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平成16年門審第103号
件名

遊漁船佑慧丸漁船金比羅丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年5月24日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(千手末年,西林 眞,尾崎安則)

理事官
中谷啓二

受審人
A 職名:佑慧丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:金比羅丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
佑慧丸・・・左舷中央前部外板に破口及び同舷前部甲板に折損,釣客Dが頸部及び腰部打撲など,同Eが左腰部及び左大腿部打撲など,同Fが左膝裏面部及び右前脛部打撲などの負傷
金比羅丸・・・右舷船首外板に破口及び船首部外板に擦過傷,船長が前胸部打撲など約5日間の加療を要する負傷

原因
金比羅丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
佑慧丸・・・動静監視不十分,警告信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,金比羅丸が,見張り不十分で,漂泊中の佑慧丸を避けなかったことによって発生したが,佑慧丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月3日10時20分
 壱岐島北方沖合
 (北緯33度52.8分 東経125度45.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 遊漁船佑慧丸 漁船金比羅丸
総トン数 6.6トン 4.93トン
全長   11.76メートル
登録長 13.69メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 301キロワット  
漁船法馬力数   90
(2)設備及び性能等
ア 佑慧丸
 佑慧丸は,平成元年4月にCで進水したFRP製遊漁船で,船体中央やや後部に配置された客室後部の上段に操舵室が設けられ,客室前の甲板下に8個に区画した船倉及び生けす仕様の魚倉が配置され,操舵室には,前部の右舷側寄りに舵輪が,その右側に機関の遠隔操縦レバーが設けられ,前部窓際の棚に,右舷側から順に,レーダー,魚群探知器及びGPSプロッタがそれぞれ設置され,舵輪すぐ前の下部に電気式ホーンの電源及び作動用のスイッチが備えられていた。
 同船は,小型遊漁兼用船として登録されていたが,専ら遊漁船として使用され,遊漁を行うとき,パラシュート形シーアンカー(以下「シーアンカー」という。)を船尾から投入して漂泊するようにしており,シーアンカーには,直径21ミリメートル(以下「ミリ」という。)の合成繊維製アンカー索のほかに,その先端部に短いロープを介して大きな白色球体のフロート(以下「アンカーブイ」という。)及びアンカーブイに直径14ミリの合成繊維製のブイロープが取り付けられ,同ロープ巻込み用として船尾端中央部にリールウインチが設置されていた。
 そして,アンカーブイの揚収には,平素は同ウインチを遅巻きで使用するので,3ないし4分を要していたものの,緊急時には機関をわずかに後進にかけたのち,同ウインチを早巻きで使用すれば,約30秒で行うことができた。なお,シーアンカー本体は,手で繰り込んでいたので,揚収には6ないし7分かかることから,釣場を移動するときなどは,アンカーブイのみを揚収して船尾端の専用フックに掛け,シーアンカーを船尾方海中に引きずったまま航行していた。
 航海全速力は約30ノットで,同速力航行時の旋回径は約50メートルであった。
イ 金比羅丸
 金比羅丸は,昭和54年5月に進水したFRP製漁船で,船体後部に操舵室が,同室前部の甲板下に8個に区画された船倉,魚倉及び生けす仕様の魚倉が配置され,操舵室には,中央に舵輪が,その右側に機関の遠隔操縦レバーが設けられ,前部窓際の棚の舵輪前にマグネットコンパス,その左側にGPSプロッタが置かれ,左舷窓際の棚に,レーダー及び魚群探知器が配置されていたが,本件当時,レーダーは修理のため陸揚げされていた。また,機関の遠隔操縦レバーの後方には,座面高さが床から約40センチメートルとなる折りたたみ式のいす(以下「いす」という。)が右舷側壁に寄せて取り付けられ,その上の天井に見張り用の開口部が設けられ,平素はこれにかぶせ蓋をして風雨密とされていた。
 速力及び船首死角に関しては,航海全速力が約20ノットで,同速力で航行するとき,滑走状態となって船首浮上がほとんどなかったものの,半速力の約13ノットで航行するときには船首が浮上し,いすに腰掛けて見張りをすると,同位置における船首尾線に対し,船首方の右舷側に約6度,左舷側に約18度の範囲で,水平線が見えなくなる死角を生じる状況であった。

