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平成17年神審第21号
件名

遊覧船濱長丸漁船和丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年6月28日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(横須賀勇一,佐和明,中井勤)

理事官
阿部直之

受審人
A 職名:濱長丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:和丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
濱長丸・・・操舵室右舷外板に破口を伴う凹損
和丸・・・右舷船首部に損傷,船長が全治4週間の左肩胛骨骨折等

原因
和丸・・・見張り不十分,船員の常務(衝突の危険を生じさせたこと)不遵守

主文

 本件衝突は,和丸が,見張り不十分で,漂泊中の濱長丸に向けて転針し,衝突の危険を生じさせたことによって発生したものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月28日13時20分
 高知県浦ノ内湾
 (北緯33度25.4分東経133度24.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 遊覧船濱長丸 漁船和丸
総トン数 16トン 0.7トン
全長 13.30メートル 6.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 47キロワット 22キロワット
(2)設備及び性能等
ア 濱長丸
 濱長丸は,平成6年10月に建造された旅客定員12名の平水区域(ただし,湖川港内に限る。)を航行区域とするFRP製屋形船で,高知港内で遊覧船として使用され,同13年ごろC社が購入して同港で係船されていたが,同15年12月27日高知県土佐市及び須崎市にまたがる横浪半島の北側にある東西約12キロメートルの東に開いた浦ノ内湾口にある土佐市宇佐漁港に係留場所を移した。
 船体は,屋形船首部に操舵室があり,同室後部から船尾部にかけて客室で,船尾部の客室後端に隣接した甲板下に機関室があり,機関室後部には容量20リットルの燃料油サービスタンク(以下「サービスタンク」という。)が配置され,モーターホーン1基が備えられていた。
 サービスタンクの位置からは,客室の屋形が死角となって前方の見通しは悪かった。
イ 和丸
 和丸は,昭和59年12月に進水した船体中央部に操縦スタンドを有する船外機付きのFRP製漁船で,航海速力が機関回転数毎分3,500の全速力前進で16.0ノットであった。

3 事実の経過
 濱長丸は,A受審人が1人で乗り組み,家族など同乗者11人を乗せ,慣熟運転を兼ねた遊覧の目的で,船首尾とも0.5メートルの喫水をもって,平成15年12月28日10時50分宇佐漁港を発し,浦ノ内湾の奥に向け巡航に就いた。
 A受審人は,途中,須崎市深浦の沖で錨泊して食事をした後,揚錨して更に湾奥に進み,13時15分同市浦ノ内の42.0メートル頂所在の立目三角点(以下「基点」という。)から107度(真方位,以下同じ。)830メートルの地点に達したとき,付近を通航する他船を認めなかったので,気になっていたサービスタンクの残油量を調べるため,機関を中立運転とし,船首を247度に向けて漂泊を開始した。
 A受審人は,操舵室を離れるに当たり,息子に対して同室左舷甲板に立って周囲の見張りを行い,自船に向かってくる船舶を認めたときには,直ちに報告するよう指示を与えて見張りに立てた。
 こうして,A受審人は,サービスタンクの前で残油量を測定中,13時19分半少し過ぎ,右舷船首7度180メートルのところに自船の船首80メートルを無難に航過する態勢の和丸が,突然左転して自船に向首したため衝突の危険を生じたところ,これを認めた息子からの知らせを受け,急いで操舵室に戻り,13時20分わずか前右舷船首方至近に迫った和丸を認め,慌てて息子に汽笛を鳴らすように指示するとともに機関を前進にかけ左舵一杯としたが及ばず,濱長丸は,13時20分前示漂泊地点において,船首が247度を向いたまま,右舷船首部に和丸の右舷船首部が前方から7度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の西風が吹き,潮候は下げ潮の末期にあたり,視界は良好であった。
 また,和丸は,B受審人が1人で乗り組み,いわし積み込みの目的で,船首0.10メートル船尾0.15メートルの喫水をもって,同日12時15分須崎市浦ノ内灰方埋立の係船地を発し,4.5キロメートル西方の浦ノ内立目摺木地先に設置してある生け簀に至り,かつお漁船(以下「第三船」という。)へのいわしの積み込み作業を行った。
 B受審人は,当日中に別の生け簀でフグの出荷作業をする予定であったことから,作業を終えてほどなく第三船を出航させ,13時10分前示係船地に向けて帰途に就き,13時18分半少し過ぎ基点から155度350メートルの地点に達したとき,針路を088度に定めて,機関回転数毎分3,500の全速力前進として16.0ノットの対地速力で,手動操舵によって進行した。
 13時19分基点から135度430メートルの地点に達したとき,B受審人は,左舷船首6度500メートルのところに,漂泊中の濱長丸を視認することができ,このまま進行すれば同船の船首を80メートル離して無難に航過する態勢であったが,左舷船首約40度方に先行する第三船を追い抜くことに気をとられ,前方を一瞥しただけで支障となる他船はいないものと思い,前方の見張りを十分に行わなかったので,これに気付かないまま続航した。
 13時19分半少し過ぎB受審人は,基点から114度700メートルの地点に達したとき,第三船の右舷側50メートルに並び,同船の針路に沿って右舷側を追い抜くため,針路を074度に転じたところ,濱長丸に向首する態勢で180メートルに接近して衝突の危険を生じさせたが,なおも同船に気付かず進行中,13時20分わずか前右舷至近に同船の船首部を初めて認め,慌てて右舵一杯,後進としたが,効なく,13時20分和丸は,同じ針路,速力で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,B受審人が全治4週間の左肩胛骨骨折等を負い,濱長丸の操舵室右舷外板に破口を伴う凹損を,和丸の右舷船首部に損傷をそれぞれ生じ,その後,濱長丸は修理された。

