(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年12月19日14時35分
山口県三田尻中関港外
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船日の出丸 |
モーターボートアオイ号 |
総トン数 |
4.98トン |
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登録長 |
10.69メートル |
4.97メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
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17キロワット |
漁船法馬力数 |
15 |
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3 事実の経過
日の出丸は,船体中央よりやや船首側に機関室及び操舵室が設けられた,小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,昭和50年4月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人ほか1人が乗り組み,操業の目的で,平成16年12月19日05時30分山口県宇部港を発し,同県防府市向島東方の漁場に向かい,07時45分ごろ同漁場に至って漁を開始した。
A受審人は,14時00分ごろ赤えびなど約25キログラムを漁獲したところで操業を終え,長さ6メートルの曳網用ブーム(以下「ブーム」という。)を操舵室の前から両舷にほぼ真横に,舷側から4.4メートル船外に張り出し,船尾に網を吊り上げたまま,船首0.17メートル船尾1.63メートルの喫水をもって,14時05分佐波島灯台から077度(真方位,以下同じ。)6.2海里の地点を発進して帰途に就いた。
発進後,A受審人は,針路を257度に定め,機関を全速力前進に掛けて8.0ノットの対地速力で,船尾甲板上で魚の選別作業をしながら,自動操舵により進行し,14時18分半佐波島灯台から077度4.7海里の地点で,同作業を終えて針路を宇部港に向く269度に転じ,船尾甲板上に吊り上げていた網の整理作業を行いながら,同じ速力で続航した。
14時32分A受審人は,中関灯台から131度1.4海里の地点に達したとき,ほぼ正船首740メートルのところに,船首を東方に向けたアオイ号を視認することができ,その後,同船が錨泊中の船舶が表示する黒色球形形象物を掲げていなかったものの,平素から錨泊する釣船の多い水域であることを承知しており,同船が移動していないことなどから,錨泊中の船舶であることを推認でき,同船に衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,転針したとき前方を一瞥して他船を認めなかったことから,前路に他船はいないものと思い,網の整理作業に夢中になり,前方の見張りを十分に行わなかったので,この状況に気付かなかった。
A受審人は,14時35分少し前,正船首方のアオイ号に200メートルまで接近したが,依然として前方の見張りを十分に行わず,このことに気付かず,右転するなどして同船を避けないまま,同じ針路及び速力で続航中,14時35分中関灯台から144度1.2海里の地点において,日の出丸の右舷船外に張り出したブームがアオイ号のオーニング支柱に前方から4度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力1の東南東風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
また,アオイ号は,船体中央よりやや船尾側に機関室囲壁を設け,同囲壁の前方2メートルばかりの左舷側舷縁上に高さ約1.3メートルのオーニング用支柱を,同囲壁の前壁中央に高さ約3メートルのマストを,同後壁に機関の遠隔操縦ハンドル及び舵輪をそれぞれ設置し,同囲壁の上に風防ガラスを,同ガラス上縁から船尾にかけてオーニングをそれぞれ取り付けた,遊漁等に使用するFRP製和船型モーターボートで,昭和62年9月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が1人で乗り組み,友人2人を乗せ,魚釣りの目的で,船首0.25メートル船尾0.50メートルの喫水をもって,同日09時30分三田尻中関港を発し,同港港外の釣場に向かった。
B受審人は,09時45分ごろ釣場に至って投錨し,魚釣りを開始した。そして,何度か釣場を移して13時35分ごろ前示衝突地点付近の,水深13メートルばかりのところに移動し,船首から重さ約10キログラムの錨を投入し,錨索を25メートル延出して機関を停止し,通常船舶が航行する海域であったが,錨泊中の船舶が表示しなければならない黒色球形形象物を掲げないまま錨泊し,魚釣りを再開した。
14時32分B受審人は,東寄りの風と潮流とにより,085度に向首したアオイ号の後部甲板上で座って左舷側を向き,竿釣りを行っていたとき,正船首740メートルのところに,自船に向かって接近する日の出丸が存在していたが,航行している他船が錨泊している自船を避けてくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,その存在に気付かなかった。
B受審人は,14時33分,日の出丸が,衝突のおそれがある態勢で正船首500メートルまで接近したが,依然,見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,注意喚起信号を行うことも,更に間近に接近したとき,機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもせずに錨泊中,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,日の出丸はブームに擦過傷を,アオイ号はオーニング支柱を折損して転覆し,機関に濡損などをそれぞれ生じ,B受審人及び同乗者2人が頸部挫傷等を負った。
(原因)
本件漁具衝突は,三田尻中関港外において,宇部港に向け帰航中の日の出丸が,見張り不十分で,前路で錨泊中のアオイ号を避けなかったことによって発生したが,アオイ号が,見張り不十分で,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,三田尻中関港外において,宇部港に向け帰航する場合,前路に存在する他船を見落とすことのないよう,前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,転針したとき前方を一瞥して他船を認めなかったことから,前路に他船はいないものと思い,船尾甲板上に吊り上げた網の整理作業に夢中になり,前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で錨泊中のアオイ号に気付かず,同船を避けずに進行して自船の右舷船外に張り出したブームとアオイ号とが衝突する事態を招き,同ブームに擦過傷を,アオイ号のオーニング支柱を折損して転覆させ,機関の濡損などをそれぞれ生じさせ,B受審人及び同乗者2人に頸部挫傷等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。
B受審人は,三田尻中関港外において,魚釣りをしながら錨泊する場合,自船に向かって接近する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,接近する他船が自船を避けてくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,自船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近する日の出丸に気付かず,注意喚起信号を行わず,更に接近した際,機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置をとらずに錨泊を続けて衝突を招き,前示の事態を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。