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平成17年横審第18号
件名

貨物船協和丸漁船海栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年6月7日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(田邊行夫,小寺俊秋,濱本宏)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:協和丸二等航海士 海技免許:四級海技士(航海)(履歴限定)
補佐人
B
受審人
C 職名:海栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
D,E,F,G

損害
協和丸・・・右舷後部外板に軽い凹損
海栄丸・・・右舷船首部を損壊,I甲板員が全治約10日間の頸椎捻挫の負傷

原因
協和丸・・・見張り不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
海栄丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,協和丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る海栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが,海栄丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月8日13時08分
 静岡県御前埼北東方沖合
 (北緯34度37.9分 東経138度18.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船協和丸 漁船海栄丸
総トン数 343トン 15.39トン
全長 52.83メートル  
登録長   15.59メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   160
(2)設備及び性能等
ア 協和丸
 協和丸は,平成9年1月に竣工した鋼製液体化学薬品ばら積船で,本件当時レーダーは休止中であった。
イ 海栄丸
 海栄丸は,昭和52年11月に進水したFRP製漁船で,ほぼ船体中央部に操縦室があり,本件当時は操舵室外側後部踏み台から遠隔操舵が行われていた。船首方の視界の妨げになる構造物として煙突があり,正船首から各舷約5度が死角になる状況であったが,本件当時,協和丸が接近してくる方向の視界を妨げるものはなく,レーダーも使用していた。

3 事実の経過
 協和丸は,船長H,A受審人ほか2人が乗り組み,空倉のまま,船首1.2メートル船尾3.2メートルの喫水をもって,平成16年5月8日10時40分静岡県清水港を発し,三重県四日市港に向かった。
 H船長は,船橋当直を単独4時間交替の3直制とし,自らは8時12時直に入り,A受審人を0時4時直に就け,当直心得を船橋に掲示してあったほか,不安を感じたとき,視界が悪化したときには報告するよう口頭で指示をしていた。
 A受審人は,12時00分静岡県焼津港の東方沖合でH船長から船橋当直を引き継いで単独の当直に入り,その後,船橋に置かれた椅子に座って当直に当たり,南下を続けた。
 13時01分A受審人は,御前埼灯台から056度(真方位,以下同じ。)6.0海里の地点で,針路を209度に定め,11.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,自動操舵によって進行した。
 13時05分A受審人は,右舷船首14度1.1海里に接近した海栄丸を視認できる状況であったが,漫然と椅子に座ったままで見張りを十分に行っていなかったので,同船の存在に気付かなかった。
 その後,A受審人は,海栄丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,このことに気付かず,同船の進路を避けないまま続航し,13時08分少し前至近に迫った海栄丸を初めて視認し,汽笛で短音1声を鳴らしたのに続いて,手動操舵に切り替えて左舵一杯としたものの及ばず,13時08分御前埼灯台から064度4.8海里の地点において,協和丸は,船首がわずかに振れて204度に向首したとき,原速力のまま,その右舷後部に海栄丸の右舷船首が前方から36度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力5の東南東風が吹き,視界は良好であった。
 また,海栄丸は,C受審人が,息子の甲板員Iと乗り組み,底びき網漁の目的で,船首0.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,同日02時30分焼津港を発し,御前埼南方沖合の漁場に向かった。
 C受審人は,05時半ごろ漁場に至り,その後,投網,揚網を繰り返したところ,11時半ごろ波が高くなってきたので,漁場を変えることとし,駿河湾内に向けた。
 次回の投網準備を終えたC受審人は,操舵室外側後部踏み台に立って遠隔操舵に当たり,13時01分御前埼灯台から065度3.7海里の地点に達したとき,GPSプロッターで次の漁場を確認し,針路を少し右に転じて,060度に定め,10.0ノットの速力で進行した。
 13時05分C受審人は,左舷船首17度1.1海里に協和丸を視認できる状況であったが,GPSプロッターの監視や時々かかる波しぶきに気をとられ,見張りを十分に行っていなかったので,同船の存在に気付かなかった。
 その後,C受審人は,協和丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,このことに気付かず,接近する同船に対して警告信号を行わず,更に間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航し,海栄丸は原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,協和丸は,右舷後部外板に軽い凹損を生じ,海栄丸は,右舷船首部を損壊し,のち海栄丸は修理され,I甲板員が全治約10日間の頸椎捻挫を負った。

(本件発生に至る事由)

1 協和丸
(1)A受審人が,レーダーを休止していたこと
(2)A受審人が,海栄丸を視認できる状況であったが,椅子に座ってボーとして前を見ていて衝突の直前まで同船に気付かず,海栄丸の進路を避けなかったこと

2 海栄丸
(1)風力5の東南東風が吹いておりC受審人が見張りをしていた位置に時々波しぶきがかかっていたこと
(2)衝突の直前まで協和丸の存在に気付かず,警告信号を吹鳴することなく,衝突を避けるための協力動作もとらなかったこと

(原因の考察)
 A受審人が,適切な見張りを行っていたなら海栄丸を視認でき,余裕ある時期に同船の進路を避けることができたと認められる。したがって,見張りを十分に行わず,海栄丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 C受審人が,適切な見張りを行っていたなら協和丸を視認でき,余裕ある時期に措置をとることができたと認められる。したがって,見張りを十分に行うことなく,警告信号を吹鳴せず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,レーダーを休止していたことは,本件衝突に至る過程で関与した事実であるが,本件事故と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,装備された機器の有効利用については,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 C受審人が見張りをしていた位置に時々波しぶきがかかっていたことは,本件衝突に至る過程で関与した事実であるが,見張りを完全に妨げる程ではなく,本件事故と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,速力を減じるなど見張りの確実性の向上については,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,御前埼北東方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,南下中の協和丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る海栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが,東行中の海栄丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,協和丸との衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,御前埼北東方沖合を南下する場合,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,漫然と椅子に座ったままで見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,海栄丸に気付かず,その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き,協和丸の右舷後部外板に軽い凹損を生じ,海栄丸の右舷船首部を損壊し,I甲板員に全治約10日間の頸椎捻挫を負わせた。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は,御前埼北東方沖合を東行する場合,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,GPSプロッターの監視や時々かかる波しぶきに気をとられ,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作もとらないまま進行して協和丸との衝突を招き,前示のとおりの損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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