合,船長に対し,風速が増大した旨を報告すべき注意義務があった。しかるに,同人は,報告すべきかどうか戸惑い,風速が増大した旨を報告しなかった職務上の過失により,走錨の防止措置がとられないまま錨泊を続けて走錨し,樺島東岸の浅所に向け圧流されて乗り揚げる事態を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。