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平成17年横審第34号
件名

漁船桝宏丸漁船大洋丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年6月16日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(小寺俊秋)

理事官
小須田敏

受審人
A 職名:桝宏丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:大洋丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
桝宏丸・・・ない
大洋丸・・・右舷後部外板が破損,後部甲板上の操舵スタンド及びローラーに損傷

原因
桝宏丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
大洋丸・・・見張り不十分で,警告信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,桝宏丸が,見張り不十分で,漂泊中の大洋丸を避けなかったことによって発生したが,大洋丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月24日05時35分
 愛知県佐久島北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船桝宏丸 漁船大洋丸
総トン数 8.4トン 4.9トン
全長 17.15メートル  
登録長   11.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 127キロワット 421キロワット

3 事実の経過
 桝宏丸は,船体中央より少し船尾方の右舷側に操舵室を備え,底引き網漁業に従事する軽合金製漁船で,A受審人(昭和49年10月一級小型船舶操縦士免許取得,平成15年10月一級小型船舶操縦士免許と特殊小型船舶操縦士免許に更新)ほか1人が乗り組み,操業の目的で,船首0.25メートル船尾1.20メートルの喫水をもって,平成16年10月24日04時50分愛知県形原漁港を発し,同県佐久島北西方沖合の漁場に向かった。
 ところで,A受審人は,操舵室前面の右舷側に備え付けたGPSプロッターに,発航時には前示漁港から漁場までの全航程を表示させ,漁場に近づいたらその付近を拡大して表示させることとしていた。
 発航後,A受審人は,正規の灯火を表示して単独で航海当直に当たり,05時28分少し過ぎ波ヶ埼灯台から007度(真方位,以下同じ。)1.55海里の地点で,針路を268度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ15.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で進行した。
 A受審人は,定針後,GPSプロッターの表示拡大操作を始め,05時31分波ヶ埼灯台から341度1.6海里の地点に達したとき,船首方1.0海里に大洋丸が存在し,同船がマストに表示する白色全周灯と,操舵室前方の2個の作業灯を認めることができ,同船が停止して何か作業を行っていることが分かる状況であったが,GPSプロッターの同操作を誤ってその修正に気をとられ,前路の見張りを十分に行わなかったので,同船に向首進行していることに気付かず,転舵するなど同船を避けずに続航中,05時35分波ヶ埼灯台から314度2.1海里の地点において,桝宏丸は,同じ針路,速力のまま,その船首が大洋丸の右舷後部に後方から72度の角度で衝突し,同船に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力1の北風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,視界は良好であり,日出は06時05分であった。
 また,大洋丸は,船体ほぼ中央部に操舵室を備え,モーターホーンを装備した刺網漁業に従事するFRP製漁船で,B受審人(昭和50年8月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み,操業の目的で,船首0.25メートル船尾1.50メートルの喫水をもって,同日02時30分同県佐久島漁港西港を発し,同港北方約2海里の漁場に向かい,02時40分同漁場に至り,操業を開始した。
 ところで,B受審人は,長さ約250メートル高さ約7メートルの刺し網を約3分間かけて投網し,しばらく待った後,約15分間かけて揚網する1回約40分間の操業を,漁場を移動しながら繰り返し行っていた。
 B受審人は,04時55分ごろ佐久島の北西方沖合に移動して当日5回目の投網を行い,05時20分前示衝突地点において,船首を340度に向け,機関を中立運転として漂泊し,漁ろうに従事していることを示す紅色全周灯を表示しないまま,操舵室上のマストに白色全周灯を,同室屋根と船首の支柱間の梁に作業灯2個をそれぞれ点灯し,乗組員とともに,船首で左舷前方を向いて揚網作業を開始した。
 B受審人は,05時31分右舷船尾72度1.0海里に,桝宏丸が表示する白,緑,紅3灯を視認でき,その後,同船が自船に向首進行してくることを認め得る状況であったが,航行中の他船が漂泊中の自船を避けてくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,警告信号を行うことも,更に接近したとき,揚網作業をほぼ終えて移動が可能な状況となっていたが,クラッチを入れ機関を使用して移動するなど,衝突を避けるための措置もとらずに漂泊中,05時35分少し前乗組員の叫び声で至近に迫った桝宏丸に気付いたものの何もできず,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,桝宏丸は,ほとんど損傷がなかったが,大洋丸は,右舷後部外板を破損し,後部甲板上の操舵スタンド及びローラーに損傷を生じたが,のち修理された。

(原因)
 本件衝突は,夜間,愛知県佐久島北西方沖合において,漁場に向けて西行中の桝宏丸が,見張り不十分で,漂泊中の大洋丸を避けなかったことによって発生したが,大洋丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,愛知県佐久島北西方沖合において,漁場に向けて西行する場合,漂泊中の他船を見落とすことのないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,GPSプロッターの表示拡大操作を誤ってその修正に気をとられ,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で漂泊中の大洋丸に気付かず,同船を避けることなく進行して衝突を招き,桝宏丸にはほとんど損傷を生じなかったものの,大洋丸の右舷後部外板を破損し,後部甲板上の操舵スタンド及びローラーを損傷する事態を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,愛知県佐久島北西方沖合において,漂泊して揚網作業を行う場合,接近する他船を見落とすことのないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,航行中の他船が漂泊中の自船を避けてくれるものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,自船に向首進行してくる桝宏丸に気付かず,警告信号を行うことも,中立運転中の機関のクラッチを入れて移動するなど,衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて衝突を招き,前示の事態を招くに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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