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平成17年横審第22号
件名

貨物船第百二十六鳳生丸漁船第二十幸洋丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年6月15日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒岩貢,岩渕三穂,古城達也)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:第百二十六鳳生丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:第百二十六鳳生丸甲板員 海技免許:四級海技士(航海)(履歴限定)
C 職名:第二十幸洋丸船長 海技免許:三級海技士(航海)

損害
第百二十六鳳生丸・・・右舷船首外板に擦過傷
第二十幸洋丸・・・左舷後部ブルワークに曲損

原因
第百二十六鳳生丸・・・見張り不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第二十幸洋丸・・・動静監視不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,第百二十六鳳生丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る第二十幸洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが,第二十幸洋丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年1月16日21時33分
 伊豆半島東方沖合
 (北緯34度44.0分 東経139度09.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第百二十六鳳生丸 漁船第二十幸洋丸
総トン数 499トン 379トン
全長 68.81メートル 55.97メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 735キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第百二十六鳳生丸
 第百二十六鳳生丸(以下「鳳生丸」という。)は,平成8年11月に進水した可変ピッチプロペラを備える船尾船橋型貨物船で,船首部にジブクレーンを装備して専ら砂利,鉄粉等の輸送に従事していた。
 船橋内の機器配置は,前部中央に操舵スタンドが,その左舷側に2台のレーダーが,右舷側にエンジンテレグラフ,機関遠隔制御装置等がそれぞれ設置され,操舵スタンド後方からレーダー後方にかけて長さ約1.2メートル,座面の高さが床面から約0.75メートルの長椅子が置かれていた。
イ 第二十幸洋丸
 第二十幸洋丸(以下「幸洋丸」という。)は,平成3年6月に進水した可変ピッチプロペラを備える鋼製漁船で,まぐろ延縄漁業に従事していた。
 船橋内の機器配置は,前部中央に操舵スタンドが,その左舷側にレーダー,磁気コンパス等が,右舷側に魚群探知機,レーダー,プロッター,機関遠隔制御装置等が,磁気コンパス後方に海図台がそれぞれ設置され,船橋右端に固定式の椅子が置かれていた。

3 事実の経過
 鳳生丸は,A,B両受審人ほか5人が乗り組み,鉄粉1,530トンを積載し,船首3.7メートル船尾5.1メートルの喫水をもって,平成15年1月15日17時40分広島県福山港を発し,千葉県千葉港に向かった。
 A受審人は,船橋当直を自らと一等航海士及び海技免許を受有する甲板員(以下「二等航海士」という。)による3ないし5時間の単独輪番制としていたところ,同14年秋からはB受審人を当直員に加え,主に昼間の単独当直に就けていた。また,A受審人は,当直時間帯については各当直者にその都度指示するようにしており,福山港出港の翌日の当直について,鳴門海峡から潮岬沖合に達する06時までを自らが,B受審人に06時から10時までを,その後一等航海士,二等航海士の順に5時間ずつ当直に当たるよう指示していた。
 翌16日昼ごろA受審人は,二等航海士の当直が終わる20時からの当直者を決める際,同時刻には伊豆半島東方沖合の神子元島付近にさしかかって船舶が輻輳することが予測され,B受審人の夜間単独当直経験が少ないことも承知していたが,同人がすでに数十回昼間の単独当直経験を積んでおり,また,横切り船の少ないところなので夜間の同海域においても十分に当直を行うことができるものと思い,自らまたは航海士がB受審人とともに入直し,2人で当直に当たるなどの安全措置を十分にとることなく,B受審人を20時から単独で当直を行わせることとし,同人にその旨を指示した。
 20時少し前B受審人は,当直交代のため石廊埼南方沖合で昇橋したところ,前直の二等航海士から船舶の多い海域なのでしばらくの間自分も在橋する旨の申し出があったため,所定の灯火の点灯を確認して同人とともに当直に就き,伊豆半島と神子元島の間を東行した。
 20時55分B受審人は,爪木埼灯台から135度(真方位,以下同じ。)1.8海里の地点に達したとき,針路を050度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ,14.2ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行し,21時ごろ行き会い船がいなくなって二等航海士が降橋してからは,レーダー後方の長椅子に腰を掛けた姿勢で続航した。
 そのころB受審人は,レーダー画面に映る船首方5海里付近の同航船に注目し,やがてそれらが自船から遠ざかっていることが分かると,左舷前方に見え始めた静岡県賀茂郡東伊豆町稲取の街明かりを見ながら当直を続けた。
 21時23分B受審人は,稲取岬灯台から137度4.9海里の地点に至ったとき,右舷船首56度1,600メートルに第二十幸洋丸(以下「幸洋丸」という。)の白,白,紅3灯を認めることができ,その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが,陸岸の街明かりに気をとられ,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,機関を減速するなどして同船の進路を避けないまま続航した。
 21時33分少し前B受審人は,ふとレーダー画面に目をやったとき,中心輝点近くに映像を認め,顔を上げると右舷船首方間近に幸洋丸の紅灯を認めたことから,直ちに機関回転数を下げ,自動操舵の針路設定ノブを左に回したが及ばず,鳳生丸は,21時33分稲取岬灯台から112度5.5海里の地点において,ほぼ原針路,原速力のまま,その船首が幸洋丸の船体後部に後方から20度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力3の西北西風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
 A受審人は,自室で休息していたところ,小さな衝撃とともに機関が減速したことに気付き,急ぎ昇橋して衝突を認め,事後の措置に当たった。
 また,幸洋丸は,C受審人ほか5人が乗り組み,空倉のまま,操業用資材積み込みの目的で,船首1.0メートル船尾3.5メートルの喫水をもって,同日16時45分静岡県清水港を発し,神奈川県三崎港に向かった。
 C受審人は,出港操船に引き続き単独の船橋当直に就き,日没後は所定の灯火を点灯して駿河湾を南下し,神子元島の南方を大きく迂回して20時40分爪木埼灯台から153度5.2海里の地点に達したとき,針路を相模湾に向く034度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ,12.2ノットの速力で進行し,21時10分稲取岬灯台から157度6.7海里の地点に至ったとき,針路を030度に転じて続航した。
 ところでC受審人は,転針前より左舷後方に鳳生丸の白,白,緑3灯を認めており,転針後の21時20分同船が左舷正横やや後方1海里に接近したことを知ったが,いちべつしただけで同航船と判断して同船から目を離し,船首方からの反航船の有無に注意しながら進行した。
 21時23分C受審人は,稲取岬灯台から133度5.6海里の地点に達したとき,鳳生丸が左舷船尾76度1,600メートルとなり,その後自船の前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが,依然,同航船だから大丈夫と思い,動静監視を十分に行っていなかったので,このことに気付かず,警告信号を行うことも,さらに接近するに及んで衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航中,21時33分少し前左舷側間近に鳳生丸の灯火を認め,機関を増速して避けようとしたが及ばず,ほぼ原針路,原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,鳳生丸は右舷船首外板に擦過傷を,幸洋丸は左舷後部ブルワークに曲損をそれぞれ生じたが,その後,幸洋丸は修理された。

