(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年6月18日09時15分
千葉港千葉区第4区袖ヶ浦ふ頭前面海域
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船カネフジ丸 |
総トン数 |
4.92トン |
登録長 |
11.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
25 |
3 事実の経過
カネフジ丸は,小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,A受審人(昭和63年10月一級小型船舶操縦士免許を取得し,平成15年7月一級及び特殊の小型船舶操縦士免許に更新した。)ほか1人が乗り組み,とりがい漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成16年6月18日03時00分千葉県小糸川漁港を発し,千葉港千葉区第4区の袖ヶ浦ふ頭前面海域の漁場に向かった。
ところで,袖ヶ浦ふ頭前面海域は,北北西方に面する同ふ頭とその東方に位置する北袖の岸壁及び西方に位置する中袖の岸壁(以下「中袖岸壁」という。)とに囲まれ,北北西方に向かって逆T字形をした海域で,東西両岸壁に挟まれた水路は幅約300メートル長さ約1,300メートルあり,中袖に所在する富士石油株式会社中袖基地前面の中袖岸壁東側沿いには,幅約25メートル南北方向約700メートルに渡って多数の石が散在する干出浜が存在し,このことは海図W1087(千葉港南部)に記載されていたものの,A受審人が備えていた東京湾の小縮尺海図には記載がなかった。
A受審人は,毎年5月から8月にかけて専ら東京湾中ノ瀬付近でかれい,あなご,車エビなどを対象に底びき網漁を,9月から翌年4月にかけてのり養殖を行っていたところ,漁師仲間から袖ヶ浦ふ頭前面海域でとりがいが獲れることを聞き自分も操業することとしたが,同海域で操業するのは今回が初めてで,小縮尺海図しか備えていなかったのに,以前,知人の作業船に乗り組み中ノ瀬航路浚渫工事に従事した際,土砂を陸揚げするため袖ヶ浦ふ頭西寄り対岸の,中袖岸壁南側に接岸した経験があり,僚船が漁場としている海域でもあるので,浅所など障害はないものと思い,出航前に大縮尺海図W1087を入手するなり,僚船や地元の漁業協同組合に問い合わせるなどして同ふ頭前面海域の水路調査を十分に行わなかった。
こうして,A受審人は,中袖岸壁東側沿いの干出浜の存在を知らずに出航し,04時20分目的の漁場に至り,20隻ばかりいた僚船とともに袖ヶ浦ふ頭前面海域の東西に広い船溜まりの中で操業を開始し,10回目の曳網を終えたところで操業を止め,僚船の邪魔にならないよう,数隻しかいなかった水路内に移動し,08時30分北袖に所在する住友化学工業株式会社千葉工場内の高さ144メートルの煙突(以下「住友煙突」という。)から248度(真方位,以下同じ。)1,120メートルの地点で,機関を中立とし船首を北北西方に向けて漂泊し,乗組員と一緒に漁獲物の選別作業に取り掛かった。
A受審人は,干出浜外縁の東方至近距離で漂泊したことに気付かないまま,船尾甲板において漁獲物の選別作業中,折からの微弱な風潮流の影響によりわずかずつ西方に圧流され,09時15分住友煙突から248度1,125メートルの地点において,カネフジ丸は,335度に向首した状態で,左舷船底部が干出浜に乗り揚げた。
当時,天候は曇で風力1の南南西風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果,カネフジ丸は,間もなく大傾斜して右舷方に横転し,船底外板に擦過傷及び主機等に濡損を生じ,A受審人及び乗組員は付近の僚船に救助され,その後,船体は僚船等により引き起こされて曳航救助された。
(原因)
本件乗揚は,千葉港千葉区第4区の袖ヶ浦ふ頭前面海域において,操業するにあたり,水路調査が不十分で,漂泊して漁獲物の選別作業中,風潮流の影響により中袖岸壁東側沿いの干出浜に向かって圧流されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,千葉港千葉区第4区の袖ヶ浦ふ頭前面海域において,操業する場合,同海域で操業するのは今回が初めてで,小縮尺海図しか備えていなかったから,出航前に大縮尺海図W1087を入手するなり,僚船や地元の漁業協同組合に問い合わせるなどして袖ヶ浦ふ頭前面海域の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,以前,中袖岸壁南側に接岸した経験があり,僚船が漁場としている海域でもあるので,浅所など障害はないものと思い,水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,中袖岸壁東側沿いの干出浜の存在を知らずに出航し,その至近距離で漂泊して漁獲物の選別作業中,風潮流の影響により干出浜に向かって圧流されて乗揚を招き,船底外板に擦過傷及び主機等に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。