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平成16年広審第104号
件名

貨物船あかつき乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年4月8日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(米原健一,吉川 進,道前洋志)

理事官
濱田真人

受審人
A 職名:あかつき船長 海技免許:五級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:あかつき一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
船尾船底外板に擦過傷などの損傷

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Bの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月28日22時51分
 備讃瀬戸瓦州
 (北緯34度20.3分東経133度38.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船あかつき
総トン数 199トン
登録長 54.84メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 661キロワット
(2)設備及び性能等
 あかつきは,平成7年4月に進水し,限定沿海区域を航行区域とする全通二層甲板船尾船橋型の鋼製貨物船で,ガラス粉などの輸送に従事していた。
 操舵室は,中央部に操舵スタンドが,同スタンドの右舷側に機関操縦装置,GPSプロッター(白黒)及びレーダー(白黒)が,左舷側にGPSプロッター(カラー)及びレーダー(カラー)がそれぞれ設置され,同室前方に視界を妨げるものはなかった。
 操縦性能は,船舶件名表抜粋写中の海上試運転成績によると,左旋回及び右旋回ともに旋回径が約75メートルで,180度回頭するのに約1分を要し,全速力前進中,後進を発令して船体停止までに約1分半を要した。

3 事実の経過
 あかつきは,A及びB両受審人並びに機関長が乗り組み,空倉のまま,船首0.4メートル船尾2.6メートルの喫水をもって,平成16年5月28日14時40分兵庫県尼崎西宮芦屋港を発し,山口県宇部港に向かった。
 A受審人は,船橋当直を,00時から06時まで及び12時から18時までを自らが,06時から12時まで及び18時から24時までをB受審人がそれぞれ行う単独6時間2直制としていたところ,尼崎西宮芦屋港での揚げ荷役作業及びその後の船倉の清掃作業に機関長と2人であたり,清掃作業に時間を要したことから,出港操船及びそれに続く船橋当直を同受審人に任せ,同作業を終えたあと,17時ごろ昇橋し,同受審人と交替して当直にあたり,備讃瀬戸東航路に向けて播磨灘を西行した。
 ところで,B受審人は,同日09時00分尼崎西宮芦屋港に入港し,その後は荷役作業などに従事しないで自室や操舵室で休息をとり,同港入港以前にも休息を十分にとっていたので,疲労が蓄積した状態でも,睡眠不足の状態でもなかった。
 18時00分A受審人は,夕食をとるなど一服を終え昇橋してきたB受審人に再び当直を委ねることとし,その際,船主であり義父でもある同受審人に遠慮し,疲れて眠気を催したときには休息中の機関長を呼んで2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるよう指示することなく,針路などを引き継いで降橋し,自室で休息した。
 B受審人は,航行中の動力船の灯火を表示し,操舵スタンド後方に立って手動操舵と見張りにあたり,操業中の漁船群を避けるなどしながら播磨灘及び備讃瀬戸東航路を通航したのち備讃瀬戸北航路に入り,22時17分わずか過ぎ牛島灯標から267度(真方位,以下同じ。)1.0海里の地点で,針路を250度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力で,同航路に沿ってその北側境界線寄りを進行した。
 B受審人は,22時31分半波節岩灯標を航過したころ,フェリーが左舷側を追い越して周囲に自船に関係する他船がいなくなったので,操舵室後部に置いていたいすを操舵スタンド後方に移動して腰をかけ,見張りにあたっていたところ,それまで長時間,緊張し,立ったまま手動操舵や見張りにあたっていたことから,疲労を覚え,眠気を催したが,A受審人及び機関長に休息をとらせてやろうと思い,休息中の機関長を呼んで2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置をとることなく,眠気を我慢し同じ姿勢で続航した。
 B受審人は,間もなく居眠りに陥り,22時34分半ころ香川県広島を右舷に航過したのち,折からの微弱な北東流を左舷前方から,南東風を左舷後方からそれぞれ受けて右方に5度圧流され,同じ速力で進行する状況となり,やがて備讃瀬戸北航路の北側境界線を越え,同航路の北側を香川県小島に向けて続航したが,居眠りに陥っていたので,このことに気付かなかった。
 B受審人は,22時50分ふと目覚めて前方を見たところ,至近に小島の黒い影を認め,手動操舵に切り替えて右舵一杯をとったものの及ばず,22時51分板持鼻灯台から316度1.1海里の地点において,あかつきは,船首が070度に向いたとき,同島の東側至近に広がる瓦州に船尾部を乗り揚げた。
 当時,天候は曇で風力3の南東風が吹き,視界は良好で,潮候は下げ潮の末期にあたり,乗揚地点付近には微弱な北東流があった。
 A受審人は,自室で休息中,B受審人から「漁網を引っ掛けたかもしれない。」旨の電話連絡を受け,機関室で発電機を起動後昇橋して乗揚を知り,事後の処置にあたった。
 乗揚の結果,自力で離礁して香川県坂出港に入港したが,船尾船底外板に擦過傷などを生じた。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,B受審人に遠慮し,居眠り運航の防止措置を十分にとるよう指示しなかったこと
2 B受審人が,自動操舵のまま,舵輪後方に置いたいすに腰をかけていたこと
3 B受審人が,単独で,長時間,緊張し,立ったまま手動操舵や見張りにあたり疲労を覚えたこと
4 B受審人が,居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
5 付近に右方に圧流する潮流や風があったこと

(原因の考察)
 B受審人が,居眠り運航の防止措置をとっていたならば,備讃瀬戸北航路から外れ,小島に向けて進行することに気付き,乗揚を回避できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 B受審人が,自動操舵のまま,舵輪後方に置いたいすに腰をかけていたこと及び単独で,長時間,緊張し,立ったまま手動操舵や見張りにあたり疲労を覚えたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実で,居眠り運航に陥った背景である。
 A受審人が,B受審人に遠慮し,居眠り運航の防止措置を十分にとるよう指示しなかったことは,本件発生の原因となる。
 右方に圧流する潮流や風があったことは,B受審人が居眠りに陥らなければ,このことを認めることができ,針路を修正することができたので,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,備讃瀬戸において,居眠り運航の防止措置が不十分で,香川県小島に向けて進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは,船長が,船橋当直者に対し,居眠り運航の防止措置を十分にとるよう指示しなかったことと,船橋当直者が,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,夜間,備讃瀬戸北航路を単独の船橋当直にあたって西行中,長時間,緊張し,立ったまま手動操舵や見張りにあたり疲労を覚え,眠気を催した場合,休息中の機関長を呼んで2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが,同人は,A受審人及び機関長に休息をとらせてやろうと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,備讃瀬戸北航路から外れ,同航路北方の香川県小島に向けて進行し,同島の東側至近に広がる瓦州への乗揚を招き,船尾船底外板に擦過傷などを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 A受審人は,夜間,備讃瀬戸東航路に向けて播磨灘を西行中,B受審人に単独の船橋当直を委ねる場合,疲れて眠気を催したときには休息中の機関長を呼んで2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるよう指示するべき注意義務があった。ところが,A受審人は,船主であり義父でもあるB受審人に遠慮し,居眠り運航の防止措置を十分にとるよう指示しなかった職務上の過失により,同受審人が備讃瀬戸北航路を航行中,居眠りに陥り,同航路を外れ,香川県小島に向けて進行して同島の東側至近に広がる瓦州への乗揚を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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