(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年4月23日20時00分
静岡県伊東港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三善照丸 |
総トン数 |
19.98トン |
登録長 |
14.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
160 |
3 事実の経過
第三善照丸(以下「善照丸」という。)は,一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,A受審人(昭和50年1月一級小型船舶操縦士免許を取得し,平成16年10月一級及び特殊の小型船舶操縦士免許に更新した。)が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.8メートル船尾1.8メートルの喫水をもって,平成16年4月11日09時00分静岡県手石港を発し,伊豆諸島八丈島周辺海域に至って操業を続け,きんめだい約600キログラムを獲て,同月23日01時00分青ヶ島西方沖合の漁場を発し,水揚げのため,同県伊東港に向かった。
ところで,伊東港は,伊豆半島東岸に位置し,北東方に開口した港で,港奥の陸岸から沖合50ないし150メートルのところには,北西方に延びる東防波堤先端の伊東港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から264度(真方位,以下同じ。)240メートルの地点を南東端とし,岸線とほぼ平行して北西方向に,堤の周囲に消波ブロックを積み重ねた長さ約70メートルの離岸堤,同約60メートルの離岸堤,同約100メートルの離岸堤及び同約160メートルの離岸堤が,それぞれ約80メートルの間隔をもって直線状に整備されていた。
また,A受審人は,伊東港を水揚地として度々利用することがあって,これまで同港には数え切れないほど出入りした経験を有し,離岸堤の存在も承知していた。
漁場を発進したA受審人は,伊豆諸島を経て伊豆半島東岸沿いに北上を続けたのち,伊東港東方沖合の手石島に至り,これを左舷側近距離に付け回し,19時29分東防波堤灯台から075度1.2海里の地点で,針路を同灯台の少し北方に向けて260度に定め,機関を半速力前進にかけ,8.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
定針時A受審人は,伊東港を目前にし視界も良かったので,魚群探知機及びレーダーを休止し,その際GPSプロッター画面を見たところ,同港の防波堤付近に表示させていたマークの位置がずれていることに気付き,着岸する前に同プロッターの誤差修正を行う予定で続航した。
19時38分A受審人は,東防波堤灯台から335度180メートルの地点に達したとき,機関を中立として漂泊し,防舷材の取り付けや係留索の用意など着岸準備作業を始め,19時53分同灯台から280度170メートルの地点で,諸作業を終えて周囲を見渡したところ,折からの北北東風により南西方の港奥に圧流されたことを知り,GPSプロッターの誤差修正には時間を要することから沖出しすることとし,348度の針路で機関を微速力前進にかけ,5.0ノットの対地速力で沖出しを開始した。
19時55分A受審人は,東防波堤灯台から325度400メートルの地点に至ったとき,機関を中立として再び漂泊し,GPSプロッターの誤差修正を始めたが,沖出しにより港奥まで距離に余裕があるので大丈夫と思い,付近の灯光の見え具合を確かめるなり,レーダーを使用するなりして船位の確認を十分に行わなかったので,その後増勢した北北東風により,東方に船首を向けて215度方向に平均速力約1.7ノットで圧流され,離岸堤に著しく接近する状況に気付かないでいるうち,突然,衝撃を感じ,20時00分東防波堤灯台から287度395メートルの地点において,善照丸は,090度に向首した右舷後部が離岸堤北西端部に30度の角度で衝突した。
当時,天候は曇で風力6の北北東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
離岸堤衝突の結果,離岸堤に損傷はほとんどなかったが,善照丸は,右舷後部外板に破口を生じて右舷側に横転し,のち廃船となり,A受審人は,全身に打撲を負ったが,来援した僚船に救助された。
(原因)
本件離岸堤衝突は,夜間,静岡県伊東港において,漂泊してGPSプロッターの誤差修正中,船位の確認が不十分で,増勢した北北東風により港奥の離岸堤に圧流されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,静岡県伊東港において,漂泊して着岸準備作業中に折からの北北東風により港奥に向かって圧流されたことを知り,沖出ししたのちに再び漂泊してGPSプロッターの誤差修正を行う場合,圧流されて港奥の離岸堤に接近しないよう,付近の灯光の見え具合を確かめるなり,レーダーを使用するなりして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,沖出しにより港奥まで距離に余裕があるので大丈夫と思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,GPSプロッターの誤差修正中に増勢した北北東風により圧流され,離岸堤に著しく接近する状況に気付かないまま同堤との衝突を招き,右舷後部外板に破口を生じさせ,のち廃船させるとともに,自身が全身に打撲を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。