(航法の適用)
 本件は,高知県浦ノ内湾において,係船地に向けて航行中の和丸と漂泊中の濱長丸とが衝突したもので,航行中の動力船と漂泊船との衝突であり,海上衝突予防法にはこれら両船に適用する個別の航法規定が存在しないことから,同法第38条及び第39条の規定によるのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 濱長丸
(1)浦ノ内湾で漂泊したこと
(2)サービスタンクの残油量の確認作業のため操舵室を離れたこと
(3)息子を見張りに立てたこと

2 和丸
(1)第三船に気をとられ,前方の見張りを十分に行わなかったこと
(2)濱長丸に向けて転針し,衝突の危険を生じさせたこと

(原因の考察)
 和丸が,前方の見張りを十分に行っていれば,余裕のある時期に無難にかわる態勢の濱長丸を視認でき,同船に向けて転針して衝突の危険を生じさせることはなく,同船と衝突することはなかったと認められる。
 したがって,B受審人が,第三船に気をとられ,前方の見張りを十分に行わず,濱長丸に向けて転針し,衝突の危険を生じさせたことは,本件発生の原因となる。
 一方,A受審人が,浦ノ内湾で漂泊したこと,サービスタンクの残油量の確認作業のため操舵室を離れたこと,息子を見張りに立てたことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件発生の原因とならない。
 濱長丸は,漂泊しており,海上衝突予防法上,両船は,避航と保持との関係にないが,航走船である和丸が一義的に漂泊船を避けるべき立場にあったものと認める。

(海難の原因)

 本件衝突は,高知県浦ノ内湾において,和丸が,係船地に向けて航行中,見張り不十分で,漂泊中の濱長丸に向けて転針し,衝突の危険を生じさせたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,高知県浦ノ内湾において,生け簀で作業を終え係船地に向けて航行する場合,漂泊中の濱長丸を見落とすことがないよう,前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,左舷方の第三船を追い抜くことに気をとられ,一瞥しただけで支障となる他船はいないものと思い,前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,漂泊中の濱長丸に気付かず,転針して衝突の危険を生じさせたまま進行して衝突を招き,濱長丸の操舵室右舷外板に破口を伴う凹損を,和丸の右舷船首部に損傷をそれぞれ生じさせ,自らも全治4週間の左肩胛骨骨折等を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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