3 事実の経過
 佑慧丸は,A受審人が単独で乗り組み,遊漁の目的で,釣客4人を乗せ,船首0.4メートル船尾1.3メートルの喫水をもって,平成16年7月3日05時00分佐賀県呼子港を発し,壱岐島周辺の釣場に向かい,06時ごろ同島南東方の名島東側海域に至り,シーアンカーを投入して漂泊し,第1回目の遊漁を行ったのち,釣場を移動することとし,08時40分ごろアンカーブイを船尾端のフックに掛け,シーアンカーを船尾方海中に引きずったまま同海域を発し,約15ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で航行した。
 09時20分A受審人は,壱岐島魚釣埼の北北西方2.3海里ばかりの地点に至り,機関を停止して船尾からシーアンカーを投入し,アンカー索を約18メートル延出して船尾端右舷側のたつに結わえ,同左舷側のたつから出したロープを同索にY字形にとって係止し,リールウインチから出したブイロープを弛ませた状態で,船首を東方に向けて漂泊し,遊漁を開始した。
 10時15分A受審人は,魚釣埼灯台から351度(真方位,以下同じ。)2.3海里の地点で,船首が073度を向き,釣客が前部甲板の右舷側に2人,同左舷側に2人の配置で釣りを行い,自らは操舵室左舷側の甲板上で手釣りによる釣りを行っていたとき,左舷正横1.1海里のところに,南下する金比羅丸が存在したが,釣りに夢中になっていて,同船の存在に気付かなかった。
 10時18分A受審人は,左舷正横800メートルのところに来航する金比羅丸を初認し,その後同船の方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが,自船がシーアンカーを入れて漂泊しているので近付けば同船が避けてくれるものと思い,動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,警告信号を行うことなく,更に接近してもリールウインチを早巻き状態としてアンカーブイを専用フックに取り込んで前進するなど,衝突を避けるための措置をとることなく,手釣りをしながら漂泊を続けた。
 10時19分半A受審人は,金比羅丸が同方位200メートルに接近したのを認め,その後その接近状況を見守ったものの,それまで動静監視を十分に行っていなかったので,同船が衝突のおそれがある態勢で接近していると判断できず,同船の避航動作のみを期待して,依然として警告信号を行うなど,衝突を避けるための何らの措置をもとらないでいるうち,同時20分わずか前同船が左舷方至近に迫って危険を感じ,操舵室に駆け上がり電気式ホーンのスイッチを操作したが,慌てていて電源スイッチを入れておらず,外に出て両手を振って合図したが,及ばず,10時20分魚釣埼灯台から351度2.3海里の地点において,佑慧丸は,船首が073度を向いて漂泊状態のまま,その左舷中央前部に,金比羅丸の船首が直角に衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の西風が吹き,視界は良好であった。
 また,金比羅丸は,B受審人が単独で乗り組み,いさきを対象魚とした一本釣り漁を行う目的で,船首0.45メートル船尾1.00メートルの喫水をもって,同日04時00分長崎県芦辺漁港を発し,05時ごろ若宮灯台の北北東方5.3海里ばかりの漁場に至り,手釣りによる操業を開始した。
 09時ごろB受審人は,いさきを80尾ばかり漁獲したところで,釣果が落ちたことや,台風が接近中で港内における係留準備の必要があったことから,いつもより早めに操業を切り上げ,帰途中にもう一つの漁場の魚影反応を見ることとし,09時50分前示漁場を発し,南下を開始した。
 10時07分B受審人は,魚釣埼の北北西方4海里ばかりの漁場に至り,魚群探索をしたものの魚影反応がなかったので,帰途に就くこととし,手釣りの道具を収納し,同時12分魚釣埼灯台から347.5度4.0海里の漁場を発し,機関を半速力前進にかけ,針路を163度に定め,13.0ノットの速力で,操舵室のいすに腰掛けた姿勢で手動操舵によって進行した。
 ところで,B受審人は,3日ばかり前の入港時に操舵室天井開口部のかぶせ蓋を閉め忘れて帰宅し,同室の機器類が雨で濡損を生じたことから,同蓋を開けたくない思いがあって,その日以来,開口部から顔を出した姿勢をとらずに,同室床に立った姿勢をとって,船首死角を補うようにしていた。
 そして,B受審人は,平素,操業時に使用する氷を前部魚倉に約200キログラム積んだ状態として出漁していたことから,いすに腰掛けたときに生じる船首死角が,同室床に立った姿勢をとると,船体のピッチングなどと相俟って概ね解消されていたものの,前日の入港時において,台風接近時の休漁を考慮して新たに氷を積み込まず,当日は魚倉に約30キログラムの氷が残存するのみで出漁していたので,13.0ノットの速力で航行すると,平素よりも船首浮上が増加し,同室床に立っても船首死角が解消されず,同死角を補うには,立った姿勢で船首を左右に振るなり,いすの上に立ち開口部から顔を出した姿勢をとるなりして見張りを十分に行わなければならない状況となっていた。
 10時15分B受審人は,魚釣埼灯台から349度3.35海里の地点に達したとき,正船首1.1海里のところに船首を東方に向け漂泊中かあるいは停留中と分かる状態の佑慧丸が存在したが,漁場を発進するときに周囲を一瞥(いちべつ)して他船を認めなかったことから,前路に他船はいないと思い,いすから立ち上がって船首を左右に振るなり,天井開口部から顔を出すなりして船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので,同船の存在に気付かず,いすに腰掛けた姿勢のままで,右舷船首方に魚釣埼の小高い丘を望み,同丘の方向と船首の開き加減を見ながら,同じ針路及び速力で続航した。
 10時18分B受審人は,魚釣埼灯台から350度2.7海里の地点に達したとき,正船首800メートルのところに佑慧丸を視認でき,その後漂泊している同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが,依然として船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,同船を避けないまま進行中,同時20分少し前右舷前方至近の海面上に白色の大きな球体を認め,立ち上がって操舵室の右舷側外に出て見たものの,ビーチボールが漂流しているものと思って操舵室に入ろうとしたとき,衝撃を受け,金比羅丸は,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,佑慧丸は左舷中央前部外板に破口及び同舷前部甲板に折損を,金比羅丸は右舷船首外板に破口及び船首部外板に擦過傷をそれぞれ生じ,佑慧丸の釣客Dが衝撃で海中に転落し,救助されたものの,頸部及び腰部打撲など,同Eが左腰部及び左大腿部打撲など,同Fが左膝裏面部及び右前脛部打撲など,B受審人が前胸部打撲などでそれぞれ約5日間の加療を要する傷を負った。

