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平成17年長審第9号
件名

漁船幸照丸モーターボートゆき丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年6月7日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(藤江哲三)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:幸照丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:ゆき丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
幸照丸・・・船首部船底に擦過傷
ゆき丸・・・船体中央部左舷側から同部右舷側に亀裂,のち廃船処分,船長が右大腿部及び右膝に打撲傷の負傷

原因
幸照丸・・・針路の保持不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ゆき丸・・・動静監視不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,幸照丸が,針路の保持が不十分で,錨泊中のゆき丸に向かって転針進行したことによって発生したが,ゆき丸が,動静監視不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月3日10時30分
 長崎県蠣ノ浦島東岸沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船幸照丸 モーターボートゆき丸
総トン数 6.6トン 0.3トン
登録長 11.91メートル 4.05メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力   7キロワット
漁船法馬力数 120  

3 事実の経過
 幸照丸は,船体ほぼ中央から後部甲板上に船室があってその上部後方に操舵室を設け,レーダー,魚群探知機及び自動操舵装置を備えたFRP製漁船で,A受審人(昭和49年10月一級小型船舶操縦士免許取得,平成16年8月一級小型船舶操縦士・特殊小型船舶操縦士免許に更新)が1人で乗り組み,長崎県大島の歯科医院で歯の治療を終え,係船地に帰航する目的で,船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって,平成16年9月3日10時05分同県西海市大島町間瀬にある船着場を発し,同県江ノ島にある丸田漁港に向け帰途に就いた。
 発航後,A受審人は,操舵室で操舵操船に当たり,機関回転数毎分450(以下,回転数については毎分のものを示す。)の微速力前進で大島と対岸の長崎県寺島間の海域を航行したのち,徐々に機関の回転数を上げ,10時26分少し前兜島灯台から296度(真方位,以下同じ。)1,970メートルの地点に達したとき,針路を同県蠣ノ浦島の岸線に沿うよう239度に定め,機関を回転数1,700にかけ,18.0ノットの速力で,自動操舵装置が故障していたので手動のまま操舵に当たり,蠣ノ浦島東岸沖合に向けて南下した。
 やがて,A受審人は,前日の操業で傷んだ疑似餌の点検・交換をすることを思い立ち,10時28分少し過ぎ,兜島灯台から272.5度2,950メートルの地点に達して作業に取り掛かることにしたとき,左舷船首10度1,000メートルのところに,船体左舷側を見せて錨泊中のゆき丸が存在したが,前方を一見したのみで同船を見落とし,ゆき丸が存在することも,原針路のまま進行すれば同船の船尾方を約200メートル離して無難に航過する態勢であることにも気付かないまま,短時間であれば当て舵をとらなくても直進するので大丈夫と思い,舵中央として舵輪から手を離し,その後,手動操舵によって針路を保持することなく,操舵室の床に座って疑似餌の点検を始めた。
 間もなく,幸照丸は,波浪を受けて徐々に左転を始め,やがてゆき丸に向かって転針しながら進行する状況となったが,A受審人が疑似餌の交換を始めてこのことに気付かないまま続航中,10時30分兜島灯台から262度3,700メートルの地点において,原速力のまま,213度を向いたその船首が,ゆき丸の左舷側中央部に,後方から57度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候はほぼ高潮時であった。
 また,ゆき丸は,船尾端に船外機を備え,船体上部に構造物がなく,有効な音響による信号を行うことができる設備を有さないFRP製モーターボートで,B受審人(平成8年7月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,釣りの目的で,船首尾共0.1メートルの喫水をもって,同日09時30分西海市大島町大小島の係船地を発して対岸の寺島で釣りのえさを購入したのち,蠣ノ浦島東岸沖合の釣り場に向かった。そして,10時20分前示衝突地点に到着して水深約25メートルの海中に錨を投下し,約40メートル延出した錨索を船尾右舷側のたつに係止して錨泊し,錨泊中の船舶が掲げる形象物を表示しないまま,船外機を停止して釣りを始めた。
 10時28分少し過ぎB受審人は,船首が156度を向いた態勢で船尾右舷側のさぶたに右舷方を向いて座り,右舷側から釣り糸を出して手釣りをしていたとき,左舷船尾73度1,000メートルのところに,自船の船尾方を約200メートル離して無難に航過する態勢の幸照丸を視認し,蠣ノ浦島南岸沖合に向けて航行する他船があると思って,釣りを続けた。
 10時29分B受審人は,左舷船尾66度550メートルのところに,自船の船尾方を約100メートル離して航過する態勢となった幸照丸を認め,同船が針路を左に転じて自船に近付く状況となったことを知ったが,自船は錨泊しているので,接近することがあっても航行中の相手船が自船を避航してくれるものと思い,その後,その動静監視を十分に行うことなく,幸照丸が徐々に自船に向けて転針しながら衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,右舷方を向いたまま釣りを続けた。
 こうして,B受審人は,錨索を解き放って船外機を前進にかけるなど,衝突を避けるための措置をとらないで錨泊中,10時30分わずか前左舷後方至近に迫った幸照丸を認め,とっさに船内に身を伏せた直後,ゆき丸は,船首が156度を向いたまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,幸照丸は,船首部船底に擦過傷を生じたのみであったが,ゆき丸は,船体中央部左舷側から同部右舷側に亀裂を生じ,のち廃船処分とされ,B受審人が右大腿部及び右膝に打撲傷を負った。

(原因)
 本件衝突は,長崎県蠣ノ浦島東岸沖合において,係船地に向けて航行中の幸照丸が,針路の保持が不十分で,前路で錨泊中のゆき丸に向かって転針進行したことによって発生したが,ゆき丸が,動静監視不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,長崎県蠣ノ浦島東岸沖合において,係船地に向けて航行する場合,自動操舵装置が故障していたのだから,手動操舵によって針路を保持するべき注意義務があった。しかしながら,同人は,短時間であれば当て舵をとらなくても直進するので大丈夫と思い,舵輪から手を離して疑似餌の点検・交換作業に当たったまま,手動操舵によって針路を保持しなかった職務上の過失により,ゆき丸に向かって転針しながら進行して衝突を招き,幸照丸の船首部船底に擦過傷を生じさせ,ゆき丸の船体中央部左舷側から同部右舷側に亀裂を生じさせて同船を廃船させ,B受審人の右大腿部及び右膝に打撲傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,長崎県蠣ノ浦島東岸沖合において,錨泊して魚釣り中,自船の船尾方を無難に航過する態勢であった幸照丸が,針路を転じて自船に近付く状況となったことを知った場合,衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう,その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,自船は錨泊しているので,接近することがあっても航行中の相手船が自船を避航してくれるものと思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,幸照丸が徐々に自船に向けて転針しながら衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,錨索を解き放って船外機を前進にかけるなど,衝突を避けるための措置をとらないで衝突を招き,前示のとおり両船に損傷を生じさせ,自身が負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図





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