(航法の適用)
 本件は,夜間,鳳生丸,幸洋丸の両船が北東進中,鳳生丸が,幸洋丸の正横後14度方向から接近して衝突したもので,互いに進路を横切る態勢であったものと認められる。両船とも法定灯火を掲げており,見張りを十分に行っていたなら,互いに横切りの態勢で接近していることを明確に認識でき,避航も可能であった。
 従って本件は,海上衝突予防法第15条横切り船の航法において律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 鳳生丸
(1)B受審人の夜間当直経験が浅かったこと
(2)B受審人が,伊豆半島東方沖合の夜間単独当直は初めてであったこと
(3)B受審人が当直に就いた地点が船舶が輻輳する海域であったこと
(4)A受審人が,B受審人の夜間当直も可能と判断して船舶が輻輳する海域の夜間単独当直を行わせ,自らまたは航海士と2人当直とするなどの安全措置をとらなかったこと
(5)B受審人が,二等航海士が降橋後,ほとんど椅子に腰をかけた姿勢で当直に就いていたこと
(6)B受審人が,前路の同航船や陸岸の街明かりに気をとられ,周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(7)B受審人が,幸洋丸の進路を避けなかったこと

2 幸洋丸
(1)C受審人が,鳳生丸が接近したことを認めた後,同航船だから衝突することはないと思い,動静監視を十分に行わなかったこと
(2)C受審人が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件衝突は,鳳生丸が見張りを十分に行っていたなら,幸洋丸を視認することができ,その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近することが分かり,同船の進路を避けることができたものと認められる。
 したがって,B受審人が,見張りを十分に行わなかったこと及び避航動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 B受審人が,夜間当直経験が浅かったこと,伊豆半島東方沖合が船舶の輻輳する海域であること,同海域の夜間当直が初めてであったことは,それぞれ本件発生と相当な因果関係があるとは認められないが,これらの事項を考慮すると,本件当時の当直は,船長または航海士との2人当直とすべきであり,A受審人が,このような安全措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 B受審人が,椅子にかけた姿勢のまま当直に就いていたことは,本件発生の過程で関与した事実であるが,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,長時間,同じ場所で同じ姿勢をとることは窓枠等に遮られて他船を見落とす可能性もあり,海難防止の観点からは是正されるべき事項である。
 一方,幸洋丸が鳳生丸の動静監視を十分に行っていたなら,同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近することが分かり,警告信号を行うことも,協力動作をとることもできたものと認められる。
 したがって,C受審人が,鳳生丸の動静監視を十分に行わなかったこと,同船と衝突のおそれがある状況となったときに警告信号を行わなかったこと,間近に接近しても協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,伊豆半島南東方沖合において,鳳生丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る幸洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが,幸洋丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 鳳生丸の運航が適切でなかったのは,船長が,当直経験の浅い甲板員に船舶が輻輳する海域の夜間当直を行わせる際,船長または航海士との2人当直とするなどの安全措置を十分にとらなかったことと,甲板員が見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,伊豆半島東方沖合の船舶が輻輳する海域における夜間当直を当直経験の浅い甲板員に行わせる場合,自らまたは航海士との2人当直とするなどの安全措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,甲板員が昼間の単独当直経験を十分に積んでおり,また,横切り船の少ないところなので夜間の同海域の当直も可能と思い,安全措置を十分にとらなかった職務上の過失により,甲板員の当直中,幸洋丸との衝突を招き,自船の右舷船首外板に擦過傷を,幸洋丸の左舷後部ブルワークに曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,伊豆半島東方沖合において,単独の船橋当直に就いて航行する場合,前路を左方に横切る幸洋丸を見落とさないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,左舷方陸岸の街明かりに気をとられ,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,幸洋丸の接近に気付かず,その進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は,夜間,伊豆半島東方沖合において,単独の船橋当直に就いて航行中,左舷正横やや後方に鳳生丸の灯火を認めた場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,いちべつしただけで同航船だから大丈夫と思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,鳳生丸の接近に気付かず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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