(航法の適用)
 本件は,壱岐島北方沖合において,シーアンカーを投入して漂泊中の佑慧丸と漁場から帰航中の金比羅丸とが衝突したものであり,同海域は港則法及び海上交通安全法の適用がないから,一般法である海上衝突予防法によって律することになる。
 海上衝突予防法には,漂泊中の船舶は航行中の船舶の範疇にあり,両船の関係について個別に規定した条文はないから,同法第38条及び第39条の規定によるのが相当である。

(本件発生に至る事由)

1 佑慧丸
(1)A受審人が,シーアンカー索を船尾にY字形にとって,すぐに移動できない状況としていたこと
(2)A受審人が,左舷正横800メートルのところに来航する金比羅丸を初認したが,釣りを続けたこと
(3)A受審人が,自船がシーアンカーを入れて漂泊しているので近付けば相手船が避けてくれるものと思い,動静監視を十分に行わなかったこと
(4)A受審人が,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったこと
(5)A受審人が,金比羅丸が200メートルに接近したのを認めたものの,同船の避航動作のみを期待して,警告信号を行うなど,衝突を避けるための何らの措置をもとらなかったこと

2 金比羅丸
(1)B受審人が,前部魚倉に新たに氷を積まず,残存する約30キログラムの氷のみで出港したことにより,船首浮上が平素よりも増大していたこと
(2)レーダーが故障して,修理のため陸揚げされていたこと
(3)B受審人が,3日ばかり前天井開口部のかぶせ蓋を閉め忘れ,雨で機器に濡損を生じたことから,同蓋を開けたくない思いがあったこと
(4)B受審人が,漁場を発進するとき周囲を一瞥したものの他船を認めなかったことから,前路に他船はいないと思ったこと
(5)B受審人が,立った姿勢をとって船首を左右に振るなり,いすの上に立って開口部から顔を出した姿勢をとるなりして船首死角を補う見張りを十分に行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は,壱岐島北方沖合において,佑慧丸が,シーアンカーを入れて漂泊中,一方,金比羅丸が,芦辺漁港に向けて帰航中に発生したものである。
 佑慧丸が,衝突の2分前に左舷正横800メートルのところに来航する金比羅丸を初認しており,その後同船の動静監視を十分に行っていれば,その方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近していることが分かり,警告信号を行うことができ,更に接近したとき,リールウインチを早巻き状態としてアンカーブイを専用フックに取り込んで前進するなど,衝突を避けるための措置をとることができたものであり,その措置をとることを妨げる要因は何ら存在しなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,自船がシーアンカーを入れて漂泊しているので近付けば金比羅丸が避けてくれるものと思い,動静監視が不十分となり,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。
 次に,A受審人が,シーアンカー索を船尾にY字形にとって,すぐに移動できない状況としていたことは,ウインチを早巻きすれば約30秒でアンカーブイを揚げてシーアンカーを海中に浸けたまま前進操船が可能であり,衝突を避けるための措置をとることができたと認められることから,本件発生に至る過程で関与した事実ではあるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない,しかしながら,シーアンカー索を船尾側にY字形にとれば,緊急時にすぐに前進できないばかりか,同索の解き放しが迅速にできず,また,機関の後進が短時間しかかけられないなど,操縦性に影響を及ぼすものであり,このことは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 また,A受審人が,衝突の2分前,左舷正横800メートルのところに来航する金比羅丸を初認したが,釣りを続けたことは,釣りをしていても接近する他船の動静監視を行うことができると認められることから,本件発生に至る過程で関与した事実ではあるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない,しかしながら,遊漁船の船長は,釣客に釣りを楽しませるほか,同客を港まで安全に連れ帰る使命があるのであるから,他船の接近を知ったときは避航措置をとる手段を考慮しながら,その動静監視を細心の注意を払いつつ続けなければならないものであり,このことは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 さらに,A受審人が,金比羅丸が200メートルに接近したのを認めたものの,同船の避航動作のみを期待して,警告信号を行うなど,衝突を避けるための何らの措置をもとらなかったことは,衝突の2分前の金比羅丸を初認した時点から動静監視を十分に行っていれば,同船が衝突のおそれがある態勢で接近していることが分かるものであり,前段の措置が確実にとられていれば,この項はあり得ないのであるから,原因とするまでもない。しかしながら,B受審人が衝突の直前に右舷前方に白色の大きな玉(アンカーブイ)を視認し,その少しのちに衝突しており,同人がこの時点で警告信号の音響を聴いていれば,辛うじて衝突を避けるための措置がとれたと認められることから,相手船の避航動作のみに期待せず,衝突のおそれがあるかどうか分からないときは,積極的に衝突を避けるためのあらゆる措置をとることが肝要であり,安全意識の高揚が求められる。
