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平成17年門審第19号
件名

漁船潤生丸漁船欽崇丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年6月17日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上田英夫,千手末年,西林眞)

理事官
濱田真人

受審人
A 職名:潤生丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:欽崇丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
潤生丸・・・船首部及び船底外板に亀裂を含む擦過傷並びに推進器翼等を曲損
欽崇丸・・・右舷中央部外板に亀裂及び操舵室の圧壊並びに主機及び電気系統に濡れ損,のち廃船,船長が,右橈骨骨幹部骨折並びに背部及び顔面挫創の負傷

原因
潤生丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
欽崇丸・・・避航を促す音響信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,潤生丸が,見張り不十分で,漂泊中の欽崇丸を避けなかったことによって発生したが,欽崇丸が,有効な音響信号を行うことができる手段を講じず,かつ,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年8月9日07時15分
 山口県相島北方沖合
 (北緯34度33.9分東経131度17.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船潤生丸 漁船欽崇丸
総トン数 4.9トン 2.4トン
全長   10.35メートル
登録長 12.98メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 389キロワット  
漁船法馬力数   40
(2)設備及び性能等
ア 潤生丸
 潤生丸は,平成15年10月に進水したFRP製漁船で,船体後部に配置された操舵室には,中央部に舵輪が有り,自動操舵装置,機関遠隔操縦装置,GPSプロッタ及び潮流計などが備えられていた。
 同船は,21ノットばかりで航走すると,操船者が舵輪の後方に設置された高さ約70センチメートルの折りたたみ式いすに腰を掛けた姿勢では,船首両舷にわたって8度ばかりの範囲で水平線が見えなくなる死角を生じる状況であったものの,操舵室内を左右に移動したり,同いすの上に立って同室天井に設けられた蓋付きの開口部から顔を出して見張りを行うことで同死角を補うことができた。
イ 欽崇丸
 欽崇丸は,平成8年7月に進水したFRP製漁船で,船体のほぼ中央に配置された操舵室には,舵輪,機関遠隔操縦装置及びGPSプロッタなどが備えられていた。

3 事実の経過
 潤生丸は,A受審人が1人で乗り組み,交通事故で負傷した長男及び2人の付添いを乗せ,平成16年8月9日04時00分山口県見島漁港(本村地区)を発して05時30分同県萩港に入港着岸し,同乗の3人を下船させて病院に向かわせたのち,船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,06時43分同港を発進し,帰途に就いた。
 A受審人は,いすの上に立って操舵室の天井開口部から顔を出し,船首方の死角を補いながら出港操船に当たり,機関を全速力前進が回転数毎分2,300のところ1,300にかけ,14ノットばかりの速力(対地速力,以下同じ。)で港内を進行し,06時48分萩港港界に達し,針路を山口県尾島西方に向く北西にとり,機関を回転数毎分1,700に増速して21.0ノットの速力で,手動操舵により進行した。
 07時02分わずか過ぎA受審人は,尾島西方の萩相島灯台から112度2.9海里の地点で,針路を見島漁港港口に向く331度(真方位,以下同じ。)に定め,自動操舵とし,前方に他船を見かけなかったことからいすに腰を掛け,折からの北東流の影響を受けて右方に1度圧流されながら,船首死角を生じた状況で続航し,同時05分萩相島灯台から095度2.2海里の地点に差し掛かり,帰港後に予定していた潜水漁に備えて朝食をとることとし,用意していた弁当を取り出して食事を始めた。
 07時12分わずか過ぎA受審人は,萩相島灯台から026度2.3海里に達したとき,正船首1.0海里のところに,東北東方に向いた欽崇丸を視認でき,その後,同船が漂泊していることが分かり,同船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近したが,食事をとりながら長男の治療や入院中の付添い人の交代のことなどを考えていて,操舵室内を左右に移動するなり,いすの上に立って天井開口部から顔を出すなどして,船首死角を補う見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かなかった。
 こうして,A受審人は,漂泊中の欽崇丸を避けずに進行し,07時15分萩相島灯台から011度3.0海里の地点において,潤生丸は,原針路,原速力のまま,その船首が欽崇丸の右舷中央部に後方から80度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の南風が吹き,視界は良好で,付近には0.5ノットの北東流があった。
 また,欽崇丸は,B受審人が1人で乗り組み,船首部のマストにC組合から同組合加入船に対し支給されていた小豆色の旗を掲げ,一本釣り漁の目的で,船首0.4メートル船尾1.1メートルの喫水をもって,同月9日04時00分萩港を発し,同県相島北方沖合の釣り場に向かった。
 ところで,B受審人は,欽崇丸に汽笛を装備しておらず,有効な音響信号を行うことができる手段を講じていなかった。
 05時00分B受審人は,前示衝突地点付近に至り,機関を停止して漂泊状態とし,竿釣りを始めたところ,あまだいが釣れたことから同地点を当日の釣りのポイントに決め,GPSプロッタにその位置を入力した。そして,折からの海潮流の影響によって北東方に0.5ノットの速力で流される状況であったことから,漂泊開始後30分ばかり流されたのち,機関を使用して潮のぼりを行ってはポイントに戻り,再び漂泊状態とする釣りを繰り返していた。
 07時10分B受審人は,4回目の潮のぼりを行って機関を停止し,船首を東北東方に向け,左舵30度をとった状態で漂泊を始めたとき,右舷正横方向1.8海里に潤生丸を初認したが,一瞥しただけで気に留めることなく,船尾端近くの渡し板に右舷方を向いて腰を掛け,竿釣りを再開した。
 07時12分わずか過ぎB受審人は,船首が060度に向いているとき,潤生丸が右舷正横後1度1.0海里に近づき,その後,自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めたが,航行中の他船が漂泊中の自船を避けて行くものと思い,同船に対し避航を促す音響信号を行わず,更に間近に接近したとき,速やかに機関を始動して移動するなど,衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続けた。
 07時14分少し過ぎB受審人は,潤生丸が自船に向首したまま500メートルとなり,衝突の危険を感じ,渡し板から立ち上がって操舵室に向かい,同室入口近くまで来たとき,同船の船首が左に振れたように見えたので,一旦立ち止まってその動向を見ていたところ,同船の船首が右に振れて再び自船に向首する態勢に見えたので,同室に入り,機関を始動してクラッチを前進に入れ,スロットルレバーを操作したが,左舵をとっていたことから,左転して船首が051度を向いたとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,潤生丸は,欽崇丸を乗り切って同船を転覆させ,潤生丸は,船首部及び船底外板に亀裂を含む擦過傷並びに推進器翼等を曲損し,のち修理され,欽崇丸は,右舷中央部外板に亀裂及び操舵室の圧壊並びに主機及び電気系統に濡れ損を生じ,のち修理費の関係で廃船とされ,B受審人が,右橈骨骨幹部骨折並びに背部及び顔面挫創を負った。

