(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年9月25日07時15分
北海道湯沸岬東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第七十八浜中丸 |
総トン数 |
9.7トン |
全長 |
19.75メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
478キロワット |
3 事実の経過
第七十八浜中丸(以下「浜中丸」という。)は,船体のほぼ中央部に船橋を設けた,さんま棒受け網漁業などに従事するFRP製漁船で,A受審人(平成15年2月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか4人が乗り組み,さんま棒受け網漁の目的で,船首0.7メートル船尾2.1メートルの喫水をもって,平成16年9月24日14時00分北海道花咲港を発し,同港南東方30海里ばかりの漁場に向かった。
ところで浜中丸は,8月から根室半島南方沖合を主な漁場としてほとんど日帰りの操業を行っていたもので,漁場が近かったことから,A受審人が漁場往復の船橋当直を単独で行っており,同人の睡眠時間は1日4時間ほどであった。
16時ごろA受審人は,予定した漁場に着いたものの,魚影が無かったので魚群探索を行いながら西進し,翌25日01時ごろ湯沸岬南西方15海里ほどのところで操業を行い,05時20分さんまを1トンほど漁獲して操業を終え,北海道霧多布港に向けて帰途に就くこととした。
05時30分A受審人は,湯沸岬灯台から212度(真方位,以下同じ。)15.6海里の地点で,単独の船橋当直に就き,針路を034度に定め,機関を全速力前進として発進し,折からの潮流により2度右方に圧流され,9.8ノットの対地速力で,自動操舵により進行した。
06時35分A受審人は,湯沸岬灯台から203度5.1海里の地点に至り,レーダーにより浜中湾口付近を6海里に認め,転針予定地点となる湯沸岬沖合まであと30分ばかりとなったことから安堵するとともに,連日の操業による疲労の蓄積により,眠気を覚えたが,間もなく入港するのでそれまで我慢できるものと思い,休息中の乗組員を昇橋させて2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,左舷側のいすに腰を下ろしたまま続航した。
こうして浜中丸は,船橋当直者がいつしか居眠りに陥って居眠り運航となり,転針予定地点に達しても転針がなされず,湯沸岬東方の岩礁に向けたまま進行し,07時15分湯沸岬灯台から071度1.9海里の地点の岩礁に,原針路原速力のまま乗り揚げた。
当時,天候は曇で風力3の北東風が吹き,潮候は低潮時であった。
乗揚の結果,浜中丸は船尾部に破口などを生じ,浸水して転覆し,霧多布港に引き付けられたが,のち廃船となり,乗組員は僚船により救助された。
(原因)
本件乗揚は,北海道湯沸岬南西方沖合において,帰航中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同岬東方の岩礁に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,北海道湯沸岬南西方沖合において,単独の船橋当直に就き帰航中,連日の操業による疲労の蓄積により,眠気を覚えた場合,休息中の乗組員を昇橋させて2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかし,同受審人は,間もなく入港するのでそれまで我慢できるものと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥ったまま湯沸岬東方沖合にある岩礁に向けて進行していることに気付かず,同礁への乗揚を招き,浜中丸の船尾部に破口などを生じさせ,浸水して転覆させ,のち同船を廃船させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。