 一方,金比羅丸は,衝突の2分前には正船首800メートルのところに東方を向いた佑慧丸を視認でき,その後同船が東方を向いて動かないことから,漂泊中であることや,同船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近していることが分かり,同船を避ける措置をとることができたものであり,その措置をとることを妨げる要因は何ら存在しなかったものと認められる。
 したがって,B受審人が,漁場を発進するとき周囲を一瞥したものの他船を認めなかったことから,前路に他船はいないと思い,立ち上がって船首を左右に振るなり,いすの上に立って開口部から顔を出すなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 次に,B受審人が,3日ばかり前,天井開口部のかぶせ蓋を閉め忘れて雨で機器に濡損を生じたことから,同蓋を開けたくない思いがあったことは,本件発生に至る過程で関与した事実ではあるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない,しかしながら,このことは,死角範囲内の前方海面が全く見えないまま航行するという危険極まりない見張り態勢につながり兼ねず,入港した時点で開口部の蓋を確実に閉めることを励行し,半速力航行中は,同開口部の蓋を開けて船首死角を補う見張りを行うなど,見張りにかかわる安全意識の高揚が求められる。
 また,B受審人が,前部魚倉に新たに氷を積まず,残存する約30キログラムの氷のみで出港したことにより,船首浮上が平素よりも増大していたこと,レーダーが故障して修理のため陸揚げされていたことは,立った姿勢で船首を左右に振るなり,開口部から顔を出して見張りを行えば,船首死角を補えたと認められることから,本件発生に至る過程で関与した事実ではあるが,本件と相当な因果関係があるとは認められず,原因とするまでもない。しかしながら,船首浮上が平素よりも増大していたことは,見張り方法に関して,床に立った姿勢をとるだけで船首死角がほぼ解消されていたものが,ほかの手段をとらなければならなくなったものであり,これが氷の適量積込みで是正できるのであるから,今後は,積極的に船体のコンディションを最良の状態として安全運航に努めなければならない。

(海難の原因)

 本件衝突は,壱岐島北方沖合において,漁場から帰航中の金比羅丸が,見張り不十分で,前路でシーアンカーを投じて漂泊中の佑慧丸を避けなかったことによって発生したが,佑慧丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)

 B受審人は,壱岐島北方沖合において,漁場から帰航する場合,船首浮上によって前方に死角を生じていたから,前路の他船を見落とさないよう,立った姿勢をとって船首を左右に振るなり,いすの上に立って開口部から顔を出すなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,漁場を発進するとき周囲を一瞥して他船を認めなかったことから,前路に他船はいないと思い,同死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,シーアンカーを投じて漂泊中の佑慧丸に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,佑慧丸の左舷中央前部外板に破口及び同舷前部甲板に折損を,金比羅丸の右舷船首外板に破口及び船首部外板に擦過傷をそれぞれ生じさせ,佑慧丸の釣客Dに頸部及び腰部打撲など,同Eに左腰部及び左大腿部打撲など,同Fに左膝裏面部及び右前脛部打撲などのそれぞれ約5日間の加療を要する傷を負わせ,自らも前胸部打撲などの約5日間の加療を要する傷を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は,壱岐島北方沖合において,遊漁の目的でシーアンカーを投じて漂泊中,来航する金比羅丸を認めた場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,自船がシーアンカーを入れて漂泊しているので近付けば金比羅丸が避けてくれるものと思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けて衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせ,釣客3人及びB受審人に前示の傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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