(本件発生に至る事由)
1 潤生丸
(1)船首方に死角が生じる状況にあったこと
(2)A受審人が,食事をとりながら考えごとをしていて,死角を補う見張りを十分に行わず,欽崇丸を避けなかったこと

2 欽崇丸
(1)B受審人が,有効な音響による信号を行うことができる手段を講じていなかったこと
(2)B受審人が,航行中の他船が漂泊中の自船を避けて行くものと思い,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,山口県相島北方沖合において,航行中の潤生丸と漂泊中の欽崇丸とが衝突したものであり,潤生丸が,見張りを十分に行っていれば,前路で漂泊中の欽崇丸を視認することができ,余裕を持って同船を避けられたものと認められる。
 したがって,A受審人が,食事をとりながら考えごとをしていて,死角を補う見張りを十分に行わず,欽崇丸を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 潤生丸の船首方に死角が生じる状況にあったことは,いすに腰を掛けた姿勢においてあり得ることであり,同姿勢では見張りが不十分となるものの,操舵室内を左右に移動するなり,操舵室天井の開口部から顔を出すなどの手段をとることにより,死角を解消することができたのであるから,原因とするまでもない。
 一方,欽崇丸は,自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近する潤生丸を認めたのであるから,同船に対し避航を促す音響信号を行い,更に間近に接近したとき,機関を始動して移動するなど,衝突を避けるための措置をとっていれば,本件は発生しなかったものと認められる。
 したがって,B受審人が,有効な音響信号を行うことができる手段を講じていなかったこと及び航行中の他船が漂泊中の自船を避けて行くものと思い,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)

 本件衝突は,山口県相島北方沖合において,北上中の潤生丸が,見張り不十分で,漂泊中の欽崇丸を避けなかったことによって発生したが,欽崇丸が,有効な音響信号を行うことができる手段を講じず,かつ,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,山口県相島北方沖合において,同県見島漁港に帰港する目的で北上する場合,船首方に死角を生じていたから,前路で漂泊中の欽崇丸を見落とさないよう,操舵室内を左右に移動するなり,いすの上に立って天井開口部から顔を出すなどして,死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,いすに腰を掛け食事をとりながら考えごとをしていて,死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,漂泊中の欽崇丸に気付かず,同船を避けずに進行して衝突を招き,潤生丸の船首部及び船底外板に亀裂を含む擦過傷並びに推進器翼等に曲損を,欽崇丸の右舷中央部外板に亀裂及び操舵室の圧壊並びに主機及び電気系統に濡れ損をそれぞれ生じさせ,B受審人に右橈骨骨幹部骨折並びに背部及び顔面挫創を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,山口県相島北方沖合において,一本釣り漁を行いながら漂泊中,自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近する潤生丸を認めた場合,機関を始動して移動するなど,衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,航行中の他船が漂泊中の自船を避けて行くものと思い,衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により,同船との衝突を招き,前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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