(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月26日19時00分
石川県蛸島漁港
(北緯37度26.4分東経137度18.5分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二蛸島丸 |
総トン数 |
297トン |
全長 |
52.27メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,176キロワット |
3 事実の経過
第二蛸島丸(以下「蛸島丸」という。)は,大中型まき網船団付属の船尾船橋型運搬船で,A受審人ほか7人が乗り組み,石川県北東沖で操業に従事したのち,大漁でまぐろ30トンに氷水約130トンを積載した満載状態として,船首2.1メートル船尾3.8メートルの喫水をもって,平成15年7月26日16時00分禄剛埼灯台から068度(真方位,以下同じ。)25海里の地点を発し,同県蛸島漁港への帰途に就いた。
ところで,蛸島丸の蛸島漁港での着岸方法は,港口の北方300メートルのところから南北方向に70メートル延びる5号岸壁に入船右舷付けの状態で,前方の岸壁奥角から西に延びた6号岸壁と船首との距離を4メートル残して安全に停止するため,同岸壁手前で余裕を持って,機関を後進にかけて前進惰力を減殺する措置を適切に行う必要があった。
また,A受審人は,B社において20年間,同社のまき網船団の網船,探査船及び運搬船の船長を経験し,蛸島丸の操船にも慣れていた。
こうして,A受審人は,18時40分蛸島漁港南東方2海里において,単独で操船に当たり,機関長を機関室に就けて機関準備を発令し,入港針路とするため南東に延びた同漁港西防波堤の南東端に設置された蛸島港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)の西方に向けて10.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で北西進した。
18時46分A受審人は,西防波堤灯台まで1海里となったとき,減速するとともに,船首配置に一等航海士ほか2人,船尾配置に3人を就け,18時55分西防波堤灯台から249度180メートルの地点において,針路を082度に定め,機関を適宜,微速力前進及び中立として平均速力3.0ノットで手動操舵により進行した。
18時57分わずか前A受審人は,西防波堤灯台を左に見て左転を開始し,18時57分半過ぎ西防波堤灯台から090度65メートルの地点において,針路を5号岸壁と平行になるように020度とし,機関を中立として3.0ノットの惰力で続航した。
18時59分半A受審人は,船首が5号岸壁南端を通過して6号岸壁まで50メートルとなったとき,いつもより行き足が過大であることを認め,このまま進行すると岸壁に衝突するおそれのある状況となったが,長年の操船による慣れから,短時間の機関後進操作をすれば船体を岸壁手前で停止できると思い,機関を後進に十分かけて前進惰力を減殺する措置を適切にとることなく,行き足が過大のまま続航中,19時00分わずか前6号岸壁至近となったことに慌てて,機関を全速力後進としたが,及ばず,蛸島丸は,19時00分西防波堤灯台から033度270メートルの地点において,同じ針路,1.0ノットの残速力で球状船首部が6号岸壁に衝突した。
当時,天候は曇で風力1の北東風が吹き,潮候は低潮時であった。
衝突の結果,6号岸壁の一部に欠損を生じ,蛸島丸は球状船首部に凹損を生じ,のち修理された。
(原因)
本件岸壁衝突は,石川県蛸島漁港において,5号岸壁に接岸する際,前進惰力を減殺する措置が不適切で,行き足が過大のまま同岸壁奥角の6号岸壁に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,石川県蛸島漁港において,5号岸壁に接岸中,行き足が過大であることを知った場合,このまま進行すると岸壁奥角の6号岸壁に衝突するおそれがあったから,同岸壁の手前で船体を停止できるよう,機関を後進に十分かけて前進惰力を減殺する措置を適切にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,長年の操船による慣れから,短時間の機関後進操作で大丈夫と思い,前進惰力を減殺する措置を適切にとらなかった職務上の過失により,行き足が過大のまま進行して,6号岸壁との衝突を招き,球状船首部に凹損を生じさせ,同岸壁のコンクリートを一部欠損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。