日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年長審第11号
件名

モーターボート光伸丸モーターボート漁丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年6月2日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(藤江哲三)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:光伸丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:漁丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
光伸丸・・・船首に擦過傷
漁丸・・・船体後部を大破,のち廃船

原因
光伸丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守

裁決主文

 本件衝突は,光伸丸が,見張り不十分で,停留中の漁丸に向かって至近のところから転針進行したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月26日14時00分
 熊本県樋島西岸沖合

2 船舶の要目
船種船名 モーターボート光伸丸 モーターボート漁丸
登録長 8.60メートル 4.23メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 169キロワット 2キロワット

3 事実の経過
 光伸丸は,船体ほぼ中央部甲板上に船室があってその後部に操舵室を設け,GPS及び魚群探知機を備えたFRP製モーターボートで,A受審人(昭和51年4月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,友人5人を乗せ,タイ釣りの目的で,船首0.35メートル船尾0.80メートルの喫水をもって,平成16年9月26日06時00分熊本県八代市日奈久の係船地を発し,07時00分同県天草上島南岸沖合にある萩島西岸付近の海域に到着して釣りを開始した。
 その後,A受審人は,釣り場を熊本県御所浦島西岸から再び萩島西岸付近の海域に移動しながら釣りを行ったものの,期待した釣果が得られなかったので,同県樋島付近の海域に移動してキスを釣ることにし,13時30分宮田港西ノ原南防波A灯台から195度(真方位,以下同じ。)2,750メートルの地点に当たる萩島西岸沖合を発し,樋島付近の海域に向かった。
 ところで,光伸丸は,全速力で航行すると船首部が浮上し,操舵室前部右舷側にある舵輪の後方に設けたいすに腰を掛けて前方を見ると,左舷船首7度から右舷船首5度にわたって死角を生じ,この範囲を見通すことができない状況であった。
 発航後,A受審人は,友人4人を前部甲板で,1人を後部甲板でそれぞれ休息させて自らは操舵室でいすに腰を掛け,単独で操舵操船に当たって大瀬戸から唐網代瀬戸を東行したのち,13時55分樋ノ島灯台から239度2,700メートルの地点に達したとき,針路を同灯台に向首する059度に定め,機関を全速力前進にかけ,17.0ノットの速力で,同灯台に近付いたのち樋島とその西方対岸にある椚島との間の柳瀬戸を航行するつもりで進行した。
 定針したとき,A受審人は,前方を一見したところ,右舷前方の樋島西岸沖合に1隻の漁船を認めたものの,船首方に他船が見当たらなかったので,前路には航行の支障となる他船はないと思って,その後,船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを行わないで続航した。
 A受審人は,13時58分樋ノ島灯台から239度1,120メートルの地点に達したとき,左舷船首3.5度1,040メートルのところに,船体左舷側を見せて停留中の漁丸が存在したが,定針したとき船首方に他船が見当たらなかったこともあって,前路には航行の支障となる他船はないものと思い,船首死角を補う見張りを十分に行うことなく,漁丸の存在に気付かず,時折船首を左方に振って樋ノ島灯台までの距離を目測しながら進行した。
 こうして,A受審人は,14時00分少し前樋ノ島灯台から239度220メートルの地点に達し,原針路のまま進行すれば左舷船首24度150メートルのところに存在する漁丸の船尾方を約60メートル離して無難に航過する態勢であったとき,針路を柳瀬戸に向けて035度に転じたところ,漁丸に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,船首死角に遮られてそのことに気付かないで続航中,突然衝撃を感じ,光伸丸は,14時00分樋ノ島灯台から276度100メートルの地点において,その船首が,漁丸の左舷側後部に直角に衝突し,乗り切った。
 当時,天候は晴で風力2の北北東風が吹き,潮候はほぼ低潮時であった。
 また,漁丸は,船尾端に船外機を備え,船体上部に構造物がない最大搭載人員3人の木製モーターボートで,B受審人(昭和50年9月一級小型船舶操縦士免許取得,平成16年6月一級小型船舶操縦士・特殊小型船舶操縦士免許に更新)が1人で乗り組み,イカ釣りの目的で,船首0.10メートル船尾0.25メートルの喫水をもって,同日13時25分樋島西岸仏崎の係船地を発し,同時30分樋ノ島灯台西方約100メートルの地点に到着して機関を停止し,左舷船尾から海中に出した艪を操作して船体を風に立てながら釣りを始めた。
 13時55分B受審人は,前示衝突地点において,折からの北北東風を右舷前方から受けて船首が332度を向いた態勢で,船体後部両舷に渡したベンチに左舷方を向いて腰を掛け,左手で艪を操作しながら右手で釣りをしていたとき,左舷船尾86度2,600メートルのところに,船首に白波を立てた光伸丸を視認し,東行して来る他船があると思って釣りを続けた。
 B受審人は,14時00分少し前船首を332度に向けたまま停留して釣りをしていたとき,左舷船尾63度150メートルのところで光伸丸が針路を左に転じ,その後自船に向首する態勢で接近し,同時00分わずか前ふと左舷後方を見たとき,約100メートルに迫った光伸丸を認めて急ぎ立ち上がり,衝突を避けようとして両手で艪を漕いだが,同船が自船の後部に向けてなおも接近して来るので身に危険を感じ,左舷船首から海中に飛び込んだ直後,漁丸は,船首が305度を向いた状態で,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,光伸丸は,船首に擦過傷を生じたのみであったが,漁丸は,船体後部を大破し,のち廃船された。

(原因)
 本件衝突は,熊本県樋島西岸沖合において,釣り場に向けて航行中の光伸丸が,見張り不十分で,前路で停留中の漁丸に向かってその至近のところから転針進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,熊本県樋島西岸沖合において,単独で操舵操船に当たり,船首方に死角を生じた状態で釣り場に向けて航行する場合,前路で停留中の漁丸を見落とすことのないよう,船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,前路には航行の支障となる他船はないものと思い,船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,漁丸の存在に気付かず,同船に向かってその至近のところから転針進行して衝突を招き,光伸丸の船首に擦過傷を生じさせ,漁丸の船体後部を大破して同船を廃船させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は,本件発生の原因とならない。


参考図
(拡大画面:20KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION