(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年11月17日12時25分
関門港若松航路
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第一日泉丸 |
総トン数 |
698トン |
全長 |
81.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
3 事実の経過
第一日泉丸(以下「日泉丸」という。)は,沿海区域を航行区域とし,船首端から船橋前面までが約65メートルの船尾船橋型鋼製貨物船で,A受審人ほか4人が乗り組み,空倉で,船首0.72メートル船尾2.56メートルの喫水をもって,平成16年11月17日09時45分関門港小倉区を発し,同港若松区ひびきコールセンター第1岸壁に向かった。
A受審人は,若松航路入口付近に達したころ,若松港口信号所の電光板管制信号が出航信号となっていることを認め,同信号が入航信号となるまで待機することとし,10時10分若松洞海湾口防波堤灯台(以下「洞海湾口防波堤灯台」という。)から117度(真方位,以下同じ。)390メートルの地点で錨泊を開始し,11時58分ごろ若松港内交通管制室から船舶電話により,当該時間帯の最終となる出航船舶の船名と出航予定時刻の情報提供を受けた。
12時15分A受審人は,情報を得ていた船舶が出航したことを確認したとき,電光板管制信号が出航信号を表示していたものの,最終船が出航すれば同信号が出航表示となっても入航できるものと勘違いし,単独の船橋当直に就き,乗組員を船首尾の入航配置に就かせて抜錨を開始し,同時17分錨泊地点を発進し,機関の回転を徐々に上げ,やがて機関を8.0ノットの微速力前進にかけ,若松航路第2号灯浮標(以下,航路標識については「若松航路」の冠称を省略する。)を右舷前方に望みながら,手動操舵によって進行した。
12時18分半A受審人は,洞海湾口防波堤灯台から126度700メートルの地点に達し,南東の針路で速力が8.0ノット(対地速力,以下同じ。)に整定し,第2号灯浮標を右舷前方220メートルばかりに認めるようになったとき,わずかに右舵をとって同灯浮標を付け回し,同時20分少し過ぎ同灯台から143度920メートルの地点で,針路を若松航路に沿う259度に定めて続航した。
その後A受審人は,第4号灯標を右舷前方に認めて進行していたところ,若松港内交通管制室から,信号がまだ変わっていないので入航しないよう指示を受け,12時23分少し前洞海湾口防波堤灯台から181.5度860メートルの地点に達し,右転して航路外に離脱しようとしたとき,同灯標を右舷船首27度約215メートルに目測でき,船首から同灯標までが約150メートルとなっていたが,慌てていたこともあって同灯標の手前で右回頭できるものと思い,その方位及び距離を目測して同灯標との相対的な船位の確認を十分に行わなかったので,操船水域が不足していることに気付かず,右舵35度をとった。
12時23分少し過ぎA受審人は,洞海湾口防波堤灯台から189度860メートルの地点に達し,船首が西北西を向き,第4号灯標を船首方100メートルに認めるようになって,船首から同灯標までが約35メートルとなったとき,これを替わし切れないことに気付き,右舵35度のまま,機関のクラッチを中立,続いて後進に操作し,行きあしを止めにかかったが,船首は右転して同灯標を替わったものの,船尾が左方に振られながら船体が横滑りし,12時25分洞海湾口防波堤灯台から196度830メートルの地点において,日泉丸は,わずかに前進行きあしを残し,船首が347度を向いたとき,その左舷中央前部が第4号灯標に衝突した。当時,天候は晴で風力2の北風が吹き,潮候は上げ潮の末期で,視界は良好であった。
衝突の結果,日泉丸は左舷中央前部から同後部にかけてのハンドレールに擦過傷を生じ,第4号灯標はプラットホーム部のレーダーレフレクタを破損した。
(原因)
本件灯標衝突は,若松航路を入航中,第4号灯標を右舷前方近距離に認める状況のもと,右転して航路から離脱しようとする際,同灯標との相対的な船位の確認が不十分で,操船水域不足のまま右回頭を開始し,同灯標に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,若松航路を入航中,第4号灯標を右舷前方近距離に認める状況のもと,若松港内交通管制室から出航信号表示中であって入航できない旨の指示を受け,右転して航路から離脱しようとする場合,同灯標に著しく接近することのないよう,その方位及び距離を目測して同灯標との相対的な船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,慌てていたこともあって同灯標の手前で右回頭できるものと思い,同灯標との相対的な船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,操船水域が不足していることに気付かず,同回頭を開始して同灯標への衝突を招き,日泉丸の左舷中央前部から同後部にかけてのハンドレールに擦過傷を,第4号灯標のプラットホーム部のレーダーレフレクタに破損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。