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平成17年門審第5号
件名

遊漁船三笠丸モーターボートバビロン衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成17年5月13日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:三笠丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:バビロン船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
三笠丸・・・ない
バビロン・・・操舵室損壊,右舷中央部に亀裂などの損傷

原因
三笠丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
バビロン・・・見張り不十分,注意喚起信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,三笠丸が,見張り不十分で,錨泊中のバビロンを避けなかったことによって発生したが,バビロンが,見張り不十分で,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月23日03時30分
 志布志湾

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船三笠丸 モーターボートバビロン
全長   7.42メートル
登録長 9.25メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 169キロワット 105キロワット

3 事実の経過
 三笠丸は,船体ほぼ中央部に操舵室を有し,レーダーを装備しない一層甲板型FRP製遊漁船で,平成12年9月に一級小型船舶操縦士の免状の交付を受けたA受審人が1人で乗り組み,釣客3人を乗船させ,遊漁の目的で,船首0.30メートル船尾0.80メートルの喫水をもって,同16年9月22日17時00分宮崎県福島港を発し,18時ごろ同県都井岬西方2海里ばかりの釣場に到着して遊漁を行っていたところ,雨が降り出して風も吹き始めたので,翌23日03時ごろ船尾甲板に釣客3人を座らせ,法定の灯火を点灯して帰航の途に就いた。
 A受審人は,志布志湾ではいつも半速力で航走していたが,三笠丸が同速力で航走すると船首が浮上し,操舵室内の床面に立った姿勢では,正船首から左右両舷側約10度の範囲に水平線が見えなくなる死角を生じるので,釣場発進後は同室の両舷側に渡した板の上に立って天井開口部から顔を出して同死角を補い,船首遠方の福島港南方に集魚灯を煌々と点じた漁船の灯火を認めながら西行中,荒崎付近で操業中の僚船と遭遇したことから,一時停留し,渡し板から降りて同船の乗組員としばらく釣果の情報交換をしたり,また,その付近で再度遊漁をさせようかと思案したりしたが,当初の予定通り帰港することとした。
 03時28分少し前A受審人は,都井岬灯台から278度(真方位,以下同じ。)4.96海里の地点で,針路を305度に定め,機関をほぼ半速力前進にかけ,7.0ノットの対地速力で,手動操舵により進行したとき,正船首方500メートルのところにバビロンの表示する白灯を視認することができ,その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であった。しかしながら,A受審人は,前路には先に認めていた漁船以外に他船はいないものと思い,渡し板の上に立って船首死角を補う見張りを十分に行うことなく,操舵室の床に立った姿勢のままであったことから,バビロンが船首死角の中に入っていた,この状況に気付かず,バビロンを避けることなく,操舵室右舷側の窓から顔を出した見張りで続航した。
 こうして,A受審人は,03時30分わずか前,バビロンの表示する白灯を至近距離に認めるとともに機関を中立にして左転したが及ばず,三笠丸は,03時30分都井岬灯台から279度5.20海里の地点で,原針路,ほぼ原速力のまま,その船首部が,バビロンの右舷中央部に前方から80度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力2の北東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で視程は約4海里であった。
 また,バビロンは,レーダー及び汽笛を装備せず,サーチライトを装備していたが,有効な音響による信号を行うことができる手段を講じていない一層甲板型キャビン付FRP製モーターボートで,平成14年2月に四級小型船舶操縦士の免状の交付を受けたB受審人が1人で乗り組み,友人1人を乗船させ,魚釣りの目的で,船首0.47メートル船尾0.82メートルの喫水をもって,同16年9月22日17時30分福島港を発し,同港南南東方の釣場に向かった。
 18時ごろB受審人は,前示衝突地点付近の水深約30メートルの地点で,船首から重量25キログラムの鉄製六爪錨を投入し,直径約25ミリメートルの合成繊維製錨索を約50メートル延出して船首甲板上のクリートにこれを係止して錨泊を開始し,後部甲板上に展張した緑色のオーニングの下で竿により魚釣りを始めた。
 日没後,B受審人は,キャビン上方に白色全周灯及びオーニングの下面に後部甲板を照射する笠付き作業灯2個をそれぞれ点灯して釣りを行っていたが,翌23日00時過ぎから降り出した雨が激しくなったので,03時ごろ友人とともにキャビンに入って休憩した。
 03時28分少し前B受審人は,自船が045度を向首しているとき,右舷船首80度500メートルのところに三笠丸が表示する白,紅,緑3灯を視認することができ,その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況であった。しかしながら,B受審人は,自船は灯火を表示して錨泊しているから,他船が避航するものと思い,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,この状況に気付かず,三笠丸に対し注意喚起信号を行うことも,更に接近するに及んで機関をかけて衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊を続けた。
 こうして,B受審人は,雨が上がったことから,友人とともに,キャビン内で,魚釣り再開のため,釣道具の準備をしていたとき,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,三笠丸にはほとんど損傷がなかったが,バビロンは,操舵室を損壊し,右舷中央部に亀裂などを生じたが,のち修理された。

(原因)
 本件衝突は,夜間,志布志湾において,福島港に向け帰航中の三笠丸が,見張り不十分で,前路で錨泊中のバビロンを避けなかったことによって発生したが,バビロンが,見張り不十分で,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,志布志湾において,帰港の目的で,福島港に向け航行する場合,船首浮上による死角を生じていたから,前路で錨泊中のバビロンを見落とさないよう,操舵室の天井開口部から顔を出すなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,定針前,操舵室の渡し板の上に立って天井開口部から顔を出して前方を見ていたとき,遠方に集魚灯を煌々と点じた漁船の灯火を認めただけだったことから,前路に他船はいないものと思い,同板から降りて同室の床に立った姿勢のままで,船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,バビロンに気付かず,同船を避けることなく進行して衝突を招き,同船の操舵室を損壊し,右舷中央部に亀裂などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,志布志湾において,魚釣りの目的で,錨泊する場合,自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する三笠丸を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,自船が灯火を表示して錨泊しているから,他船が避航するものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,三笠丸に気付かず,同船に対し注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとることなく,錨泊を続けて衝突を招き,前示のとおり自船に損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図1
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参考図2





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