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平成17年神審第22号
件名

漁船松栄丸モーターボートキャビン丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年6月29日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(橋本學,中井勤,横須賀勇一)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:松栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:キャビン丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
松栄丸・・・右舷船首部に擦過傷
キャビン丸・・・操舵室前面及び右舷側のガラス窓を破損,並びに右舷側ハンドレール曲損

原因
松栄丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
キャビン丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,松栄丸が,見張り不十分で,正船首方で漂泊中のキャビン丸を避けなかったことによって発生したが,キャビン丸が,見張り不十分で,警告信号を吹鳴せず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月11日23時30分
 石川県金沢港西方沖合
 (北緯36度39.1分東経136度34.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船松栄丸 モーターボートキャビン丸
総トン数 4.99トン 3.7トン
登録長 11.30メートル 8.92メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 264キロワット 128キロワット
(2)設備及び性能等
ア 松栄丸
 松栄丸は,昭和55年9月に進水したFRP製漁船で,主として石川県金沢港沖合において小型底びき網漁業に従事していた。
イ キャビン丸
 キャビン丸は,平成5年2月に進水した,音響信号装置及び1キロワットの集魚灯4灯を装備したFRP製モーターボートで,主として金沢港沖合において魚釣りに使用されていた。

3 事実の経過
 松栄丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,小型底びき網漁業に従事する目的で,船首0.2メートル船尾0.7メートルの喫水をもって,平成16年9月11日23時00分石川県金沢港水産ふ頭対岸の漁船専用桟橋を発し,同港西方沖合15海里付近の漁場へ向かった。
 離桟後,A受審人は,1人で操舵操船に当たり,同港西防波堤に沿って北上したのち,23時18分少し過ぎ金沢港西防波堤灯台から004度(真方位,以下同じ。)150メートルの地点に達したとき,針路を285度に定め,機関を全速力前進にかけ,8.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,法定灯火を表示して,自動操舵によって進行した。
 そして,23時23分A受審人は,金沢港西防波堤灯台から292.5度0.7海里の地点に至ったとき,正船首方1.0海里のところに,キャビン丸が点灯していた集魚灯4灯を視認することができ,その後,同船に向首したまま,衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,GPSプロッターを操作して漁場を選定することなどに気を取られ,見張りを十分に行わなかったので,同船の存在に気付くことなく続航した。
 こうして,23時29分半A受審人は,キャビン丸まで130メートルのところまで接近したが,依然として,見張りを十分に行わず,同船を避けることなく進行中,23時30分金沢港西防波堤灯台から288度1.7海里の地点において,松栄丸は,原針路,原速力のまま,その右舷船首が,キャビン丸の右舷中央部に前方から30度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の東北東風が吹き,視界は良好であった。
 また,キャビン丸は,B受審人が1人で乗り組み,知人3人を乗せ,魚釣りの目的で,船首0.2メートル船尾0.6メートルの喫水をもって,同日18時00分金沢港を発し,同港西方沖合1.7海里付近の釣り場へ向かった。
 18時30分B受審人は,釣り場に到着したのち,前示衝突地点で機関を中立運転とし,船首からパラシュート型シーアンカーを流して漂泊を行い,法定灯火を表示しないまま,1キロワットの集魚灯4灯を点灯して,サビキ仕掛けによる竿釣りを始めた。
 そして,23時23分B受審人は,船首を075度に向け,後部甲板右舷側で正横方向を向いて釣りをしていたとき,右舷船首30度1.0海里のところに,松栄丸の白,緑,紅の3灯を視認することができ,その後,同船が自船に向首したまま,衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,折悪しく,魚が入れ掛かり状態となり,竿を操ることや掛かった魚を取り込むことなどに気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかったので,接近する松栄丸の存在に気付かず,警告信号を吹鳴することなく漂泊を続けた。
 こうして,23時29分半B受審人は,松栄丸が,自船から130メートルのところまで接近したが,依然として,周囲の見張りを十分に行わず,警告信号を吹鳴することも,更に同船が間近に接近しても,衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊中,23時30分わずか前至近に迫った松栄丸を認めて,衝突の危険を感じ,急きょ,モーターホーンを使用して短音を数回鳴らしたが,効なく,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,松栄丸は右舷船首部に擦過傷を生じ,キャビン丸は操舵室前面及び右舷側のガラス窓を破損,並びに右舷側ハンドレールを曲損したものの,のちいずれも修理された。

(本件発生に至る事由)
1 松栄丸
(1)A受審人が,GPSプロッターを操作して漁場を選定することなどに気を取られ,見張りを十分に行わず,キャビン丸の存在に気付かなかったこと
(2)A受審人が,キャビン丸を避けることなく進行したこと

2 キャビン丸
(1)B受審人が,法定灯火を表示していなかったこと
(2)B受審人が,竿を操ることや掛かった魚を取り込むことなどに気を取られ,見張りを十分に行わず,松栄丸が接近することに気付かなかったこと
(3)B受審人が,松栄丸に対して警告信号を吹鳴しなかったこと
(4)B受審人が,松栄丸が間近に接近しても,衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 松栄丸は,夜間,金沢港西方沖合において漁場へ向けて航行中,1人で船橋当直に当たっていた船長が,見張りを十分に行っていれば,正船首方で漂泊していたキャビン丸の集魚灯などを視認できることから,その存在に気付くことは容易であり,同船を避けることは十分に可能であったものと認められる。
 したがって,A受審人が,見張りを十分に行わず,キャビン丸の存在に気付かないまま,同船を避けることなく進行したことは,本件発生の原因となる。
 一方,キャビン丸は,夜間,金沢港西方沖合において漂泊中,甲板で釣りをしていた船長が,周囲の見張りを十分に行っていれば,自船に向首して接近する松栄丸が表示していた灯火を視認することは容易であったものと認められる。
 したがって,B受審人が,見張りを十分に行わず,松栄丸が接近することに気付かないまま,同船に対して警告信号を吹鳴せず,更に間近に接近しても,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 B受審人が,法定灯火を表示していなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,全くの無灯火ではなく,1キロワットの集魚灯4灯を点灯していたことから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは法令遵守及び海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,石川県金沢港西方沖合において,航行中の松栄丸が,見張り不十分で,正船首方で漂泊中のキャビン丸を避けることなく進行したことによって発生したが,キャビン丸が,見張り不十分で,自船に向首して接近する松栄丸に対し,警告信号を吹鳴せず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,石川県金沢港西方沖合において,漁場へ向けて航行する場合,他船の灯火などを見落とさないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,GPSプロッターを操作して漁場を選定することなどに気を取られ,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,正船首方で漂泊していたキャビン丸の存在に気付かないまま,同船を避けることなく進行して衝突を招き,自船の右舷船首部に擦過傷を生じさせるとともに,キャビン丸の操舵室前面及び右舷側のガラス窓を破損,並びに右舷側ハンドレールを曲損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,金沢港西方沖合において,魚釣りを行うために漂泊する場合,自船に向首して接近する他船の灯火を見落とすことがないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,魚が入れ掛かり状態となったことから,竿を操ることや掛かった魚を取り込むことなどに気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,松栄丸が接近することに気付かないまま,警告信号を吹鳴することも,更に同船が間近に接近しても,衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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