(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年11月20日08時13分
宮崎県外浦港
(北緯31度30.6分東経131度23.0分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
モーターボートヤスミ |
手漕ぎボート(船名なし) |
全長 |
4.95メートル |
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登録長 |
9.71メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
110キロワット |
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(2)設備及び性能等
ア ヤスミ
ヤスミは,平成4年5月に進水した,FRP製プレジャーボートで,船体中央部に操舵室及びキャビンを,船首部に槍出しを有する構造で,同室右舷側に操縦スタンドが設けられ,同スタンド中央に舵輪が,その上部にDGPS及びマグネットコンパスが,舵輪の右側に主機監視用の各メーターが,舵輪後方には背もたれ付きの回転式操縦席が,同操縦席の右側に主機遠隔操作レバーがそれぞれ備えられていた。そして,同室前面は2枚のガラス窓となっていた。
イ 手漕ぎボート(船名なし)
手漕ぎボート(船名なし)(以下「B号」という。)は,平底型のFRP製伝馬船で,前部甲板に2箇所,後部甲板に1箇所の生間が設置され,船体中央部のやや後方にある前部甲板と後部甲板との仕切り板の後方に船横方向に渡した木製の板が置かれていた。そして,長さ約5.5メートルの櫓のブレード部を左舷船尾端から約3メートル突出し,これを漕ぐことで推進力を得ていた。
3 事実の経過
ヤスミは,A受審人が単独で乗り組み,友人1人を乗せ,あじ釣りの目的で,船首尾とも0.4メートルの喫水をもって,平成16年11月20日08時05分外浦港内の船溜まりを発し,同港沖合の釣場に向かった。
発進後,A受審人は,舵と機関とを適宜使用して南東方に向かい,08時11分半少し過ぎ外浦港防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から053度(真方位,以下同じ。)100メートルの地点で,針路を140度に定め,13.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,操縦席に腰を掛け,手動操舵により進行した。
08時12分A受審人は,防波堤灯台から111度200メートルの地点に達したとき,正船首400メートルのところに,ほとんど移動しない状態で船首を南方に向けたB号が存在したが,左舷前方の太陽とその海面反射で船首方が眩しい状況下,右舷前方を先航する第三船を追い越すことに気を取られ,B号の存在に気付かなかった。
A受審人は,08時12分半第三船の左舷側を追い越したとき,魚釣りをしながら停留中と分かるB号に200メートルまで近づき,その後,同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが,入出港船の通航路筋を航行しているので,まさか前路で停留している他船はいないものと思い,左舷前方の防波堤南端との離岸距離や船首目標の黒島を見ることに気を取られ,前方の見張りを十分に行わなかったので,B号の存在も同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かないまま,同船を避けずに同じ針路及び速力で続航中,ヤスミは,08時13分防波堤灯台から131度575メートルの地点において,その船首がB号の櫓に後方から40度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風はなく,潮候は上げ潮の初期で,太陽の高度は15度,同方位は125度であった。
また,B号は,乗組員Cが1人で乗り組み,魚釣りの目的で,同日07時35分外浦港内の船溜まりを発し,同港港口付近の釣場に向かった。
C乗組員は,07時55分ごろ前示衝突地点付近に着いて魚釣りを始め,08時12分入出港船の通航路筋にあたる防波堤灯台から131度575メートルの地点で,船首を180度に向け,横方向に渡した板をまたいで左舷側を向いて腰を掛け,右手で釣竿を持ち,左手で櫓を操作しながら停留して釣りを行っていたとき,右舷船尾40度400メートルのところに来航するヤスミが存在し,その後,同船が,衝突のおそれがある態勢で,避航の気配を見せないまま接近したが,衝突を避けるための措置をとらないまま,同じ態勢で停留を続け,08時13分少し前右舷後方至近に迫ったヤスミに気付き,両手で櫓を漕ぎ衝突を避けようとしたが,衝突を避けるための措置をとるのが遅れ,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,ヤスミは,その右舷船首部がB号の左舷側を擦りながら航過し,船首部及び右舷外板に擦過傷を,B号は,櫓の折損及び船尾左舷側櫓杭付近損壊などをそれぞれ生じた。また,C乗組員が,骨盤及び右大腿骨骨折による出血性ショックで死亡した。
(航法の適用)
本件は,外浦港において,出航中の動力船と魚釣りをしながら停留中の手漕ぎボートとが衝突したもので,同港は港則法適用港であることから,同法の定めが優先するが,両船は同法に規定される雑種船であり,同法には雑種船間の航法規定はない。従って,一般法である海上衝突予防法によって律することになり,同法上,停留中の船舶と航行中の動力船との関係を定める航法規定がないから,同法第38条及び第39条の規定によるのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 ヤスミ
(1)前方が眩しかったこと
(2)先航する第三船が存在したこと
(3)A受審人が前方の見張りを十分に行わなかったこと
(4)A受審人がB号を避けなかったこと
2 B号
(1)入出港船の通航路筋で停留して魚釣りを行っていたこと
(2)衝突を避けるための措置をとるのが遅れたこと
(原因の考察)
1 ヤスミ
ヤスミが,前方の見張りを十分に行っていれば,B号を視認して魚釣りをしながら停留中の手漕ぎボートと認め,同船を避けることができたのであるから,A受審人が前方の見張りを十分に行わなかったこと,B号を避けなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
前方が眩しかったこと及び先航する第三船が存在したことは,通常あり得る状況としてやむを得ないことであり,見張りに支障をもたらすような状況であったとは認められず,前方の見張りを十分に行っていれば,B号を視認することができたと認められるので,本件発生の原因とならない。
2 B号
B号が,余裕を持って櫓を漕いで移動していたなら,本件は発生していなかったものと認められる。従って,同船が,衝突を避けるための措置をとるのが遅れたことは本件発生の原因となる。
入出港船の通航路筋で停留して魚釣りを行っていたことは,B号の周囲には十分な余裕水域があり,ヤスミの通航を妨げる状況になかったと認められるので,本件発生の原因とならない。
(海難の原因)
本件衝突は,外浦港において,ヤスミが,同港沖合の釣場に向けて出航する際,見張り不十分で,前路で魚釣りをしながら停留中のB号を避けなかったことによって発生したが,B号が,衝突を避けるための措置をとるのが遅れたことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,外浦港において,同港沖合の釣場に向けて出航する場合,前路の他船を見落とすことのないよう,前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,入出港船の通航路筋を航行していたことから,まさか前路で停留している他船はいないものと思い,左舷前方の防波堤南端との離岸距離や船首目標の黒島を見ることに気を取られ,前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で停留中のB号に気付かず,同船を避けずに進行して衝突を招き,ヤスミの船首部及び右舷外板に擦過傷を,B号の櫓を折損し,船尾左舷側櫓杭付近損壊などを生じさせ,C乗組員を骨盤及び右大腿骨骨折による出血性ショックで死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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